第120話 なんでだよ!
ボン! ボン! ボン!
青空に空砲が響く。
俺たちの艦がザハルベルトへ到着したらしい。
あたりの市民らは顔を見合わせ、道はどこか騒然としていた。
「なんだか騒ぎになっちゃったな」
「ようやくチヨちゃんたちが来たッスね! 早く港へ行きましょッス」
俺は頷き、ガルシアと五十嵐さん、そして記者のアクアを連れて、馬車に乗り急いだ。
ヒヒーン……
で、港に着くとそこには人だかりができており、向こうにちょうど入港しようとする巨大な艦の姿がうかがえるのであった。
「なんだあれは……!?」
「沖で火を噴いていたじゃないか! モンスターだよ!」
「ひい、海竜が攻めてきたぞぉ!」
ザハルベルト市民らはあの鐵の船影を前に、思った以上に恐れおののいていた。
確かに。
船の技術はザハルベルトを中心に進歩してきたものの、その船をモンスターとの戦いに利用しようという発想はこれまで誰もなかったのだ。
竜をも倒す戦闘艦など俺たちの艦が世界初で、その威容ははじめて見る人の心胆を寒からしめるものなのかもしれない。
なんかヤバそう……
「わあ! これはスクープですよ!」
ひとり記者が飛び上がってメモを取っていたけど、こちらはそれどころではない。
ただでさえ炎上しているのに、あれが俺たちの船だって知れたら……
反感を買うどころの騒ぎでは済まないんじゃねえかな。
「よ、予想以上におおごとになってるッスね(汗)」
「……エイガさま。ここは知らない人のフリをするのが得策でしょう」
「やっぱそう思う?」
俺は、レディスーツの前面の起伏をこちらの身体の側面にぴったりと密着させてくる女秘書と、タンコブの下で神妙な顔つきでいる商人と顔を合わせ、頷きあう。
そして、3人忍び足で、そーっとこの場から立ち去ろうと艦に背を向けたのだが……
「おーい! エイガ殿~!」
その時、艦の舳先から大声がする。
「エイガ殿~! 我らエイガ殿の忠実なる家人150名および坂東義太郎! 極東の島國より白波にゆられ、日沈むところの大魔法都市、斬刃瑠帯に参上つかまつってござるぞぉ!!」
ざわ……ざわざわ……
「なんだ? 上で誰かが口上を述べてるぞ?」
「エイガの忠実なるナンとかって……」
ざわめく人々は一斉に俺を見る。
「だ、旦那。知らないふりッスよ!」
「わかってるよ(汗)」
まだごまかせるッ。
ガルシアにそう諭されながら、俺は坂東義太郎たちと顔を合わせないようにそそくさとこの場を離れようとするのだが……
しかし、間髪いれずに艦のタラップから領民たちがドドドド……っと降りてきてはこちらに向かってくるではないか。
「おーい、領主さま~!!」
「うれしいなー! オラも一度大都会に来てみたかっただよー!」
「呼んでくれてありがとー! 領主さまー!」
み、みんな……
領民たちのそんな無垢さに少しうるっとして、瞬間足を止めてしまったのがよくなかった。
鍛え抜かれた150人部隊は俊敏で、あっという間に周りを取り囲まれてしまう。
「ばんざーい、到着!」
「私、長らく先生に会えなくて寂しかったです」
「ウチだって! よーし、みんなで領主さまを胴上げしよ!」
「「「おお~!!」」」
!?
白ふんどしの女武闘家のかけごえで、領民たちは一斉に俺をかつぎ、空へ放った。
ワッショイ! ワッショイ!……
「ど、どうしてこうなった?」
あまりに奇妙な光景に静まり返るザハルベルト市民の中、俺の周りだけがまるで田舎のお祭りのような熱気に満ちていた……というのは後日見たアクアの記事の表現である。
……ワッショイ! ワッショイ!
地元の兵たちの手で、異国の空を舞う俺。
胴上げの下で、鋭い目の五十嵐さんが白い頬をポッと赤らめてこう漏らした。
「か、かっこいい……」
なんでだよ!





