第132話 扉
頭脳派って言ったって色々ある。
けど、ちょうど良さそうなのが掘削現場で祈祷していたので扉の前に呼んできた。
「むむむ、これは……」
「読めるのか? 将平」
将平はキリっとした眉で言った。
「まったく読めん」
なんだよそれ!
「しかしわかることもある」
「読めないのに?」
「ああ。ここには2種類の別の文字が使われているということだ」
そう言われてよく見てみると、確かに石板には中央にラインが引かれて上下で別種類っぽい文字が使われているようだった。
「両方とも読めないか?」
「読めない。しかし、上の方は極東の古代文字のようだな。親父なら読めるかもしれない」
「十蔵か」
そういうわけで俺たちは石板の文字を写し、吉岡神社へ向かった。
「どうだ? 十蔵」
「領主様。こりゃまたすごいものを見つけましたなあ」
吉岡神社の神主はそう言ってヒゲをなでる。
「そうなのか?」
「はい。上下のうちワシがわかるのは上の文字だけですがな」
ただし、装丁的に上下で同じことを別の文字で書いているだけっぽいらしい。
じゃあ上の文字だけわかりゃ十分だろ。
「内容は? なんて書いてあるんだ?」
「おおよそは古代地底人の歴史のようですな」
大昔。
極東の南の海に点在する島々を自在に行き来する海の一族がおったそうな。
彼らは高度な航海技術と魔法文明を持っていたが、ある時期に現世と地獄との境があやふやになってしまい、海や地上はモンスターに支配されてしまった。
そこで海の一族は宝を持って極東の地へ降り立ち、地下で生き延びようと考えたワケだ。
「宝? マジで?」
「本当かどうかはわかりませんがね。扉の奥には3つの宝物を収めてあると書いてありますぞ」
十蔵訳では以下。
1、古王の勾玉: 支配下の民の元気を少しずつ集めて王の戦闘力とする
2、八百の鏡: 真実を映し出す
3、岩薙の剣: 持ち主と共に成長する青銅の剣
「なんかスゴそうなお宝だな。わかんねーけど」
「うむ、そりゃスゴイでしょうな」
つまり、あの扉は宝物庫だったんだな。
どうりで重厚感たっぷりだったわけだ。
「で、扉の開け方は書いてあるのか?」
「それが……」
そこで十蔵は口ごもる。
「一応、合言葉があれば開くとあるのですがね」
「うん」
「その合言葉がちょうど欠けてしまっているようで」
何!?
「ほら。石板の右の上の部分だけ、風化してか人為的にか剥がれてしまっているでしょう? これでは扉を開けるための合言葉はわかりませんな」
「えー……」
たしかに。
十蔵が読めると言っていた石板の上側だけちょっと欠けている。
そこがちょうどキーワードってわけか。
惜しいな。
石板の下側は完璧に残っているのに……
つまり、下側の字さえ読めれば、宝が手にはいるのだ。
「エイガさま」
そこで俺の胡坐にタイトスカートの太ももをぴったりくっつけて正座していた女秘書が口を開いた。
「こちら、お任せください……」
「五十嵐さん! 下の字読めるの?」
そう尋ねるが、美人秘書はポニーテールと共に首を横に振る。
「……しかし、私に考えがあります。この写しをお預かりしてよろしいでしょうか?」
「そりゃ五十嵐さんがそう言うなら……」
というわけで、この件については彼女に任せることにした。
◇
扉のことはひとまず置いておいて、ヒヒイロカネの採取の体制を築いていくことにする。
まずは穴の登り降りをスムーズにするために、掘削者たちに頼んで近くの岩を階段状に掘ってもらった。
階段が穴底の低さまで達すると、そこから横穴を掘り、穴の場所まで道が通る。
そこにゾンビたちが上へ登ってこないようドアを作り、魔鉱石製の照明を配置したりすれば完成だ。
階段を降り、ドアを開ければすぐに空洞探索ができるってワケ。
ただし、ここの空洞に出現するモンスターはけっこう強い。
掘削者だけで採掘に向かうのは危険なので、冒険部隊の者を5人以上護衛につけて探索することをルールにする。
「とは言え、そんなに簡単には見つからないようだねえ」
最近はずっと地下に詰めているリヴがそうつぶやいた。
「そりゃ伝説の鉱石だからな。つーか、どれくらい採ればいいんだ?」
「それは作るモノによるよ。なににするかい?」
女鍛冶はそう言って図面の束を渡してきた。
砲塔、装甲、剣、杖、槍、防具……
ヒヒイロカネの加工を前提として設計されたアイテム図がいくつも描かれていて、まるでカタログのようだ。
「今度は魔王級クエストだからな。危険だし、防具を優先して作ってもらいたいんだが」
「防具かい……ちょっとオススメしないんだけどねえ」
リヴはため息をついて続ける。
「ヒヒイロカネはたしかに硬くて、軽い。でもね。身の守りに使うとなると魔法にはめっぽう弱いはずなのさ」
「そうなのか?」
「魔力伝導率が高いって言っただろ? つまり攻撃魔法を受けたとして、その魔力エネルギーを伝える率が高いってことだからね」
なるほど。
ただし次のクエスト、獣王デストラーデ戦に限ってはそれでも構わない気もする。
と言うのも、デストラーデ魔王軍は徹底した物理攻撃の部隊だからだ。
「せめて前衛剣士の防具だけでもヒヒイロカネでそろえたい。欲を言えば剣もかな。あと火力も必要だから主砲ペンタグラムの部品に……」
「ちょ、ちょいとお待ちよ! それじゃあとっくに原材料オーバーさ」
いけね。
「悪い悪い。理想を言えばって話だよ。配分についてはまた考えておくから」
「頼むよぉー」
それに今は収穫期だから掘削者を護衛する人員を確保できないけど、その後は大々的に採掘を始めることができよう。
現実ラインを考えるのはそれからでもいいだろ。
「じゃあリヴ。ちょっと地下のことは頼んだよ」
「おや? どうかしたのかい?」
俺は上着を羽織りながら答える。
「そろそろ秋の大祭だからな。さすがに顔出さねーと」
「やれやれ、領主サマってのも大変だねえ」
「別に、好きでやってんだからイイんだよ」
そう話しながら魔動トロッコの地下駅まで来ると、俺は地上へ向かってレバーを下した。
次回もお楽しみに!





