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第105話 S級


 漁業の村『磯村』の温泉旅館の近くには手ごろな砂浜ビーチがある。


 ので、次の日はみんなで水着に着替え、ガルシアの用意したパラソル、浮き輪、ボールなどを持ってそこで遊ぶことになった。


 ちなみに水着はアパレル系の職性を持つメイド三人娘が全員分作ってくれている。


 リヴには赤のワンピース水着を、五十嵐さんには白に水色のレエスの入ったセパレート水着を、俺には長尺のトランクス・タイプの水着を、ガルシアにはもっこりした競泳水着が手渡されていた。


 そして、メイドたち三人は帝都の女学生さんたちが水練の折に召すとかいう『スクール水着』なるものをまとっている。


「……伝統ですね」


 と水着姿の美人秘書がうらやましそうにつぶやいた。


 どうやら自分もスクール水着が着たかったらしい。



 キャッキャ♪ キャッキャ♪



 ビーチバレー、砂遊び、スイカ割り……


 みんなどこにそんな体力を隠していたんだと思うくらいはしゃぎ、それについていくのはある意味クエスト以上にしんどかった。


 楽しいけどあまり大変なので、俺はひとりパラソルの下へ一時避難してくる。


「どうした。泳がないのか?」


 すると、銀髪の美女が隣に座ってきた。


 まるでビキニ・アーマーのようなピンクの水着で一瞬だれかと思ったが、なんのことはない、件の魔法剣士である。


 旅館にくればこの海も目に入るのだから、そりゃせっかくなら温泉だけでなくビーチも堪能したいと思うのが人情だろう。


「グリコ、そう言えばさ……」


 そこでいい具合に二人きりだし、クロスたちのことを尋ねてみることにする。


「調子が悪い……と言ったか? 私が?」


 しかし、グリコはそんなふうにキョトンと首をかしげるのである。


「言ってたじゃん。『モリエたちの調子が悪いから私にクエストが回ってくるのだ』ってさ」


「……そうだったか。不用意に心配させるようなことを言ってすまなかった」


 グリコは少し目を伏せて謝ると、こう続ける。


「調子が悪いと言うよりはな、今や【奇跡の5人】はザハルベルトのスターなのだ。それぞれが常に注目を浴びて、なかなか5人そろってのクエストが行えない状態らしくてな」


「そうなのか」


 それを聞いて、俺はひとまず安心した。


 誰かが怪我をしたり、スランプに陥っているんじゃないかと想像していたからだ。


 そう言えば、雑誌で『モリエがアイドルになった』って書いてあったな。


 俺はザハルベルトへ行ったことがないからよくわからないけど、大都会のスターってのもいろいろ大変なんだろう。


「でもそれは、それだけ活躍して世間に認められてるってことだよな?」


「……そういう部分もあるがな、『5人そろわない』ということはモリエたちにとって致命的なのだ。彼らは役割分担のはっきり別れたパーティだから」


 確かに。


 モリエの全体攻撃魔法。


 デリーの単体物理攻撃。


 エマの回復魔法。


 ティアナの支援魔法。


 勇者クロスの超必殺技。


 全員が『特化型』であり、それぞれがそれぞれの能力を補完しあっているのが勇者パーティなのだ。


「それが長所でもあるが、同時に脆弱なところでもある。ひとりでも抜けると力が半減してしまうからな」


「でも、あいつらは個人の能力も半端じゃないぜ。単独遠征もよくやってたし」


「S級のクエストでそれが通用すると思うか?」


「っ……」


 俺はザハルベルトへ呼ばれる前に勇者パーティを解雇になっていたからS級クエストの経験がない。


 しかし、『S級はA級とは次元が違う』という話だけはよく聞いたものだ。


 花の都、大ザハルベルトへ呼ばれ、その強さが認められれば準・魔王級、そして魔王級のクエストさえも割り当てられるのが【S級】なのである。


「まあ、今心配していても仕方あるまい。二年目のジンクスといってな。新たにザハルベルトで注目を集めたパーティが多忙やプレッシャーで調子を崩すことはよくある。そこでバランスを取って自分たちの戦いに向き合えた者だけが、超上級の冒険者として活動し続けられるのだ。が……」


