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【11章挿話】 回復系白魔導士エマ・ドレスラー(2)



――凱旋パレードが終わったら、ちょっと休みにしよう。オレたち、ここまで走り続けてきたもんな――



 魔王アニムスを倒した後、クロス先輩はそんなふうに言ってたんですけどねー。


「ぜんぜん休みになんかならないじゃないですかーぁ!!(怒)」


 アタシはその怒りを、隣のデリーへ向かって爆発させました。


「エマ……」


 と、無表情なデリーの長髪が、ひゅるると青空の下になびきます。


 そう。


 ここはザハルベルト中心街の高級デパートの屋上。


 アタシたちはここでもよおされる『奇跡の5人ファン・イベント』に駆り出されているというワケです。


「今日はイベント。明日は撮影。あさってはインタビュー。せっかく休みになったら積んでたBL本読みまくろうって思ってたのにー!」


「……でも、来週にはさすがに休みにしようって、クロスさんが言ってたよ」


 と、アタシと二人の時は普通にしゃべるデリー。


「えー、本当ですかぁー?」


「うん、今度こそはってさ。それに……オレたちはまだマシな方だよね」


 とデリーが指さすのは向こうの紳士淑女の人だかりでした。


 その中心にはもちろん勇者――クロス先輩がいます。



「勇者様。どうしたら勇者様のように成功できるんでしょうか」


「私たちにもどうにかあやかりたいもんですなぁ」


 そんなふうに、彼らはこぞってクロス先輩へ『成功の秘訣』を尋ねます。


「そうですね。自分の限界を定めずに挑戦し続けることだと思います。たしかに冒険者として上を目指していくのは多くの困難がつきまといます。魔王級ともなればなおさらでしょう。しかし、挑戦することをあきらめた人生なんて、オレは面白いとは思わない」


「おおー」


「さすが勇者様!」


 パチパチパチパチ!


 こんなふうに、クロス先輩のいかにも頭カラッポな口ぶりは、ザハルベルトの新興なりきんビジネスパーソンや虚栄心の強い婦人インフルエンサーに大ウケします(笑)


「まあ、クロス先輩はいいんですよ。アレは天然ですからねー」


 アタシはそうつぶやきながら、今度はもう一人の天然を見やりました。


「モリエちゃーん!」


「モリエちゃん! 頑張って」


「ありがとー。ボクがんばるー」


 あちらでは近頃またたく間にアイドル化してしまったモリエの辺りで、もっさりとした人だかりができ、ミニ握手会が繰り広げられています。


 あーあ、ちょーウケる……


 アタシはため息をついて首を振りました。



 ◇



 ザハルベルトは、世界一の大都会であるのと同時に、冒険のメッカでもあります。


 街には大量の人口があり、市民たちの『冒険』に対する興味や意識も高く、S級パーティにはスター性や社会貢献も求められる。


 どんなに気に食わなくてもそれが現実です。



 で、アタシもそれはわかっていたつもりなんですけれどねー。


 魔王アニムスを倒してからそこらへん、さらに酷くなっちゃったんですよぉ。


 殺到するファンやマスコミ。


 一挙手一投足に注目が集まり、ちょっとしたことで炎上する……。


 人々の一人一人は人なんですけど、それが大量に寄り集まって『大衆』になると、まるで巨大な一匹の魔物リヴァイアサンのようにも見えます。


 ですから。


 モリエみたいな赤ちゃんがポケーっとしていると、あっという間にアイドルへと祭り上げられちゃったりするわけです。


 え? アタシですか?


 そりゃ容姿端麗、品行方正なアタシ、エマ・ドレスラーちゃん(19)がちょっとその気になれば、モリエなんてめじゃないくらいのスーパーアイドルになっちゃうんでしょうけどぉ。


