第119話 よくもガルシアを……
「はっはっはっは! やっぱお前、面白いヤツだな」
勇者クロスは、最近、新しい友達ができてご機嫌だった。
「なあ。ユウリ」
「それを言うならクロスさんこそ」
勇者のとなりで、銀髪の美しい少年がそう答える。
それは剣士デリーの『昔の同級生』という子だった。
先日、街で見かけたときデリーが彼を気にかけていたのを思い出して話しかけてみたのだが……
何故か気が合って、こうしてクロス自身と街で遊ぶようになっていたのである。
話が面白く、玉つきやテーブル・ゲームのような遊びに通じていて、年上に好かれるような甘え方の上手な少年だった。
「世の中の人たちはクロスさんを勇者勇者ともてはやすけれどさ。みんなクロスさんの本当の面白さを10分の1も理解していないと思うな」
「へえ、そう思うか?」
「うん! だから僕、クロスさんのこといっぱい知れて、すごく得してると思うんだ」
ユウリは可愛い弟のような少年だった。
下手をすれば媚びるような言葉も、その笑顔で浄化されてスッと心のうちに染みこんでいくような気がする。
ただし、こうしてスルスルと人の心に入って来た時。
「でも、ひどいのはエイガって人だよね」
ふと、そんなことを言い始めるのだ。
「なんだと?」
「だってエイガって人……パーティにいた頃、クロスさんが好きだった女性と内緒で付き合ってたんでしょ?」
「……誰から聞いたんだそんな話?」
クロスはそう問い詰めるが、少年は薄く笑って答えない。
「誰から聞いたのか知らないが、もうよしてくれ。そんなのデタラメだから」
「そうなの?」
「ああ。少なくとも内緒にしてたわけじゃないと思う。オレだってティアナへ告白する直前まで、自分の気持ちをエイガに打ち明けたりはしなかったし……」
「やれやれ、クロスさんはお人よしだなあ」
少年はクックック……と笑いながら続けた。
「そんなのわかっていたに決まっているだろ」
「なに?」
「それにアイツ、きっと卑怯な手段で女を篭絡したに決まっているよ。あんなの、クロスさんのパーティのお荷物だったクセにさ」
「……黙れ!」
クロスは街中にもかかわらず声を荒げた。
「エイガのこと、悪く言うと許さないぞ!」
しかし、少年は表情を微動だにせず、こう返した。
「ふーん、僕はクロスさんのために言っているのになあ」
「オレの……ため?」
「そうさ。クロスさんは大事なトモダチだもん。何よりも大事な、ね。そんな僕よりエイガって人の方が大事なの?」
そんな言い方をするものだからクロスは答えに窮して黙り込んでしまう。
「……僕、帰るよ」
やがてそう残して、少年は去ってしまった。
(今度会ったら怒らないでやろう。あの子はまだ子供なんだ……)
クロスはそう思いながらホテルへ戻ろうと踵を返すが、その時だった。
「うふふ、それじゃまるで火炎魔法ロブスターね」
街角の背後で、なじみのある声が聞こえてハッと振り返る。
見ると、エイガとティアナがコーヒー店の前で仲良く並んでいるのが目に入った。
デートだろうか。
エイガを見つめるティアナの瞳はまるで太陽で、それはクロスがこれまで決して見ることのなかった女の顔であった。
(エ、エイガ……)
ふいに、クロスの胸に黒い靄のようなものが浮かぶ。
そう。
それはどんなに善い心を持った者でも躓かせ、魔物化させうる感情。
嫉妬である。
◇ ◆ ◇
俺はソファに寝転がり、旧・伯爵邸の天井をぼんやり眺めていた。
「なんでだよ……」
時折、そんなひとりごとが口からこぼれる。
「……俺のこと、好きって言ってくれたじゃん」
昨日の夜からずっと、その事ばかりが恨まれる。
幸いこの街でのいろいろな仕事は終わっているので、今日は一日中でも伏せていようか。
そう思っていたのだが……
パリーン!
そんな時に窓ガラスが女のヒステリーのような音を立てて割れるのだった。
「まったッスかー(汗)」
「……」
五十嵐さんは片膝をついてタイトスカートの尻を突っ張り、箒とちりとりで破片を集めはじめた。
「五十嵐さん。手伝うよ」
「すみません……」
俺は秘書にちりとりを持たせ、自分で箒を持ち、一緒に片付けを始める。
「新しく出てきた者がいつもより目立つと、人々から反感を買うものですからね」
と言うのは、先ほどこの屋敷を訪ねて来たアクアだ。
「ザハルベルト市民は冒険の意識が高いですから」
「意識が高い、ねえ……」
そうつぶやいて、俺はこわれた窓ガラスから外を見やった。
ワーワーワー!……
数十人のザハルベルト市民がこの屋敷の周りを囲み、罵詈雑言を浴びせかけ、時に石を投げて来る。
中には周りの塀にラクガキをする連中すらあらわれるシマツ。
今朝はいったい何事かと思ったが、アクアの話によるとS級に上がったばかりの俺たちへもう魔王級クエストが任されたのが彼らの反感を買い、やがて『賄賂でクエストを回してもらった』という根も葉もない噂まで立ち、ひどく炎上しているらしい。
「困りましたね……」
と言う五十嵐さん。
その美人な顔へ、その時、石が飛んで来た。
パリーン!……
「危ない五十嵐さん!」
「ひぎい! 痛いッスー!」
俺はとっさに女秘書を抱き寄せたが、代わりに背後の商人の頭に直撃してしまったようだ。
可哀想に、大きなタンコブができている。
「おのれ、よくもガルシアを……」
我慢ならなくなった俺はベランダへ出て、市民らへ向かって怒鳴った。
「おい! お前らいい加減にしろ!!」
ワーワーワー!……
「うるせー、ひっこめ!」
「調子に乗るなよ! 賄賂でクエスト回してもらったクセに!」
「冒険をナメるな田舎者!」
すると炎上に油を注いだらしく、数十の石がいっぺんに俺へめがけて飛んで来る。
ヒュン、ヒュン、ヒュン……
賄賂なんてしてないよ、と申し開いたところでどうにもなりそうにない。
彼らの原動力はおそらく嫉妬で、あとは信じたいものを信じるからである。
そこで俺は飛んで来る数十の石を、超反応でひとつづつキャッチし、ひとつづつ足下へ転がしていった。
中にはコントロールが悪くて上空をすっとんでいく石もあったが、俺はわざわざ大跳躍してそれもキャッチしてみせる。
しーん……
この実力行使に石の雨はやみ、場は静まり返った。
やれやれ、運動能力を誇示するみたいでイヤだったんだけどさ。
これでようやく落ち着いて落ちこめる。
と、そう思った時だ。
よく晴れた、済んだ空に、まるで雷鳴がごとき爆音が、ドン! ドン! ドン! と三つ鳴った。
せっかく静まった炎上市民らはざわめくが、なんのことはない。
「エイガさま……」
「ああ」
俺は五十嵐さんへ向かってうなずいた。
そう。
これは艦の空砲。
俺たちの150人部隊がザハルベルトに到着した合図である。
マンガ4巻発売です。なにとぞ!
「面白い」「続きが気になる」「がんばれ」など思っていただけましたら、ブックマークや
↓の『☆☆☆☆☆』ボタンで応援いただけると大変励みになります!
次回もお楽しみに。