 グリコはそこでパラソルの下から立ち上がり、美しい銀髪をパッと跳ねて言った。


「そこは彼ら次第だろう」


 さすがに世界1位の言葉には重みがある。


 背中は脊柱起立筋が際立きわだっており、がっちりとした筋肉の乗ったお尻にピンクの水着がむちむちいっていた。


「……ところでどうだ? 私の水着姿は。色っぽいだろう」


 お前いつもそんなような恰好してんじゃねーかとは思ったが、女性にそれはあまりに失礼だと思って、


「そうだな。綺麗な筋肉だよ」


 と返すと、グリコは満足してガルシアたちのビーチバレーにまざりに行った。


「グリコさんだー」


「わーい」


 彼女が行くと、メイドたちは三人でその腕にぶら下がって歓迎した。


 モリエのこともあるし、あいつはどうやらあのくらいの年代の少女たちに好かれる何かがあるらしい。


 グリコはその日に空を飛んでザハルベルトへ帰っていったので、メイドたちは寂しがっていたな。



 ◇



 ところで、今回の慰安旅行は俺にとっては磯村での修行も兼ねている。


 ゆえに次の日からは訓練を指揮するスケジュールとなっていた。


 館のみんなはまた海で遊ぶらしいけど、あのテンションではしゃぐのは一日くらいでお腹いっぱいである。


 ああいうのもたまにはいいけど、俺には訓練の方が性に合っているのかもな。



 ヒヒーン、ヒヒーン……


 そしてこの日は、外村に頼んでいた馬40頭が届いていた。


 人口700の磯村の部隊所属者は40名ほどにものぼるので、ここでかねてよりの念願だった騎兵部隊用の訓練が開始できる。


 とは言え、みんな元は漁師という者がほとんどなので、まずは乗馬の訓練から始めなければならない。


「ひー、領主さま~!」


「落ちる、落ちる~!!」


 もちろん、みんながみんなチヨのようにすぐに馬に乗れるわけじゃなかった。


 戦闘能力以前の基礎的な運動能力には、当然個人差があるものだからな。


 そこは【憑依】を駆使してバランスのコツを仕込んでいく。


「よしわかった。みんなここに並べ」


「はあ」


「なにをするんで?」


 俺は各人の肉体へ魂だけで入っていき、各人の肉体を俺の意思で動かし、馬に乗ってみせた。


 ようするに、『馬に乗るというのはこういうことだ』というのを身体に覚え込ませるのである。


「おお、乗れる! 乗れるぞ!」


 中には身体感覚に優れた者もいて、それですぐに乗りこなす者もあった。


 しかし一日かけても全員乗ることはできなかったので、もう一日を乗馬訓練に費やすことにする。


 で、三日目になるとおおよその者が馬に乗れるようになったが、俺は憑依でヘトヘトになっていた。


 憑依はただでさえ神経を使う育成スキルなのだが、それを連日で何十連続とやったのだから疲れて当然である。


「ぜーぜー、もうダメだ」


 俺はさすがに音をあげてひっくり返っていたのだが、ふと、前衛のエース、エリ子さんが馬上で物干し竿をクルクルと回しているのを見て、


『あ、騎兵部隊はいける』


 と腹に落ちた。


 そうなってくると、課題だった陸上戦闘も、だんだん形が見えてくる。


 海上戦は艦の主砲を中心に、前衛がサポートに回る形だった。


 しかし、陸上戦では野砲がサポートに回り、馬上の前衛が主力となるのだ。


 あとは精度と連携を高めていけばいい。


「ヒャッハー!」


「気持ちいい!!」


 乗馬も慣れてくるとみんな楽しそうだった。


「領主さま!」


 そんな時、エリ子さんが馬で駆け寄って来て、物干し竿をかついで言った。


「どうした?」


「いえ、どうってことはないんだけどさ……」


「遠慮しないで、なんでも気になることがあったら言ってよ」


「そうかい?」


 そう言うとエリ子さんは馬上の大きな尻をモジモジさせて言った。


「その……馬ってのは美しいねえ」


 漁師の未亡人のそんな言葉が、俺のその日の気分を果てしなく爽やかなものにした。



 ◇



 けっきょく、温泉旅館&磯村の訓練には4泊5日を要した。


 同じような訓練が他の村にも必要だなと思いながら、ヘトヘトなのでとにかく館に帰ることにする。


「ただいまー!」


 館へ帰ってソファへ腰かけると、すごい落ち着いた。


「楽しかったねー」


「ねー」


「また行きたいねー」


 メイドたちは口々にそう言ってニコニコしているので、大変だったけど連れていってよかったと思った。


「エイガさま、お手紙がこんなに……」


 そんな時、帰るなり瞬く間に私服からレディスーツに着替えていた五十嵐さんが手紙の束を持ってきてくれた。


 礼を言ってそれをざっと確認していると、ふと、一枚の封筒に目が止まる。


「おっ、またザハルベルトのギルド本部からだ」


「へえ、今度は何ッスかねえ」


「この前は首尾よくクラーケンを倒したからな。おそらく今度は陸系のA級ボスの依頼だろう。そうやって実力を確認していってS級に上げるか審査していくんだ」


 俺は勇者パーティ時代後半の経験からそんな順序を予想した。


 まだ騎兵部隊も整備できてないし、陸上戦闘でA級ボスはちょっとキツいけどな。


 ある程度までいったら実戦で育成した方がいいだろう。


 そんなふうに考えながら、封を破り、中を手で探ってみたのだが、カードのようなものが指に触れるので『おや?』と思った。


 で、そいつを引っ張り出してみると、金銀や細かい宝石で飾りたてられたカードの裏面がパッと目に入る。


「え、まさか……!?」


 カードを表に向けると、こう書かれていた。



【エイガの領地・S級ライセンス】


※これで13章が引けて、次回より14章『ザハルベルトより』になります。

ここまでご覧くださりありがとうございます。


ところで、先日9月7日はコミックス版1巻が発売されました。

お買い求めいただいた方におかれましてはまことに感謝でございます。


明日、9月12日はノベル3巻が書店に出回るころです。

書き下ろしは過去編で、モリエとガルシアが出てきます。

この土日に書店へいらっしゃる皆様にはぜひお手に取ってご覧いただければ幸いです。


それでは、Webの次章もぜひお楽しみください。

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