第122話 エマ、今なんて?
魔王の出現地と時期を予言する予言庁。
その精度は勇者パーティのティアナ・ファン・レールが予言にたずさわるようになってから、より早く、正確なものとなっていた。
特にエイガの婚約を断った後、ティアナの預言頻度は本職のエルを超えている。
人類の平和に『度数』があるならば、彼女の働きによって確実にそれは上昇しているに違いない。
「キミも、やっと自分の本分がわかってきたようだね」
魔樹液で満たされたクリスタルの中から出て来たティアナに、大賢者エルはそう語りかけた。
黄金の液にひたひたと濡れそぼる女の裸体。
ティアナは息切れに弾む競泳水着の胸をぷいっと背けてつぶやく。
「あなたには関係ないことだわ」
「フっ、じきにそれもわかる。キミが恋だと思っていたもの、そんなものは幻想だったと」
エルは尖った耳をピンッと突っ立てて続ける。
「そんな幻想はぶっ壊したまえ。“理性ある者”の命とカネを最大多数化させる仕事に従事することこそ、男女かかわらず『社会人』が参画すべき合理的な大人の行動原理なのだから」
「……」
「我々に必要があるとするならば『パートナー』だ。そして、キミにとって誰がパートナーにふさわしいか。よく考えてくれたまえよ」
「……不愉快だわ。出て行って」
エルは肩をすくめると、予言の間を出て行った。
「ティアナさま……」
ティアナが魔樹液の滴る身体をタオルで拭いていると、ネコ耳職員のラナが言った。
「予言庁の職員の立場で言えば、ティアナさまが頻繁に予言にお越しになるのはありがたいことですニャ。正確な予言は人類の平和につながりますニャ。でも……あまり根をつめすぎるとお身体にさわりますニャ」
「ありがとう、ラナ。でも大丈夫よ。私こう見えて丈夫なの。それに……」
身体を拭き終えたティアナは、尻の側にピンクのリボンのしつらえられた白パンティを穿きながら答える。
「私、仕事に生きるって決めたのだわ」
「にゃ?」
ティアナはよじれたパンティの端を正して縫い目を規律正しく尻に沿わせると、赤いメガネをかけて、予言庁の12階の窓からザハルベルトの空を見た。
(これでよかったのだわ……)
メガネの向こうの青い瞳にまた涙がにじむ。
そんな時。
ふいに部屋の扉がバン!と音を立てて開いた。
「ティアナ先輩~!」
「きゃあ! 今着替え中よ!」
下着姿のメガネ娘はあわてて両腕で裸体を隠す。
「ひひひっ、女どおしなんだからいいじゃないですかww」
「え、エマ? どうしてここに?」
扉を開けたのはパーティの回復術士エマだった。
エルの天敵とも言えるこの少女がこれまで預言庁を訪れたことはなかったのに。
生意気な後輩はゴス調のドレスの胸をムッと威張らせながら答える。
「どうしてもこうしてもないですよ。エイガ先輩が今日ザハルベルトを発つって知らないんですか?(笑)」
「え……」
エイガと聞いて、白パンティのお尻がクッっと跳ねる。
「やっぱり知らなかった。クソ真面目に仕事ばかりしているからですよ。ほら、行きましょう」
「私、行かないわ……」
しかし、赤メガネの女の瞳は後輩からぷいっとそむいた。
「むっ、そうですね。その恰好で外に出ちゃあ逮捕されちゃいます。早く服着てください。エイガ先輩たち、午後イチには出発って話ですよ」
「ち、違うの……」
「違う?」
「私はもうエイガに会う資格はないのよ」
これにはエマも目を丸くして「はい?」と首をかしげる。
「あの人には夢があるのだわ。夢を叶えるため領主として必要な結婚もきっとある。私がいつまでもつきまとっていたら、その夢を邪魔することになるわ。だから私は……私の使命のためだけに生きることにしたの。人類の平和を保つという使命を」
「……はア?ww」
と、エマは怒気で栗毛のポニーテールを逆立てる。
「なに言ってるんですか? 夢? 人類の平和? くだらなすぎてヘソで茶が沸きますよ(笑)夢なんて男の勝手に任せておけばいいし、人類なんて別に滅んだっていいじゃないですかw」
「乱暴言わないで」
「乱暴言ってるのはティアナ先輩でしょ? エイガ先輩のこと好きなクセに。『好き』って気持ちは世界で一番エライんです。夢や人類の平和なんかよりずっとずっと……。男たちはそこらへんのところをよくわかっていないんですからね、女のアタシたちが『好き』にワガママでいなくてどうするんですか!」
いつもおちゃらけているエマがそんな必死な言葉を叫ぶのを、ティアナは初めて聞いた。
そしてそれは女心を打つ言葉だった。
遠く、甘酸っぱい果物が薫るような。
でも……
彼女は24歳の大人の女性なので、
「あなたはまだ少女なのよ。きっといつかわかるわ」
と言って、また目をそらす。
「ッ……」
少女にとって、それは相当程度『頭にくるセリフ』だったらしい。
エマはぶるぶるとドレスの肩を震わせると、思わずといった様子でこんなことを口走る。
「バカ! アタシ……ティアナ先輩が相手だからエイガ先輩のことあきらめられたのに!」
「え?……」
さすがのティアナもびっくりして後輩の顔を見つめる。
「あッ……」
エマの(黙っていれば)可愛らしい顔が、みるみる赤く染まっていった。
「……エマ、今なんて?」
「も、もも……もう知りません! ティアナ先輩なんてスライムの角に頭ぶつけて死んじゃえ!」
エマは背を向けるとまた勢いよく扉の音を立てて去ってしまった。
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