第136話 きっと勝ってきてください
古王の勾玉は『支配下の民の元気を少しずつ集めて王の戦闘力とするアイテム』らしい。
効力はスゲーわかりやすいけど……
「でも、どーやって使うんだろ?」
≪勾玉ヲ持チ、スベテノ民ヘ少シズツ元気ヲ分ケテクレト祈ルノデス≫
ピー助がそう教えてくれた。
そのまんまか。
俺は勾玉を胸の前に握り、そのように祈ってみる。
「む……むむっ」
すると勾玉は幻想的な蒼い光を放ち始めた。
パアアアアア……☆☆☆
透明な大理石のような石肌がマーブル模様の幻影のごとく耿々として9の字を巡っている。
「これでいいのか?」
≪成功デス。民カラ少シズツ元気ヲ徴収シマシタ≫
「本当かよ?」
≪ウソダト思ウナラ、ソノ場デ少々跳躍シテミテクダサイ≫
「えー」
俺は半信半疑でその場で軽くジャンプしてみる。
「とおッ……って、わッ!?」
その時、脚から超大なパワーを感じたかと思えば、俺の身体は浮遊し、ぐんぐん上昇していった。
ぴゅーん……!!
「す、すげー!」
空を飛んでいるのかとも思ったがそうじゃない。
これはジャンプだ。
その証拠に上昇はやがて失速し、下の人々が豆のように見えるほどの高さに達した時に、わずかに停止。
次の瞬間、落下が始まった。
……ところでこれ、どうやって着地すればいいんだ?
逆さのまま腕を組んでそう考える俺。
そのまま何の解決策も思いつかずにいると、頭の先からゴチンッと地面へ衝突してしまった。
「いでででで……ひでえ目に遭った」
≪ピー、ガガ……大丈夫デスカ?≫
大丈夫ですかじゃねーよ!
だが、まあ……すごいパワーではある。
墜落にはびっくりしたけど、冷静になればちっとも落下ダメージを受けてないし。
ただ、せっかくパワーが大きくてもコントロールできなきゃ意味がない。
「これは魔王戦までに練習しておかねーとな」
俺はぶつけた頭をさすりながらそうつぶやいた。
ところで。
秋祭が終わったということは同時に田畑の繁忙期が終わる。
つまり各々の村人たちも戦闘部隊の召集に応じてくれるということ。
そこで150人の戦闘部隊を地下に集め、総員で掘削者たちを護衛させていたのである。
これでヒヒイロカネ採集は劇的にスピードアップした。
「このペースなら戦士人数分の帷子とレギンス、それから剣くらいは作れそうだね」
と、リヴ。
やれやれ、S級に上がっていきなり魔王級クエストを任された時は正直ヤベーかもって思ったけど、どうやらこれで勝負になりそうだな。
今度の敵は最強の物理力を誇る獣王デストラーデ軍。
単純な物理力であってもあまりに圧倒的ならばねじ伏せられてしまうものだが、ヒヒイロカネ装備の戦士40名以上を持ってすれば対抗できるはずだ。
敵の最も得意とするところに対抗できるのなら、あとの魔砲撃や連携ならばこちらに分がある。
魔王戦のプランも立ってきた。
これで残る気掛かりはひとつだけだな。
そう。
五十嵐家の話……
俺と五十嵐さんの結婚式準備の話である。
◇
「というワケでイサオさん。俺と五十嵐さんの婚約はフリだったんだよ」
「そ、そうじゃったのですか……」
イサオさんはそう言って神妙な顔つきでお茶をすする。
そう。
先日五十嵐夫妻がとうとう式の準備を始めてしまうという差し迫った状況に至ったが、夫妻にはもう何を言っても通じそうがなかった。
そこで、まずはイサオさんにだけ本当の話をしておこうと考えたのである。
イサオさんは、孫娘の『まだ嫁に出たくない、仕事を続けたい』という気持ちを理解してくれている感じだったからな。
「しかし残念ですなあ。悦ちゃんが領主様と結婚してくれたら、ワシはもういつ死んでもいいと思ったんじゃが……」
「本当、すまなかった」
「いえいえ、領主様は何も悪くございませんですじゃ」
イサオさんは今や角刈りとなった自分の頭をなでながら続ける。
「どうですじゃろ? この件はワシに任せてくださらんかのう?」
「いいのか?」
そうしてくれるとマジ助かる。
正直、俺ではあの嵐のような五十嵐夫妻を止めることなどできそうにないからな。
「これでもワシが五十嵐家の最長老ですからのう。おやすい御用ですじゃ」
「そうか。悪いけどよろしく頼む」
「ええ、お任せくだされ……」
よかった。
これでなんとかなりそうだな。
◇
翌朝。
館ではあわただしくメイドが行ったり来たりしていた。
「領主様! もうすぐ出航ですよ!」
「わかってるよ」
俺はそう返事をしながら、クエスト用の服へと着替えた。
そう。
今日は魔王級クエストへ出発する日なのだが、ちょっぴり寝坊をしてしまったのだった。
「行ってきます!」
「エイガさま。これを……」
「え?」
玄関を出ようとした時に呼び止められたので振り返ると、ふいに五十嵐さんが俺の首の後ろへ両手を回した。
俺がびっくりして何も言えないでいると、やがて女は離れ、目を凝らさねば判別がつかないほどかすかにほほ笑んだ。
「……忘れないように、です」
気づくと、俺の胸元にはネックレスのようになった古王の勾玉が揺れている。
「ありがと。これ、紐つけてくれたのか」
「はい。それから……きっと勝ってきてください」
俺が深く頷くと、ガルシアやメイドたちもワッと声援を上げた。
お読みくださりありがとうございます!
次回もお楽しみに!
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