エイガ・ジャニエスS級審議の件
遮光された部屋に魔法プロジェクター。
ティアナは針のように細い指示棒でグラフを指した。
「このように、私の予言では今後魔王級の出現が増加していくことになるわ」
説明が終わって張りつめた尻から背中をフラミンゴのようなS字に正して居直ると、赤い眼鏡を指でスっと直す。
少しの間があって、ギルド本部の会議室はざわめいた。
「なんと……!!」
「……倍増していくではないか!?」
その場には、ギルド本部の重鎮からブレーンと呼ばれる専門家までが勢ぞろいしていた。
世界のクエストを仕切るエリートたちが、たった一人の女性冒険者のプレゼンに見入っているのである。
(ふふっ……やはり僕の思った通りだ)
大賢者エルはそんな光景を満足気に眺めていた。
そう。
ティアナ・ファン・レールはけっきょくザハルベルトを離れなかった。
(彼女は僕の主張に屈服したのだ……)
エルはそう思い、心の満ちていくのを感じた。
「次の図は、【索敵魔法】を援用して地獄の魔力周期を読み取ったものよ」
……その類まれな支援魔法の才能とマネジメント能力。
事実、彼女はエルの言う通りにギルド本部に対しての発言力をつけていっている。
エルはこのままティアナを次のギルド・マスターの位置に就かせ、自分と彼女で世界のクエストを掌握したいと考えていた。
(そうなれば、彼女もきっと自分の価値というものが理解できるだろう。すぐにあんな極東のチンピラなどには見向きもしなくなる)
そんなふうに考えながら尖った耳をピンと立てていたのだが……
「ついては、S級パーティの補強を進言するわ」
そこからティアナはエルの想定外のことを言い出した。
(補強? ……何を言い出す?)
エルは眉をしかめるが、
「補強じゃと?」
先にそう疑問符を浮かべたのは、ちょうど向かいの席に座る白ヒゲのドワーフだった。
「ええ、何か問題が?」
「今のところS級にふさわしいパーティなど見当たらないがのう」
白ヒゲはドワーフ族のゴードンと言う。
S級パーティの選定を専門にしていて、勇者パーティ『奇跡の5人』をS級に推したのも彼であった。
その功績からゴードンも次期ギルド・マスター最有力候補と目される一人である。
「少なくともワシのスカウティングには引っかかっておる者はおらん」
「そう……でも、今すぐにとはいかないかもしれないけれど、急激にS級レベルに近づいているパーティがひとつあるの」
「ほう。そこは一体どのパーティじゃ?」
そう問われて、赤い眼鏡がプロジェクターの魔法光にキラリと反射する。
「エイガの領地、よ」
しーん……
ティアナがそう言うと、議場は水を打ったように静まってしまった。
「?」
「……??」
どうやら、ここのエリートたちは誰もそんなマイナーな名を知らないらしい。
ただし、それまで素晴らしいプレゼンを行っていたティアナの言うことであるから、一応一考の価値があるのではないかという空気が議場に生まれてはいるようだった。
(まずい……)
と、エルが思った時。
「ぷっ……わっはっはっは!! エイガじゃと? それはお主ら勇者パーティを解雇になった男の名ではないか!」
そんなふうに白ヒゲのドワーフが噴き出すと、場の流れが変わった。
「なんだ。そういうことか」
「大方、解雇した者への罪ほろぼしで推挙したのだろう」
「女のセンチメンタルだな」
方々でそんな声が聞かれる。
「ま、待って。そうじゃないの。私は本当に彼らの力を……」
「しかしお主らはそいつを解雇したのじゃろう? それはヤツにS級のクエストについていける力がないとお主ら自身が判断したことに他ならないではないか」
ゴードンはルックスに反して理路整然と話を展開するドワーフであった。
「……確かに、私たちは彼を解雇にしたし、その判断は今も正しかったと思っているわ。仕方ないことだったの」
「それみろ」
「でも、エイガは私たちと一緒では成し得なかった新しいやり方で……決して冒険をあきらめなかったのだわ」
「ふん、物事『あきらめなければいい』というワケではなかろう」
と、ゴードンは反論する。
「S級パーティに必要なのは実力ひとつじゃ。苦労した、一生懸命やった、あきらめなかった……どれも美しい言葉じゃが、結果が出せなければなんの意味もない」
「え、エイガは実力もつけているわ!」
ティアナは三つ編みをひるがえして反論する。
「その証拠に、エイガはあの盗賊トルドと戦って……勝ってみせたのよ」
ティアナがそう主張すると、議場はまたざわめく。
「なんと、あの盗賊トルドを?」
「女勇者パーティのエースだぞ」
「それなら本物かもしれん。調査してみるか」
こうして『エイガの領地』に再び一考の余地ありとの空気が浮かんできたのであるが……
ドン!!
その時、ドワーフがそのずんぐりとした拳で机を打ち付ける音が響いた。
場は再び静まりかえり、衆目がゴードンへ集まる。
「ふざけるな! 大盗賊トルドがあんなうだつの上がらない野郎に負けるはずがねえ……なかろう」
「ゴードン?」
「コホン……いずれにせよ、つくならもう少しマシなウソをつくがいい」
「そんなっ!!」
ゴードンのすごみに周りの者たちも「なるほど、そりゃそうだ」「非現実的だよな」と口々に言う。
「待って、ウソじゃないの。本当にエイガは……」
それからティアナがどれほど真実を主張しても、これを信じる者はなかった。





