第110話 ギルド本部
魔王級、準・魔王級のクエストを割り振ってもらうには、S級ライセンス取得後、ザハルベルトのギルド本部で直接『S級登録』というものをしなければならない。
今回の訪ザハルベルトの目的のひとつがそれだった。
ガサガサ……
市街地の地図を開きながら歩くガルシアの後についてしばらく行くと、若緑色の芝生の中にひとつの逞しいブロンズ像が立っている。
――古代勇者の像。
それは子供でも知っているような超有名『待ち合わせスポット』だ。
「じゃあ宿の手配の方は頼んだぜ。この『古代勇者の像』で待ち合わせな」
「はい……」
「任せてくださいッス」
こうして五十嵐さんとガルシアには宿の手配を頼むと、俺は180度振り返り4階建ての庁舎を見上げた。
そう。
これぞ世界のクエストの中心地【冒険者ギルド本部】である。
「い……行くか」
俺はさすがに緊張に生唾を飲み込むと、ひとり正面玄関からギルド本部の総合受付に入っていった。
ガヤガヤ、ガヤガヤ……
中は冒険者であふれており、むさっくるしい空気に満ちている。
みんな丸太のように太い腕をしており、胸当ての隙間から胸毛をモジャモジャはみだしている猛者も少なくない。
なんかどいつも強そうに見えるな。
「ええと、S級登録は……どこへ行けばいいのかな?」
俺は心細く思いながらも、キョロキョロとあたりを見渡す。
すると、≪登録はこちらへお並びください≫という案内板を見つけたので、俺はその列の一番後ろへ足を進めた。
が、その時だ。
「おら、どけよ!」
と、急に後ろからぶつかって来て、割り込んでこようとするヤツがある。
「ん?」
まあ、俺はその程度のタックルではビクとも動かなかったので列を割り込まれるようなことはなかったのだけれど、振り返って見るとそこにはどこかで見覚えのある顔があった。
いや、見覚えはあるが思い出せないな。
ええと、誰だっけ?
俺がまじまじと眺めていると、その男の方が目をひん剥いてこう叫ぶ。
「ぁあ! お前、船の中にいたヘタレじゃねえか」
と言うので思い出した。
こいつ、エビラにやられていたA級パーティじゃん。
たしか名前も言ってたな。
「ええと、あんたら……アーム・レスリング部だっけ?」
「「「アイアン・アームだ!」」」
と、連中はこめかみに血管を浮かべて怒鳴る。
「そうか。ごめんね」
「ごめんじゃねえんだよ。ケンカ売ってんのかてめえ!」
「マグレでエビラを倒したからって調子こいてんじゃねえぞてめえ!!」
謝ってるのに。
面倒くせーな。
「だからごめんて言ってるだろ」
「チッ、じゃあオレたちの前に並んでんじゃねえよ。そこをどけ」
「おい、てめえ。リーダーが『どけ』って言ってんのが聞こえねえのか?」
「シカトこいてんじゃねえぞ、てめえ」
俺は別に列をゆずる理由はないので無視することにした。
「ちょ、ちょいとあんたら、おやめよ」
ただしそんな中、エビラ戦で唯一目を覚ましていた黒ローブの女魔法使いだけがそう止める。
「んだよ、ネネ」
「お前そいつに味方すんのかよ」
「まさか惚れてんじゃねーだろうな?」
「そ、そんなんじゃないけど……」
すると、女魔法使いがパーティ内での立場を危うくしそうな感じになってしまう。
チッ、仕方ねーな。
俺はため息をつくと列を空けて言った。
「……いいよ。あんたら先並びなよ」
「へ?」
一瞬、戦士風のリーダー格は虚を突かれたようだったが、
「……へ、へへッ、最初からそうすりゃいいんだ」
「あいかわらずヘタレだな。ケケケ」
と前へ割り込んでいった。
女魔法使いは眉を下げつつ『ごめんよ』と目で言うので、俺は手を振って『いいよ』と返す。
やれやれ。
「次の方」
さて、しばらくして列が進むと、まずは前のアイアン・アームが呼ばれた。
「おう。オレたちだ」
「本日はどのようなご用でしょう?」
と受付の事務員さんが尋ねる。
「決まってんだろ。S級登録に来たんだよ」
「パーティ名をお願いします」
「俺たちはアイアン・アーム。チーザス地方で最強と言われたチームだぜ」
そう言われて、事務員さんは水晶版のような魔器具をいじった。
「ええと、アイアン・アーム……はあ。よそ者のA級パーティ風情がこのザハルベルトになんの用でしょうか?」
「あ? 決まっているだろ。オレらが魔王を倒してやろうってんだ」
「はぁ……そうですね。たとえ実力がたいしたことはなくても、志だけはご立派だと思います」
「なッ……」
すると、周りの冒険者たちからはこんなささやきが聞かれた。
「おい。また田舎もんがギャーギャー言ってるぜ」
「ぷッ。S級になってもいねえのにわざわざギルド本部に来ても、意味ねえのに」
「いるんだよな。冒険の国ザハルベルトの――その空気を吸うだけで高く飛べると思っているヤツが」
そんな周囲のささやきに、アイアン・アームの戦士は顔を赤らめて振り返った。
「くっ、キサマら! 俺を誰だと思って……」
「リーダー、もういいから」
