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第117話 サービス



 ――エイガ・ジャニエスが魔王級クエストを任された。


 その話はすぐさまザハルベルトの冒険界隈に知れ渡ることになる。



「一体、どういうつもり?」


 予言庁の薄暗い廊下で。


 ティアナは赤い眼鏡を正しながら、ギルド本部の会議から帰ってきたばかりの大賢者エルを問い詰めた。


「おや、どうしたんだいティアナ君。そんな怖い顔をして」


「……とぼけないで」


 ティアナはノースリーブの肩をわなわなと震わせて言う。


「あなたの推薦で、エイガヘいきなり魔王級クエストを割り当てたと聞いたわ」


「それが?」


「そもそもあなたはエイガのS級昇格すらよく思っていなかったはずなのに、どういうつもり?」


「クックック、他意はないよ。僕は彼のことを高く評価しているだけだ」


 エルは余裕めかした笑みをこぼしながら続ける。


「確かに、僕も前はあなどっていたところがあったかもしれない。しかし、キミの提出してくれた資料などを見て考えを改めたワケだ。ククク……彼ならきっとやってくれるさ」


「無責任なことを言わないで! S級に上がったばかりで、いきなり魔王戦なんて無茶だわ」


「キミは心配性だなあ。そんなのやってみなければわからないじゃないか。何事もチャレンジ精神だよ、キミ」


「っ……もう結構けっこうよ」


 ティアナはスカートの尻をぷいっと向けた。


「エイガには私から今回は辞退するように言っておくわ」


 そう残してツカツカと二、三歩立ち去っていく。


 これ以上話しても仕方がないと思ったのだ。


 しかし、


「ふうん……僕が彼について心配するのはむしろキミの存在なのだがね」


 という背後のつぶやきを無視できずに、つい肩越しに振り返った。


「どういう意味かしら?」


「そのままの意味さ。キミの存在は、彼の飛躍の足かせになっているのだ」


 エルはとがった耳をピンと跳ねて、そう断言してみせる。


「いいかい。彼の強みは育成した領地の力を、そのままクエストに活かしているところだ。そのクエストの成功は、領主としての成功と表裏一体となっている。領主としての成功……それはもちろん婚姻や妾についてもね」


「っ!……」


「彼は本来、土地の領主としてしかるべき妻をめとる責任があるだろう。他の領家か、土地の有力者か……具体的なことは僕も知らないがね。ただ、それが元いたパーティの女ではないことくらい、キミにもわかるだろ?」


 ――土地の領主としてしかるべき妻。


 その単語ワードにティアナの肩がびくっと跳ね、若い乳房は所在なさげに揺れた。


「このままキミとの個人的な関係に終始していては、彼は領主としての信任を失う。キミは身を引くべきじゃないかな? エイガ君の将来のために……」


 エルは殊勝しゅしょうめかした表情かおでそう残して、廊下の向こうへ歩いていってしまった。


「き、詭弁きべんよ……」


 ティアナはそうとだけひとりつぶやく。


 そう。


 自分がエイガの飛躍の足かせになっているだなんて、そんなヒドイ話があるはずがない。


 いつものエルの誘導に決まっている。


 でも……


 これまでそんなことは考えもしなかったのも確かだ。


(万一、本当にそうだったとしたら……)


 そんな考えが毒のように思考をめぐり、彼女はしばらくその場で立ち尽くしてしまうのだった。



 ◇ ◆ ◇



 帰ると「旧・伯爵邸へ移る準備が調ったッス」というので、俺たちはホテルをチェックアウトしてやしきへ向かった。


 数日だったが、いい宿だったな。


「えー! 魔王級クエストを割り振られたんッスか?」


 で、みんなで馬車に乗って街を行く道すがら、ギルド本部で言われたことを話した。


「……おめでとうございます」


 鋭い目の女秘書も、よぉく見るとほおがぱぁッとやわらいでいるのがわかる。


 まあ、俺レベルの五十嵐ウォッチャーじゃねえと見分けらんないと思うけど。


「でも、喜んでばかりはいられねえぜ。なにせ第七魔王との決戦は3か月後って予言されているからな」


 そう。


 正直、準備期間はめちゃ短い。


 魔王級との戦いはまだ先だと思っていたから、地力面でも攻略面でも不安はある。


 しかし……


「それでも、このチャンスをつかめば俺たちは英雄だ。何とか成功させよう」


「はい……」


「もちッスー!」


 こうして俺たちは馬車の中で各々の顔を交互に見ながらうなづき合うのであった。



 ゴトゴトゴト……ヒヒーン!



 さて、旧・伯爵邸に着くとすでに家具などそろっていて、今日その日から拠点として利用できるようになっていた。


 居間っぽい広い部屋にはソファーにテーブル。


 暖炉も新調してあるようだ。


「うふふ♡ 他ならぬガルシア先輩のためッスから! 簡単なリフォームもおまけしておきましたッスよー!」


 と言ってもふもふツインテールをゆらす女商人ベルル。


 本当にガルシアを尊敬しているんだなあ。


 だからと言って言葉づかいまでマネすることはないとはマジで思うけど……


「あ、それからこれ、今キャンペーン中なんでサービスッス!」


「なんだ? 洗剤か?」


 そう聞き返すと、ベルルは2枚の券を手渡してきた。


「みなさんが泊まっていたビルトンホテルの屋上に遊園地が建ったっス。これはその入場券ッス」


 ああ、確かそんなことをボーイが言っていたな。


「今大人気でなかなか手に入らないもんなんスよ」


「ふーん」


 と券を眺めていると、ふと、背後から美人秘書のあごが俺の肩に乗っかって来ているのに気づき、ビビる。


「はー、はー、はー……」


 しかもなんかめっちゃ息(あら)いし!?


「え……? ど、どうしたの? 五十嵐さん」


「べ、別になんでもないです……」


 なんでもないようにはどうしても見えなかったが、五十嵐さんは白い頬をかすかに赤らめ、てってけーっと居間を去ってしまった。


「遊園地ッスかぁ。旦那、誰か誘って行って来たらどうッスか?」


 とガルシアが言う。


 魔王戦を前にしてそんな暇ねーよ……


 とは思ったが、でも行くとしたら150人部隊がザハルベルトに到着する前の今しかないかもしれない。


「じゃあ、ちょっと出かけてくるよ」


「どちらへ?」


「ああ。ちょっとな……」


 俺はそう言って、密かにもちものから指輪の入った小箱を取り出した。


 そう。


 遊園地は悪くないシチュエーションかもしれない。


 ティアナに結婚してって言いに行くのにさ。


なかなか更新できずに申しわけありません。

なんとか頑張って続けていきますので、よろしくお願いいたします。


次回もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 136話では第7魔王なのですが、ここで第5魔王の話が出てくるのは何故?
[一言] い、五十嵐さん…… 彼女も大切にして欲しい…いや、彼女を幸せにして欲しい……泣
[良い点] これ、フラグじゃ…
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