第100話 島村
お待たせいたしました。更新再開してまいります!
島村は俺の領地【遠雲】の中で唯一、離島にある村だ。
黒王丸で飛んで上空から見るとその様がよくわかる。
ヒヒーン……!
果てしなく広がる青い海を背景に、ポツンと浮かぶ緑の島。
面積は小さいながら起伏があり、その傾斜に10世帯あまりが身を寄せ合うように村を形成している。
産業は主に漁業。
男は一本釣り、女は海女となり貝や海藻を採って暮らしているのだそうな。
で、この島には射手のエース杏子を含めて男女5名の部隊所属者がいる。
その日は、杏子を中心に従来の戦法の確認をしながら、リヴが最近作った試作品の武器を試したりなどした。
「行きますよ、先生!」
「おーう!」
杏子は試作の野砲マギ・ランチャーを担ぎ狙いを定める。
ボン!!……ひゅーん…………ちゅどおおーん!!
「わあ! 速くて狙いやすいですね」
砲撃の風圧で杏子の風のスカートがパタパタとめくれる。
そう。
彼女の言う通り、この砲は弾のスピードとコントロールに重点が置かれていた。
そのために使われている新技術は、リヴの話によると以下の二つ。
1 発射のパワーにも火薬ではなく魔力が使われている。
2 砲筒は弾よりわずかにせまく、内部に螺旋状の溝がほどこされているため、弾が回転しながら射出される。
とのこと。
ただし、俺には1はまだしも、2はよくわからなかった。
リヴは『回転によって弾の軌道が安定するはずだよ』って言うけれど、冒険者の間でも弾が回転する銃や砲なんて聞いたことがない。
しかし、(俺が調子に乗って)リヴへ経験値を送りまくっていた結果に身に付いた技術というので、一応試しているというワケだ。
それにこの野砲マギランチャーは軽量な牽引式で、野を越え、山を越えする陸上のクエストでも持ち運べるという利点もある。
ボン!……ちゅどーん!!
ただ、軽量化のぶん25も魔法を融合できないので、威力の点では主砲ペンタグラムに劣る。
必殺の火力とするにはまだ工夫がいるだろう。
「よし、じゃあ午前はここまで」
「「「はーい!」」」
それからまた野砲の試打ちを中心に訓練を続けた後、お昼とした。
「先生! お昼なら浜で食べましょう」
「浜か」
そこで杏子がそう言うので、みんなで島の砂浜の方へ行った。
ザザーン、ザザーン……
砂漠のように白い、見事な砂浜だ。
風もいい。
部隊の子らは浜ぎわの土手へ座り、訓練に火照った頬に風を当てながらめいめい涼やかにお弁当を開く。
俺もそこに座り、彼らのメシを食う様子とその横に並ぶ浜木綿を眺めながらおにぎりをムシャムシャ食べ始めた。
そんな気持ちのいいお昼時のこと。
……キャッキャッキャ♪
ふいに、どこかから女性たちの声が聞こえてくる。
「なんだ?」
あたりを見回すと、岩磯の方で女戦士のようにたくましい背中の女性たちが木桶を抱えて、次々と岩に上がってくるのが見えた。
この島の海女たちだ。
みんな手拭いを巻いた頭にゴーグルを上げ、引き締まったお尻にふんどしを締めており、足は素足で、上半身は裸だが別に恥ずかしくもないらしく普通にニコニコしている。
彼女らもちょうど海から引き返して昼食をとり始めるところだったのだ。
「あっ♪ おーい、みんなー」
俺の隣で杏子がそんなふうに手を振る。
すると海女たちの何人かは笑顔でこちらに手を振って、木桶の脇の小麦色の胸をぷるんぷるん揺らした。
そう。
杏子は元々ここで海女をしていた少女なので彼女らとは親しいのだ。
キャッキャッ……うふふ……♪
すると海女たちは俺の存在にも気づいたようで、こちらをチラチラと見ながらウワサ話をしているようだった。
女のウワサ話ほど怖いものはないと思い、俺は少し警戒する。
「あれ、何言ってんのかなあ」
「たぶんみんな先生がカッコイイって言ってるんですよ」
「……バカなこと言ってんじゃねーって」
杏子が妙なことを言うので俺は苦笑していたのだけれど、そうこうしていると海女たちもあちらで輪になって昼食を食べ始める。
少女から婦人まで砂浜へ尻をつき、小麦色の肉体にしたたる無数の水滴を浜の陽射しにジリジリと蒸発させている集団感はどこか神話的だった。
しかしその時。
そんな海女たちの輪へ、ひとりの男が篭を背負ってずいっと入って行くのを見て、俺はちょっとビックリする。
「なんだアイツ……?」
ただし、その篭と笠の格好に見覚えがあった。
谷村で仕入れをしていた男と同じ格好。