こうして女魔法使いがリーダー格の戦士をなんとか引っ張っていき、他のアイアン・アームの面々も逃げるように受付前から去った。
「次の方」
で、次は俺の番だ。
俺は受付に着いて言った。
「ええと、登録に来たんですけど」
「お一人ですか?」
「ええ」
受付はそう答えると、水晶を通して俺を見た。
「あなたほどの戦闘力があれば、B級ライセンスから始めることも可能ですがいかがなさいますか?」
「は?……」
一瞬何を言っているのか理解できなかったが、すぐに自分の言葉足らずに思い至った。
「あ、いえ。初めの冒険者登録ではなくって……S級登録の方で」
そう言うと受付の人はまた「志はご立派ですが……」と呆れた顔になり、周りの冒険者たちからは笑いが起こった。
「あの、これでお願いします」
そこで俺は郵送されてきたS級ライセンスを提示する。
「何を言われましても……って、これは本物!?」
「本物ですよ。『エイガの領地』と言います」
ざわ……
俺がその名を出すと、周りの冒険者たちは一転、騒然とする。
「エイガの領地、だと?」
「あのティアナ・ファン・レールが推して注目された?」
「ふんッ。なあに。しょせん『奇跡の5人』の出涸らしだろ」
「いやいや、エイガってのはかなり独創性のある冒険者らしいぞ?」
ざわめきが混ざり一人一人が何を言っているのかは判然しなかったが、ザハルベルトで俺たちが知られているってこと自体が俺には驚きだった。
「あの。す、すみません。上のものを呼んで参りますので、少々お待ちください」
一方、受付員はそう言って席をたち、カウンターの奥へ走っていった。
タッタッタ……
で、しばらくすると奥から恰幅のよい四十男がやってきて言う。
「お待たせ致しました。『エイガの領地』のエイガ・ジャニエス様でよろしかったでしょうか」
俺は「そうです」と答える。
これでなんとか無事にS級登録が済みそうだ。
そうホッと胸をなでおろしたのだが、そうは簡単には行かなかった。
「ようこそザハルベルトへいらっしゃいました。しかし……エイガの領地は領地単位でクエストをこなすとお聞きしておりましたが」
「はい。それが?」
「いえ、そのですね。一応S級登録にはパーティ全員にメンバー登録していただく決まりになっておりまして」
「は?」
また雲行きが怪しくなる。
「ちょ、ちょっと待ってください。俺の領地には2500人からの領民がいるんですよ?」
「はあ、そうおっしゃられても決まりは決まりですから。全員に登録いただかないと」
「そんな無茶な……」
そんなふうに二、三言い合っている時であった。
「キミ」
ふと、横から声をさしはさんでくる者がある。
そちらを見ると金髪に白い肌、尖った耳、端正な顔立ちのエルフだった。
「え、エル様……大賢者様?」
四十男が息を飲んで言う。
「話は聞いていたぞ。そんな融通のきかないことでは困るな。メンバー登録? そんなものは大事なところではないだろう」
「し、しかし決まりですので……」
「キミも知っているだろう? 昨今、魔王級・準魔王級の出現が増大しているということを。今は少しでもS級戦力が欲しいところなのだ」
「は、はあ……」
「大事なのは我々ザハルベルトが世界の平和を守るということだ。その本分を忘れて、いたずらに書類上の業務ばかりにとらわれていたら『冒険者ギルド本部』の名がすたる。そうは思わんかね?」
こうして。
このエルフのおかげで、領民2500名すべてのメンバー登録などという無茶だけはまぬかれた。
ただし、「せめて戦闘に参加する150名のメンバー登録だけでも」と言うので、部隊にもザハルベルトへ来てもらわなければならない。
想定外ではあるが、それくらいが落としどころだろうか。
「じゃあ、それでよろしくお願いします」
そう言うと、受付の上役は頭を下げて奥へ下がっていった。
俺はすぐにエルフの方へと向き直って言う。
「あの、ありがとうございました」
「キミがエイガ・ジャニエスだな?」
エルフは透明な瞳で俺を見下ろして問う。
「え? はあ、そうです」
「……キミには注目していてね。即戦力として期待しているよ」
「ほ、本当っすか?」
「ああ。ボクからもキミのことは強く推薦しておこう。明日にでも魔王討伐へ出てもらいたいくらいだがな。まあ……せいぜい頑張りたまえ」
「ッ……ど、どうも。お願いしまっす!」
「ふふふ」
そう答えると、エルフはハンサムな顔にマネキンのような笑顔をはりつけたまま総合受付を去っていった。
あれが有名な予言庁の大賢者エルか……
なんていい人なんだろう!
ご覧いただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!
また、このたび新作を始めました。
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タイトル:
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