第134話 宝物庫
宴会の場は俺と五十嵐さんがいよいよ式を挙げると思い込んでたいへんな盛り上がりをみせた。
今は何を言ってもムダのようだ。
後日何か対応策を練ってなんとかしよう。
そう思ってなんとか寄合所から逃れようとした時。
「エイガさま……」
と、廊下で呼び止められて肝を潰す。
「ああ、びっくりした。五十嵐さんか」
「お話があるのですが」
女秘書はいつもの鋭い目付きでこちらをジッと見る。
もしかしてさっきの話を聞いて怒ってるのか?
そう思ってたじろぐが、話は全然別だった。
「こちらご覧ください」
女秘書はレディスーツの懐から一枚の手紙を出す。
差し出し元はザハルベルトに購入した拠点、旧・伯爵邸を任せている女商人べルルからだ。
「これは……?」
「はい。あの扉を開けるための文字を解読したものです」
マジで!
でも、どうやって……!?
「エイガさまは専門科を学びたいという領民たちにザハルベルト留学をさせてくださいました。彼らが通う大学に考古学と言語学の研究室がありましたので、そこへ依頼して解読してもらったのです」
な、なるほど……
「さすが五十嵐さん。これであの地下扉が開くぞ!」
「……石板に記された宝物があれば、きっと魔王級クエストも成功します」
「うん!」
俺は興奮ぎみに彼女の手を握り、何度もうなづくのだった。
◇
翌日。
関係者を集めて地下ダンジョンの扉へ行くと、俺は言った。
「じゃあ五十嵐さん。合言葉を頼む」
女秘書はうなずくと手紙を広げ、鋭い目付きでそれを読み上げた。
「……ひらけゴマ」
ゴゴゴゴ……
扉が開いていく。
「まさかそんな合言葉とは」
「思いつかなかったなあ」
「文字がわからなかったら永遠に開かなかっただろう……」
護衛に連れてきた戦闘部隊たちは後ろでそんなふうにささやいていた。
……さて、中へ入るとそこはまた通路になっていたが、どういうワケか明るかった。
床や壁は整然としたクリーム色のタイルで、なんだか不思議な感じだ。
「魔物も出ないようッスねー」
お宝鑑定員としてついてきたガルシアがそうつぶやく。
たしかに全然エンカウントしないな。
俺たち一行はすんなりと進み、やがて通路はひとつの部屋へと繋がった。
「うひょー! お宝ッスー!」
そこには見るからにレアそうな宝箱がひとつ、王のごとく台座の上に鎮座していた。
お宝に目のない商人なんぞは飛びついてしまうような出で立ちである。
が、その時。
「待て、ガルシア!」
「ぐえッ……」
とっさのことで後ろ襟を引いてしまうが、同時に彼の鼻先を光線のようなものがかすめる。
ギリギリで外れた光線は向かいの壁へ当たると軽い雷のような音を発してそこを焦がした。
「ひえええ!」
そして、腰を抜かすガルシアの向こうには、メタリックな装甲の人形のようなヤツが、腕の先に備え付けられている砲口をこちらに向けて立っていたのである。
魔物? なんで急に?
≪盗人ヲ発見……ピー、ガガ……排除スル≫
そこでふいに脳へ直接語りかけてくるような声が聞こえる。
そうか、魔物じゃない。
コイツはおそらく魔法動力のからくり人形。
≪排除、排除……ピー、ガガ……≫
宝を守る魔造人形ってわけだ。
「とは言え、黙って排除されるわけにもいかねーからな。者ども、やっちまえッ!」
俺が盗賊のごとく号令すると、控えていた戦闘部隊は剣に魔法にと攻め立てる。
チュイーン……!
しかし、魔造人形の方もスゲー強い光線銃で応戦してくるのだ。
「うわ、強いぞコイツ」
「硬すぎるッ! 剣が折れた!」
いかん、どうやら劣勢だ。
「杏子! 魔砲は溜まったか?」
「はい、先生!」
と言うので彼女に魔砲マギ・ランチャーを構えさせる。
「みんな、ヤツの動きを限定させろ!……そうだ。よし、薙ぎ払え!!」
……ちゅどーん!!
マギ・ランチャーは地下の部屋で撃つようなシロモノではない。
艦の主砲ペンタグラムには及ばないものの、機動性を確保した上で最大限の威力を追求した魔砲撃なのだ。
その威力と爆撃的な煙で敵の姿はもう見えない。
もくもくもく……
≪ピー、ガガ……排除スル……殲滅ス!!≫
しかし、やがて煙が晴れると、なんと魔造人形は一部品も欠けることもなくそこに立っていたのであった。
「先生、まったく効いていません!」
ええと……
「逃げるぞ! 今の戦力じゃヤツは倒せない!」
そう命じると戦闘部員たちはガルシアや五十嵐さんを守りつつ宝物庫から退避をはじめる。
「エイガさま、早く……!」
と、五十嵐さんに諫められるが、みんなの退避が完了するまでヤツを引き付けておく役がいる。
「しんどいけど、それは俺がやらねーとな」
そう覚悟を決めて銅の剣(+67)を抜いた時である。
≪ピー、ガガ……王?……≫
ふいに魔造人形はメタリックな腰を屈めて忠臣のごとくひざまずくではないか。
≪王ヨ……オカエリナサイマセ……ピー、ガガガガ≫
ど、どういうこと?
そう戸惑っていると、様子が変わったらしいことを見て退避していたみんなが帰ってきた。
さっきまでの敵対性がウソのように魔造人形がおとなしいのでみんな不思議そうにしていたが、そこで五十嵐さんがこんなことを言い出す。
「エイガさま。もしかすると、その銅の剣こそ『岩薙の剣』なのかもしれません」
「えー、そんなことある?」
でもたしかに、この剣は遠雲の領主就任の時に大王からその証として賜った宝剣だ。
「……はるか昔、なんらかの事情で超古代の王から大王の一族へ剣の所有が移ったということはあり得ます」
なるほど。
リヴのおかげでもあるが、この剣は無限に+が付いていっているしなぁ。
持ち主と共に成長するという石板の説明とも合致する。
≪ピピー、ガガ……王ヨ。宝物ヲ使用イタシマスカ……≫
そして、そのせいかコイツは完全に俺を古代王だと思ってしまっているらしい。
「う、うん。あの宝物が必要なんだ」
≪デハ、宝箱ヘ王タル証ヲ翳シ給ヘ≫
王たる証ってのは剣のことだよな?
俺は銅の剣(+67)を宝箱へとかざした。
更新続きます。





