第131話 ヒヒイロカネ
ヒヒイロカネ。
それは極東に伝わる伝説の金属。
金剛石よりも硬く、羽のように軽いという。
「それだけじゃない。魔力伝導性が脅威的に高いからね。たとえば魔砲のパワーを一切逓減させずに融合することもできるかもしれない」
リヴは難しいことを言うなあ。
「とにかく。コイツを一定量集めることができればクエスト部隊の装備を大幅に増強できるってことだろ?」
「まあ、そうさね」
と、いうワケで。
ヒヒイロカネの採集のために、この深部ダンジョンを攻略することにする。
モンスターが出るらしいからな。
まずは地上から戦力を連れてこよう。
ただし、今は田んぼの収穫期であり、部隊の半数以上が実家や親戚の関係上稲刈りに召集されている。
田んぼや畑に関係の薄い村や家の者、チヨや杏子などを集め、15人ほどの戦力を確保した。
これにアキラを含めた掘削者3名を加えての探索である。
「まずは俺が降りるから。合図したらみんな降りて来いな」
「「「はーい!」」」
アキラにロープをセットしてもらうと、俺はそいつを伝い穴を降りていく。
硬い岩盤に囲まれた穴はひどく暗く、少し湿っていた。
時おり照明魔法【ライト】であたりを照らしてみるが、なかなか底が見えない。
やっぱりかなり深いんだな。
ガウチ、ガウチ……!
しばらく降りると足元からそんな音が聞こえてくる。
見下ろせば、底でゾンビみたいなのがこちらを見上げてぴょんぴょん跳ねているのが見えた。
よそで見たことがないモンスターだな。
地中奥底で独自に生まれた魔物なのかもしれない。
「キラドン!」
俺は右手でロープをつかみつつ、左手で炎系魔法を放った。
ガウチッ!……ガウチッ!ガウチッ!ガウチッ!
火炎に包まれたゾンビはのたうつ。
「今だ!」
俺はロープから手を放し、ままよと穴底へ向かって飛び降りた。
そして同時に空中でどうのつるぎを抜き、落下の勢いを利用して炎のゾンビへ攻撃する。
「らあッ!」
もう一度追撃するとゾンビは光の玉となって地の底へと消えていった。
思ったよりタフだが、攻撃は普通に通じるようだな。
「おーい。もう降りてきていいぞ!」
そう上へ向かって叫んでしばらくすると、ロープを伝ってくる女武闘家のふんどしのお尻がぷりぷりと見えてきた。
「そろったな。今日の目的は空洞の把握とその先のダンジョンの調査だ。やはりモンスターが出るから掘削者を守りながら行くんだぞ」
「「「はーい!」」」
支援系魔道士に索敵魔法【サーチ】を展開させて空洞を進んでいくと、思ったよりモンスターでうじゃうじゃなようだった。
さっきのみたいなゾンビ、弓スケルトン、大きな毒蜘蛛……
特に弓スケルトンの矢は暗闇から急に飛んでくるから厄介だ。
「領主様、後ろです!」
俺は反射的に後ろを振り返り、鼻先で矢をキャッチした。
「危ねー。おら!」
矢の飛んで来た方向へそいつを投げ返す。
すると岩場の上の方から骨の魔物がカランコロンと転げ落ちてきたので、即座に部隊の戦士たちが駆け、追撃して倒すことができた。
やれやれ。
これじゃ索敵魔法は必須だなあ。
さらに空洞は、最初は広かったものの次第にせまくなっていき、道も十字やY字に分かれるようになってくる。
この洞窟の道を把握し、ヒヒイロカネの掘れるポイントを知り、できれば地図を作りたいのだ。
「パーティを分けるか」
ただし攻略上、索敵魔法【サーチ】と通信魔法【トランシーバー】は必須だ。
今この場に支援系魔道士は2人しかいないので、俺を含めて3つの班にしておこう。
「じゃあチヨの班は右、杏子の班は左へ頼む。俺の班はまっすぐ行くから」
「はい先生!」
「ウチ、がんばるね!」
結果として班分けして正解だった。
洞窟は思ったよりも迷路で、広かったのだ。
ヒヒイロカネは簡単に見つかる鉱石ではなかったが、見つかれば通信魔法で申告がある。
数時間たつと、俺の班で1つ、チヨの班で3つ、杏子の班で2つ見つかった。
「そう言えばここから人工的なダンジョンに繋がっていたんだよな?」
ふと、俺はアキラに尋ねる。
「そだ。と、と、扉みでーのもあったど」
「空洞の迷路はけっこう調べ尽くしたし、今度はそっちへ行ってみようぜ」
そう言って俺は分けていた班を一度集めた。
そっちは強いモンスターが出たっていうしな。
で、アキラに案内してもらうと、岩の空洞はやがて石畳の通路へとつながった。
確かに人工的で、城みてーな作りだ。
地下遺跡ってわけか。
こんな地下奥深くに人が住んでいたなんてちょっと考えづらいんだが……
あらわれる魔物も、さっきのより強い。
ゾンビやスケルトンって種類は一緒なんだけど、微妙に色が違くて、攻撃力がありタフなのだ。
分けていた班を集めて来てよかった。
「りょ、領主。こっぢだ」
そして、ついに扉があらわれる。
想像していたよりもはるかに重厚だ。
高さは大人2~3人ぶんくらいか。
鐵の面に、漆塗の梁、マジカルな紋様が施され、まるで中にボスでも控えているかのような扉である。
「くそ、開かない……どうすりゃいいんだ?」
「わがんね。でも、あっぢになんか書いてあるど」
アキラの言う通り、扉の横には石板が埋め込まれており、そこには文字らしきものがびっしりと刻まれていた。
しかし……
「全然読めねー」
俺は頭を抱える。
極東の文字は毎日五十嵐さんに習ってんだけど、これはなんか微妙に違うんだよなー。
「読める人ー?」
と後ろに振り返ってみるが、この場にいる人間はすべて脳筋のメンツである。
シーン……
杏子は風のスカートの太ももをモジモジさせ、チヨは知らんぷりしてふんどしのお尻をぷりっと向ける始末。
しょうがねーな。
戻って頭脳派の方を頼るか。
毎日更新で行きたいです。





