第125話 勇者の剣
「クロス!」
「エ、エイガ……」
呼びかけると、クロスは古代勇者の像の前でゆっくりと振り向いた。
ゲーテブルク城以来か。
いずれにせよ、ザハルベルトにいる間に会えてよかった。
俺はおのずと破顔して、ダッシュでヤツの方へいく。
「おーい。クロスー!」
「え、エイガ……来るな……」
像の下へ着いた時、クロスが何か小さくつぶやいたが、それは聞き取れなかった。
「え? どうした?」
「……」
聞き返しても何も言わない。
少し変に思ったが、時間もないし、俺はクロスの肩をガシっとつかんで言った。
「それよりクロス! 俺も来たぜ! ザハルベルトに!」
「……」
「お前と一緒には来れなかったけれど……あの頃話してた夢を俺も叶えたんだ」
「……」
後で考えればやはりアクアの言う通りクロスの様子はおかしかった。
なにも答えなかったし、目もうつろだったような気もする。
でも、その時はヤツの異常に気付いてやれずに、俺は興奮して話を続けてしまった。
「へへっ。お前はそんなこと気にするなって言うかもしれないけど……『勇者クロス』はもう大スターだし、どうしても以前みたいには付き合えなかっただろ? だから冒険者として対等の存在になりたい、またお前に認めてもらいたいって……そう思ってここまできたんだよ」
「エ……エイガ……」
「俺たちも必ず魔王を倒す。そしたら、また遊ぼうぜ。俺たちが死にたいくらいに憧れた、このザハルベルトで」
そこまで言った時だ。
肩に置いた俺の手を、クロスはわずらわしそうに払ってこう返した。
「なれなれしくするな」
「え……」
「S級に上がったくらいで対等な気か? お前なんかパーティをクビになった落ちこぼれのくせに」
そこでいつもやさしいかったクロスの瞳が、俺を激しくにらみつけているのに気づく。
「お、落ちこぼれ……だと?」
「そうさ。それでも昔なじみのよしみでまるっきりお荷物になったお前をしばらく置いてやっていたのに……こそこそとティアナと付き合っていたとはな」
「そ、それは……」
俺はパーティを解雇になる直前までクロスのティアナへの気持ちを知らなかったのだけど……
その件でやりきれない気持ちになるのはわかる。
でも、クロスってそういうことで人を恨むようなヤツだったろうか?
「ふん、どうせ卑怯な手でティアナをモノにしたんだろ? 飼い犬に手を噛まれた思いだ」
「そ……そんな」
勇者の言葉ひとつひとつに、俺の胸が凍っていく。
でもダメだ。
このままじゃ。
「クロス。話を聞いてくれ。俺は……」
「うるさい! 黙れ!」
俺はハッと息を呑む。
クロスが正義の剣を抜いたからだ。
――正義の剣。
古代勇者が使っていたと言われるその伝説の剣を、まだ俺とクロスとティアナの三人パーティだった時に探しにいった思い出が脳裏によみがえる。
火山口に眠るという勇者の剣、宝探しの冒険、回復の泉の妖精、頂上付近の深い霧。
あの時は大変だったけど、楽しかったな……
ズブッ!……ズズズ
あっ。
「……ぐッ……ゴホッ」
気づくと、そんな伝説の剣が俺の身をまっすぐに貫いていたのだった。
※明日8月5日に『育成スキルはもういらないと~』コミックス5巻が発売されます。ぜひご覧ください!
「面白い」「続きが気になる」「がんばれ」など思っていただけましたら、ブックマークや
↓の『☆☆☆☆☆』ボタンで応援いただけると大変励みになります!
次回もお楽しみに!





