第111話 ビルトンホテル(1)
しばらく止まっていてすみません(汗)
更新再開いたします!
ギルド本部を出た後、ガルシアたちと合流して『ビルトンホテル』という宿にチェックインした。
「へー、すげー部屋じゃん! これ、大丈夫なのか?」
俺はソファに腰掛けながら宿の部屋を見渡す。
広々とした空間に、輝く魔灯のシャンデリア。
大きなガラス窓とテラス。
コの字に配された黒革張りのソファの対面には女秘書がちょこんとお尻を下ろしており、タイトスカートと太ももの隙間を美しい指先でそっと隠している。
「……エイガ様は極東の領主級なのですから、当然のことです」
と、五十嵐さんが鋭い目で言う。
「そんなもんかなあ」
聞くところによると、この『ビルトンホテル』は、ザハルベルトでもトップクラスのVIP宿なのだそうな。
世界の王侯貴族や名を馳せた冒険者、トップアイドルなども宿泊し、大商会の会長が記者会見を行ったりする。
実際、さっき7階のラウンジで夕飯食ったんだけどこれがめちゃウマくてさ。
きっと世界中のウマいもんがこの街には集まってきてんだろーなって感じだった。
「クエストも成功しているんでまあ問題ないッスけど……自分としては早く物件を決めたいところッスねえ」
ガルシアは算盤で自分の肩を叩きながら言った。
そう。
今回、ザハルベルト市内に家を購入する予定なので、ガルシアには彼の知り合いの不動産商にいくつか物件を紹介して来てもらうよう頼んでいるのである。
どうせ購入する家があるなら早めに決めて、宿代は浮かしていきたいというのが商人の人情(?)だろう。
「と言うワケで、自分はちょっと出かけてくるッスね」
そう言って商人は出かけて行ってしまった。
「……」
するとこの場に残るのは俺と五十嵐さん。
ザハルベルトの街をちっとも知らないメンツである。
「ガルシアがいないとどこへも行けないなぁ」
せっかくザハルベルトに来たのだからクロスたちにも会いたい。
俺がS級になったのをアイツはきっとスゲー喜んでくれるから。
しかし、この摩天楼の立ち並ぶ膨大な大都会で、今や大スターとなっている勇者とピンポイントで会うだなんて高難易度ミッションは田舎者の俺には到底叶えられそうもなかった。
「……お疲れでしょうからもうお休みになってはいかがでしょう?」
と秘書は言うが、まだ子供でも寝ないような時間である。
「それに、せっかくのザハルベルト初夜がもったいないよ」
俺は煙草へ火をつけながら、部屋のテーブルの上に置いてあるルームサービスのメニュー表やら宿の施設案内をぼんやりめくってみた。
すると、こんな記述がある。
≪屋上には遊園地、3階にはマッサージと大浴場、1階にはトレーニングジムとプール、地下にはカジノが備わっております≫
うん、ホテルの中ならガルシアがいなくても迷うことはないだろう。
「五十嵐さん、どっか行きたいとこある?」
「ゆぅ……いえ、なんでもありません……」
聞いてみるが、彼女は何故か少し頬を赤らめてうつむくのみ。
まあ、こういう時にパッと行き場所を決めて、女性をエスコートするのも男の甲斐性かもな。
「ええと、じゃあ。カジノにでも行ってみるか?」
「……はい」
こうして俺と五十嵐さんは部屋を出た。
◇
「うっ、すげえ音」
魔動エレベータで宿の7階から地下1階へ降りると、つんざくような轟音が耳に飛び込んできた。
「ここは交換所でーす。一枚100ボンドのコイン、1000ボンドのコイン、1万ボンドのコインとありますがどちらにいたしますかぁ?」
俺は交換所の女の子にボンド紙幣を渡すと、1コイン100ボンドのコイン1000枚と交換してもらった。
「五十嵐さん、なんかやりたいのある?」
「私はエイガ様のなさるのを見ています」
と言って後ろに着いてくるのみなので、どーしよーかなぁとフロアをめぐる。
スロット、ポーカー、ルーレット……
非現実的できらびやかなギャンブル空間で、人々は欲望を浄化していた。
「おっ?」
そんな中、俺は『スライム闘技場』というのに目が止まる。
これはスライムとスライムが戦い、どちらが勝つか賭けるというギャンブルだ。
うん、けっこう面白そうじゃん。
「やあ、おにいさん。どちらのスライムに賭けるかい?」
「ええと、スライムBに……」
などと言って、俺はスラ券を買う。
倍率は3.5倍。
下馬評ではスライムAが優勢らしい。
やがて、試合が始まった。
わー! わー!……
闘技場そのものは小さなスライムの戦いなので大きくはない。
庭ぐらいの広さの闘技場の中で、スライムAとスライムBがプニ!プニ!っとじゃれ合うように戦っている。
「いけ、そこだ! よし……やったぁ!!」
それでなんとスライムBが勝ったのである。
コインは1000枚ぜんぶ賭けていたので、3500枚になった。
そして、次の試合も、そのまた次の試合も勝ったのである。
うふふ。
俺ってば、けっこうギャンブル向いてるのかもしれんね。
次の試合も賭けよう……と思うが、その前に。
「五十嵐さん。これあげるよ」
俺はそのうち1000枚を秘書に差し出した。
「えっ、いえ。私は……」
「本当は別のコーナーがよかったんだろ?」
「……」
彼女とはなかなかの付き合いの長さになってきたので、黙っていてもそれくらいわかるのだ。
「その。私、ゆうえん……」
「いいからいいから。これで好きなのに賭けてきなよ」
俺は1000コインの入ったドル箱を渡す。
五十嵐さんはしばらく悩んだ様子だったが、しまいには「……はい」とうなずいて受け取ってくれた。
うん。
いつも頑張ってくれているんだし、彼女もこんな時くらい羽を伸ばさなきゃね。
「おにいさん。次の試合も賭けるかい?」
「ああ、もちろん。どちらがいいかな……」
そして、俺は俺で次の試合もスライム闘技場の賭け試合にコインを投じるのであった。
明日も更新します!