第97話 木村Ⅱ
後日。
俺は『木村』にあるチヨの実家へ、お泊りセットを持って行った。
「というわけでチヨ。とりあえず今日の夜はお前んとこ泊めてくれよ」
「うん、わかった! ウチ、元気な赤ちゃん産むね!!」
チヨはふんどしのお尻をぷりっとさせて、元気よく答えた。
「って……お前。話聞いてなかっただろ」
「え?」
そう。
十蔵が言うようにそれぞれ平等に7つの村の娘と子供作っておくとか、そんな面倒はさすがに勘弁してほしかった。
領主として器が小さいって言われるかもしれんけど、俺なんてついこの間までイチ冒険者だったんだし……急にそんなこと言われてもこっちの気持ちというのもあるんだからね。
でも、十蔵の言ったことも部分的にはもっともだと思われるところもあるんだよな。
と言うのは、『領主というものは領地全体をある程度公平に扱わなければならない』って部分だ。
そりゃ領主である俺が(婚約者のフリでも)五十嵐家とばかり仲良くしてたら、他の村の者たちからすれば『中村ばかり肩入れして、自分たちの村は放っておかれるんじゃないか……?』って不安に思うのも当然だろう。
ただでさえ中村は領内最大の村なのだ。
だからと言って今さら五十嵐さんとの婚約者のフリをヤメるわけにもいかないので、何らかの方法で他の6つの村や産業とも俺との繋がりを深くし、不安や不満を解消してやらなきゃならない。
そこで、だ。
これまで館の前へ一斉に呼んでおこなっていた領民部隊の修行を、俺が直接村へ泊まり込んで行う機会を設けたのだ。
他の村人たちに修行風景を見てもらえるし、村にお泊まりさせてもらえばそれで五十嵐家と同じような交流ができるのではないかと思ったのである。
ただ、それもあんまり馴染みの薄い村から始めるのは俺的にもハードルが高いので、手始めに一度泊まったことのある『木村』の長のところへ泊めてもらおうとしたのだが……
『今、うちは親戚が来ででな。間取り的に都合が悪りぃだ。でも、チヨのところなら大丈夫そうだでよ。ゆっくりしていってくだせえな』
と言うので、チヨの家に来たというワケ。
そんなふうに改めて説明すると、しかし、チヨは頭にハテナを浮かべて言った。
「あれ? でも長、ウチには『オメーは村の希望だ。一発キバって来いな』って言ってたよ」
あっ、あの長……。
「ど、どうしよう。ウチ、そのつもりでご先祖様に報告しちゃったのに」
チヨは小ぢんまりとした家の奥の神棚をチラリと見て、ふんどしの股間を不安げにモジっとさせる。
「やれやれ……」
俺はため息をつくと、女武闘家の肩をやさしく抱いて言った。
「ご先祖様には俺からよく言っておくから大丈夫だよ。ほら、みんな待ってるし、修行へいこう」
「……うん!」
こうしてチヨの家にお泊りセットを置くと、ふたりで木村の広場へと出ていった。
◇
「そこでまわって! 内側の車輪は寄るからね!」
チヨがそう号令すると、木村の若衆が車輪付きの荷車をカーブさせる。
ドドドドド……
木村出身の部隊の者は、それぞれ剣士や魔法使いの職性を持ちながら、輸送、兵站の特殊部隊的な位置づけをも持っていた。
これはその修行である。
戦闘の中でのアイテム輸送は、ただ運ぶというだけでは済まず、迅速さと隙を見せない足取りが求められるのである。
「うん、だいぶスピードがあがってるな」
と、俺。
「でも、ここでカーブするってことは、視界が開けていないってことだろ? スピードも大事だけど、岩や木の影からモンスターに襲われた場合にも対応できるよう臨戦態勢を保ってなきゃな。ちょっと俺がやってみるから見てろ」
そう言って俺はみんなをどけ、一人左手で荷車を持ち、もう片方の手で剣を掲げながら荷の車輪を操った。
「むっ……!!」
ギギギ、ギ、ギ……
「なっ!! 片手であの重てえ荷車を……」
「ず、すげえ力だ!」
そんなふうに言うのは、周りで見物している木村の人々だ。
一方、同じ木村出身の者でも、部隊の者は驚いたりはしない。
「さずが領主、左腕以外に荷を持づ力みがねーな」
「ごれなら荷を運びながら武器を使えそうだ」
彼らは俺個人の能力についても幾多の実戦を通して知っているので、冷静に分析して参考にしようとするまでである。
「あいづら……」
「なんであんな冷静なんだ?」
見物たちは部隊の者たちを見てまた驚く。
そう。
こうした修行風景を見てもらえば、俺とこの村出身の部隊の者たちとの間でこれだけの『付き合いの深さ』があるんだってことを知ってもらえるんじゃねーかなって思うんだ。
「じゃあアンタたち。領主さまの言うとおり武器を持ってやってみよっ!」
そして、チヨがそう声をかけると、また彼らは修行の続きに入った。
……ドドドドド
ところで。
海戦では活躍の場が少なかった木村の輸送部隊だが、これから陸上戦闘の向上を考える上ではすげーポイントになると考えている。
重装備の輸送が洗練されれば、艦で使用した主砲ペンタグラムのような武器を陸上でも使用できるんじゃねーかって思うからだ。
まあ、ペンタグラムのような巨大な装置を陸送で運ぶのはさすがに無理があるだろうから、もう少しコンパクトな砲になるだろうけどな。
「よし、今日はここまでにしよう!」
そうこう考えているといつの間にか日が暮れかかっていたので、修行を切り上げた。





