第129話 恥ずかしながら
俺は正式に大王へ『魔王級クエストにかかる旨』奏上申し上げると、すぐに黒王丸に乗って遠雲へ帰った。
「ただいまー……」
館に着いて玄関のベルを鳴らす。
だが……しばらくしても応じない。
誰もいないのか?
やむをえず自分で鍵を開けて入り居間を見渡すが、やはりメイドたちの姿すら見当たらなかった。
全員出かけてるなんてめずらしいな。
そう思いながら鍵とタバコと財布をテーブルに放ると、俺はごろんとソファに寝ころがった。
「あー、疲れた……」
そうため息をつくと、久しぶりに見上げる天井の梁や、照明や、ソファやタンスなどの家具のひとつひとつが、あの大都会への旅を総がかりで尋ねてくるようで、かえって遠くザハルベルトでの出来事が思い出されてくる。
クロスが俺を責め立てるあの眼差し……
まさか、アイツがあんなふうに俺のことを憎んでいただなんて。
エマにもヒドイことを言ってしまったし。
お互いに好き合っていると思っていた女には泣かれ、こっぴどく振られてしまった。
「ティアナ……」
そうため息をついた瞬間。
見つめていた天井の羽目板がふいにススーっと一枚ずれた。
そして、暗い天井裏の奥から覆面の顔がひとつヌッとのぞきこんでくるものだからマジびびる。
「ぎゃああ!」
「エイガどの、あたくしですわ……女秘書はいらっしゃいませんわね?」
そう言ってシュタッと降りてきたのは他でもない。
西園寺華那子である。
「てめっ、マジざけんなよ!」
ガチ幽霊かと思ったじゃん(汗)
「あら? ごめんあそばせ」
「……ったく」
口を尖らす俺に、オホホホと口を押さえる女忍者。
「それはそうとお前、俺の家来になったんじゃないのかよ。今までなにやってたんだ?」
「あたくしは忍者。もちろん工作活動ですわ。このたびも重要な情報を入手いたしましたので参上いたしましたのよ」
「へえ、どんな?」
「エイガどのがプロポーズに失敗されたという情報ですわ」
何をスパイしてんだよ!
「嗚呼、エイガどの。おかわいそうに……」
「るせー、ほっとけよ」
「放っておきませんわ」
西園寺華那子はそう言って、ソファで寝転がっている俺の上にムッちり跨ってきた。
「わっ、なんだ? 下剋上か?」
「めっそうもございませんわ。せっかくエイガさまがフリーになったのですもの。この機会に今日こそ契っていただこうと思いますの」
俺の腹の上に尻を乗っけている女忍者は、後ろ手でカチャカチャとベルトを外しにかかる。
一見女豹のような肉食女子に見えるが……
「よお、今の俺にはシャレは通じねえぞ?」
俺はすでに彼女が処女ビッチだと見抜いているので余裕が持てる。
「……」
「いいのかよ」
「え、ええ。かまいませんわ。契っていただけるのなら……そしてエイガどのに一族に加わっていただきますの」
「一族って……」
そう言えば前にもそんなこと言っていたな。
「我ら西園寺家は極東全体の表裏に大きな影響力を及ぼす一族ですのよ。これぞ領主として『しかるべき妻』というものでございましょう?」
「なんだ、結局そういうことかよ」
「オホホ……それにエイガどのはこのような2500穀ぽっちの領主で収まっているべきお方ではございませんわ。魔王を倒し、我が一族の後ろ盾が加われば、天下取りすら成し遂げられましょう」
「天下?」
「そう、極東の天下統一ですわ」
西園寺華那子はひとつ高笑いをすると、急にキッと眼差しを変えて続けた。
「天下統一。それこそ我が一族の悲願ですの……そもそも極東は数千年間。列島であるがゆえに海に守られ、独立した天下観を持っておりました。しかし、今は魔動汽船の発達によって世界がせまくなり、商人や冒険者が押し寄せ、西方のモンスターの勢いは増幅し、文化圏を長期的に維持するに足る『境』を失くしてしまっている。これからさらに千年極東文化圏を存続させるためには、今までのような六十余州の領地に分かたれた連合体制のままではいられませんの。すべての領地の権限を大王の下に集約させた新しい中央政府が必要なのですわ」
なるほどそりゃまたずいぶんご立派な……というか壮大な目的意識だな。
「まあ、言いたいことはわかったけど、それと俺がどう関係してくるんだよ」
「おわかりになりませんの? 極東の領地すべてを平定し、中央集権政府を樹立する。そのような大事を成すためにはいわゆる『カリスマ的指導者』が求められますの。そう……」
そこで西園寺華那子はなんと覆面を取った。
露出する美しい顔立ち。
長い黒髪が絹のように靡き、花の香りがたつ。
「お、おい……」
呆気にとられていると彼女は俺の耳のそばで魅惑的にささやいた。
「そう。エイガどののようなカリスマ的指導者が……」
「……佞言※はよせッ!」
俺は反射的に拒絶する。
が、しかし、気づけば女忍者の姿はドロンと消えてしまっていたのだった。(※佞言:人にこびへつらい、たぶらかす言葉)
「え?……どこへ行った?」
唖然としていると、ふと裏庭の方のテラス窓がガラッと開く音がする。
……あちらへ行ったのか?
「ふんふーん、ふーん……」
いいや、ありゃ五十嵐さんの声だ。
部屋に誰もいないと思ってか、めずらしく鼻歌などしている。(まったく抑揚はないが)
「ふんふーん……」
やがて彼女は今取り込んでいたらしい洗濯物を持って俺の横を通り過ぎ、対面のソファへ腰をかけながら、
「よっこいしょういち……」
と洗濯物をタイトスカートの膝に乗せると、ぱっちり目が合った。
「……エイガさま、お帰りだったのですか」
「ああ。恥ずかしながらな」
そう答えると俺はちょっとホッとして、そのまま女秘書の洗濯たたみを見つめていた。
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