【挿話A】 告白
勇者パーティ『奇跡の5人』は第4魔王パニコスを倒し、ザハルベルトへ帰還した。
彼らにとってこれは二度目の魔王級討伐。
人々は口々に「やっぱり勇者の実力は本物だったんだ」とウワサし、その人気はとどまることを知らない。
凱旋パレードもかつてないほどの盛況ぶりを見せたそうな。
「クロス……ちょっといいかしら」
さて、ティアナがクロスを宿(ビルトンホテル)のラウンジに呼んだのは、そんな凱旋パレードの後のことだった。
そう。
第4魔王との闘いも一段落ついたし、今ならばお互い落ち着いて話ができる。
そう思って、ティアナは自分の気持ちを正直に告白したのだ。
「そっか……」
すべて話し終わると、勇者クロスは寂しそうにそうつぶやいた。
「……ごめんなさい」
「よせって。謝るようなことじゃないだろ」
勇者はその獅子のようにみごとな金髪をふわりとかきあげて、そう答える。
「……っ」
「っ…………」
それからお互いしばらく沈黙してしまった。
ラウンジのざわめきだけがやけに際立って聞こえ、一秒一秒がやけに長く感じられる。
「確かにさ……」
次に口を開いたのも、またクロスだった。
「え?」
「いや、確かにお前がいつも言うように、あの頃は楽しかったよな」
「あの頃?」
「ああ。俺たちがまだ中級冒険者でこれから強くなっていくって頃さ。あの光り輝いていた日々で……オレはお前を好きになったし、お前はエイガを好きになった。それだけのことだ」
「クロス……」
「ははっ、そんな顔すんなよ。これからもオレたちが一緒に戦う仲間だってことは変わらない。そうだろ?」
勇者クロスは秋の空のような笑顔で、すっと右手を差し出す。
「これからもよろしくな」
「……ええ」
ティアナが『友情の握手』に応じると、勇者はラウンジのソファを立ち部屋へ戻っていった。
◇ ◆ ◇
「やれやれ、やっと終わりましたねー」
エマは燃えるような赤い絨毯の敷かれたホテルの廊下を歩きながら、そうこぼした。
終わった――というのは魔王討伐のことではなく凱旋パレードのことである。
というのも、彼女にとっては魔王を倒すことよりも、凱旋パレードという茶番の方がよほどの難題。
常人にとって『栄誉』と思われる凱旋パレードも、彼女からすれば面倒事以外の何物でもなかったのだった。
「でも、これで遊べますよぉー。今日はスロットにしましょうかー♪」
「エマ……」
で、彼女の後ろには、いつものように高身長の前衛剣士デリーが従者のようについてきている。
「……いいかげんギャンブルはやめた方がいい」
「デリー、余計なお世話ですよ。これがアタシのストレス解消法なんですからぁ」
そうやってケタケタ笑うと、デリーはもう何も言わなかった。
デリーとて凱旋パレードをストレスに感じる側の人間だったし、また、本当に彼女がギャンブルで身を持ち崩すとも思っていないのである。
「さっ、行きますよ」
「……」
さて、それはそんなふうに部屋から魔動エレベーターへ向かう道すがら、ラウンジの前を通りかかった時だった。
「あれ?」
ラウンジの壁はガラス張りになっている部分があり、廊下からも中の席が自然と覗かれる箇所がある。
エマはそのひとつの席に黄金の三つ編みを発見した。
「あそこに座っているの、ティアナ先輩じゃないですか?」
「……みたいだな」
「シケた顔してますねえ。……ぷくくっ、ちょっとからかってきますかぁ」
「あっ。待て、エマ」
と、デリーの止める声が背後から聞こえたが、それは無視して勢いラウンジに入って行く。
(うししししww)
そして、席の後ろから忍び足でそーっと近寄っていくと、背後から脇の下へ両手をスッと差し入れて、ニット地にくっきりふちどられたその乳房をむんずとわしづかみにした。
「ティアナ先ー輩!」
モミモミモミ♡
もっちりとあたたかな双房を両手にがっちりと掌握し、10本の指を鉤型に曲げ開きして思いっきり揉む。
この悪戯をすると、いつも済まし顔の眼鏡先輩が大慌てでジタバタして顔を真っ赤にするのだ。
今日もそんな可愛いリアクションを期待していたのだが……
「あれ?」
しかし、予想外にも先輩は無反応である。
「……」
「先輩? ティアナ先輩?」
そう言って顔を覗き込むと、ティアナは数秒してようやく眼鏡ごしにこちらと目を合わせた。
「あ、エマ……」
「どうかしたんですか、先輩」
さすがに心配になってそう尋ねる。
「いいえ、なんでもないの。ちょっと考えごとをしてただけよ」
考えごと……
(やれやれ。魔王級クエストをクリアしたばかりなのにもう考えごとですか。ティアナ先輩はちょっと真面目すぎるんですよねー)
エマはそんなふうに思った。
(時にはパアっと遊んで、何もかも忘れちゃうことも大事だと思うんですけど)
そこでエマは、ニコッと悪そうな笑顔でこう誘った。
「先輩。アタシこれからカジノ行くんですけどぉ」
「……そう」
「一緒に行きません?」
「え?」
これには先輩も虚をつかれたようで、青い瞳をぱちくりさせる。
「ね? 行きましょうよぉ」
「遠慮しておくわ。私、やったことないもの」
「ひひひww 大丈夫ですよ。アタシが教えてあげますから」
エマがそこまで言うと、ティアナはさすがに『後輩に心配をかけてしまったか』と悟ったようで少し悩む様子だったが、
「……ごめんなさい。やっぱりもう少し考えごとをしたいの」
結局はそう言って席を立ってしまう。
「えっ……ティアナ先輩!」
と呼び掛けても、もう答えない。
「どこ行くんですか?」
だが、あわててそれだけ尋ねると、そのツンとした背中は少しだけ振り向いてくれた。
「心配しないで。ちょっと泳いでくるだけよ」
こうしてティアナ先輩は一階のプールの方へと足を向けたのだった。
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