つまり外村の商人だろう。
それから男は中央で篭を下ろし、中から着物や髪飾り、香料に石鹸などを取り出す。
海女たちはキャーキャーと声をあげてそれを受け取っていった。
「あれ何やってんだ? プレゼントか?」
「違いますよー。ちゃんと買っているんです」
と杏子。
そうは言うが、俺からは何かと交換しているようには見えず、ただ海女たちが外村の男から品物を受け取っているだけにしか見えない。
しかし、外村の男がせわしなく帳簿を付けているので、それになんらかの意味があるのだろうかとは思った。
「杏子。ちょっとついて来てくれ」
「え? あ、はい」
どうしても気になったので、杏子をひとり連れて海女の輪の近くまでその様子を伺いに行くことにする。
俺が近寄ると、海女たちはまた互いの腕を絡めながらヒソヒソと俺の方を見るので、ちょっと足を進めるのに躊躇われたけれど、
「……っ」
俺はそんな女たちにひとつ笑みを見せてから、その中央で品物を広げる目当ての男の肩をポンと叩く。
「やあ。ちょっといいか?」
「む!? これは領主様……」
「それ、見せてもらっていいかな」
「へ、へえ。どうぞ」
俺はそう頼んで、彼らが谷村でも付けていた帳簿を見せてもらった。
「うーん……」
しかし、俺は極東の文字が(五十嵐さんに習ってはいるけれど)万全ではないし、内容が帳簿という独特なものなので、よくわからない。
ガルシアが付けているのともだいぶ違うけれど、アイツはわかってんのかな。
「……悪いけど、これどういう帳簿なのか説明してもらっていいか?」
「はあ。かしこまりまして」
外村の男の話を要約するとこうだ。
帳簿に記されているのは以下の三つ。
X『海女たちが外村へ渡した産物の種類と数』
Y『外村が海女たちに渡した品物の種類と数』
Z『X-Zで相殺した後の残数』
例えば、杏子が貝を10匹採り、その10匹を外村の男に渡したとする。
すると、帳簿には『外村は杏子から10匹の貝をもらった』ということがそのまま記録されるのだ。
そしてこの場合、外村の帳簿にそのように付けられるという情報が、杏子にとって収入なのである。
何故ならば、そのお返しとして後々、杏子は貝10匹ぶんの品物を外村の男からもらうことができるとわかっているからだ。
それから後日、杏子が外村から櫛をもらったとする。
すると、杏子が10匹貝を渡したうちの7匹ぶんは櫛と相殺されるのだ。
帳簿上で杏子が持っている残高は『貝3匹ぶん』ということになる。
基本その繰り返しで、帳簿には相殺後の『残高』が産物で更新されているのだと。
「へー、面白いんだな」
貨幣経済もないこの領地の人々の取引がイメージとずいぶん違って、俺はついそうつぶやいた。
結局は物と物を交換することになるようには思われるけど、物々交換とはあきらかに違っていて、少し混乱する。
こういう取引が領内すべてで行われているのだろうか?
「では領主さま。あっしはこれで」
俺が質問を考えていると、男は頭を下げてきびすを返してしまう。
「あっ、ちょま……」
「先生、先生!」
俺は男を引き止めようと思ったが、しかし、そこへ杏子が腕にしがみついてきてこんなことを言う。
「海女のみんなが先生にご飯一緒にしましょうって。ねえ、いいでしょう?」
え……マジ?
杏子にそうねだられて、俺は外村の男の背中と海女たちを交互に見ながら考えた。
「うーん、そうだな……」
そもそも、わざわざ自ら村へ出向いて修行している目的は『それまで親交の薄かった村の人々とも人間関係を築いていく』ってことだったもんな。
せっかく領民から誘ってくれたものを無下にするのはもったいない。
俺は外村の商人の去って行くのをしぶしぶ見送りながら返事した。
「……ああ。わかった。みんなで食べよう」
「やったー!」
俺は杏子のおさげ頭をよしよしなでると、「じゃあ、お邪魔するな」と言って海女たちの輪の中へ腰を下ろして再びおにぎりを食べ始めた。
うふふ……キャキャ♪
島村の海女たちは領内でも木村に並んで身体的に寛容で、人魚のような野性味があるけれど、意外とちょっぴり内気なところもあるのが好ましくて、すぐに打ち解けてしまった。
それから午後は訓練は少し置いて、海女や島の人たちと泳ぎの競争などして一日が終わったのだった。
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