 アタシやデリーはちょっとそーゆーの苦手っていうかー、まわりでピーピー騒がれるのとかウザいんで、そこらへん()()()距離をとっているんですよー。


「まあ、確かにクロス先輩やモリエと比べれば、アタシたちはまだ静かに暮らせてますねー。……って、あれ。デリー?」


 気づくと隣にいたデリーがいません。


「「「デリーくーん♡♡」」」


 すると、どこからともなくデリーのファンの子たちが波のごとく押し寄せてきました。


 ドドドドド……。


 どうやらデリーのヤツ、彼女らの気配を察知して逃げていってしまったようです。


 なんか、一人になってしまいました。


 ……ポツン。


「べ、別に寂しくなんかないんですからね!」


 で、そんなふうに吐き捨てて振り返った時。


 会場の端っこのパラソルの下に、金髪の三つ編み先輩が一人ぼっちで座っているのを見つけます。


 ふふ~ん♪


 アタシは気配を消しながらパラソルへ近づき、そーっと先輩の後ろへにじり寄りました。


 椅子の背もたれから少しだけ離れたS字の背筋に、大人の女性って感じのとがった肩。


 金髪ブロンドを耳にかけながら、机ではペンを走らせているようです。


 アタシはそんな先輩の背後から両脇へサッと手を差し入れて、ニット地にぷりっとしたおっぱいをむんずとわしづかみにして言いました。


 モミモミモミ♡……


「だーれだ?(笑)」


「きゃ、きゃああっ!」


 途端、真面目ぶった肢体がジタバタと暴れ、三つ編みが踊り、赤いメガネが鼻梁から少し滑り落ちます。


「って……エマ!?」


「うふふ~♪ ティアナ先ー輩!」


 アタシはティアナ先輩の驚く顔がちょー面白くて、満面の笑みで隣の席に座りました。


「もう……なによ、いきなり」


 と怒りながら、先輩はなにやら書きかけの便箋をさりげなく隠しています。


 ああ、そう言えば……。


 デリーがやっと来週は休みだって言ってましたねー。


「先輩」


「え?」


「今度のお休みにはエイガ先輩の領地へ行くんですよね?」


「そ……!? そんなのあなたには関係ないでしょう」


 ティアナ先輩はうつむきがちにぷいっと顔をそらしましたが、アタシがじーっと見ているとやがて観念したようで、


「う、うん……。そうなの」


 と、恥ずかしそうに三つ編みをいじっていました。


 チッ、さすがに可愛いですね。


 アタシはため息をついて続けます。


「ティアナ先輩、もうそのままエイガ先輩と領地で暮らしちゃったらいいじゃないですかー」


「……そういうわけにはいかないでしょ」


「どーして??」


「どうしてって……。だって、このパーティを放っておくことはできないもの」


 アタシはため息をついて答えます。


「まあ、そりゃー客観的に言ってティアナ先輩がパーティから抜けたらチョー痛いですけどねー。ティアナ先輩は、エイガ先輩とは違って『代え』が効かないんですから」


「エマ、そんな言い方はやめて……」


 と、まーだそんな悲しそうな顔をするティアナ先輩。


 マジ面倒くさいですねー。


「そもそもぉー、ティアナ先輩自身がこのパーティでやりたいことってなんなんですか?」


「やりたいこと?」


 ティアナ先輩は意表をつかれたようにメガネの向こうの目をぱちくりさせて聞き返します。


「そうですよ。例えば、クロス先輩やモリエみたいな天然モノは強い敵を倒すことそのものが『やりたいこと』って感じでしょ。それから、アタシやデリーはどうしても魔王を倒したいってことでここまでやってきたんです。でも、ティアナ先輩は実際そーでもないでしょ? もともとただ『魔物の被害に苦しんでいる人を助けてあげたい』とか、そーゆうモチベで冒険やってる甘ちゃんじゃないですかぁww」


「私。そんなんじゃないわ!」


 おちょくるように言うと、ティアナ先輩は三つ編みを怒らせて反発します。


「わ、私だって、わがまま言うもん」


「そーですかぁ?ww」


 アタシは鼻先で嘲笑してから答えます。


「だったら、『パーティのことを第一に』なんて、考えなくていいじゃないですか。そんなのはあのアホ、エイガ先輩の勝手な思い込みなんですからね。ティアナ先輩は、ティアナ先輩がしたいようにすればイイだけでしょ」


「……」


 そこまで言うと、ティアナ先輩はもう黙って何も言いませんでした。


 会場で起こるクロス先輩やモリエやデリーのファンたちの歓声がやけに遠くに聞こえてきます。


 やれやれ。


 アタシはため息をついて、ボーイにカフェオレでも頼もうと辺りを見回しました。


 そんな時です。


「やあ、ティアナ君」


 アタシたちのパラソルの席に、一人の男エルフがやってきたのは。


「げっ」


 アタシは思わずそう口にします。


 男はそんなアタシをギロリと一瞥すると、ティアナ先輩の隣の席を指さして、


「ここ、いいかな?」


 と尋ねます。


「ええ」


 そう答えると、男はティアナ先輩の肩に軽く手を触れながら隣の席へと着きました。


「やれやれ。キミみたいな女性がこんな大衆的な場に駆り出される必要はないと思うのだけどね」


「はあ……」


 この男エルフは一応は知り合いで、預言庁の『大賢者エル』といいます。


 ちなみに、めちゃエライ人です。


 大賢者というのは賢者の上位職で、現在世界で彼一人しかいません。


 8魔王襲来の予言や準魔王級出現特定などを取り仕切り、ギルドの最高権力者でもあります。


 今年で223歳になるという話なんですけど、エルフ特有の長寿で、若々しくイケメンな顔へさわやかな笑顔を張り付けていました。


 ああ、それと。


 こういうイベント会場でティアナ先輩に人が寄り付かないのは、この男のおかげ(?)らしいですよ。


 つまり、『あの大賢者エルが気に入っている』という話をザハルベルトの人はみんな知っているので、ティアナ先輩へ近づけないんです。


 怖いですねーww


 まあ、ティアナ先輩自身はそこらへん全然気づいていないみたいなのはちょーウケますけど(笑)


「どうかな。このつえ、キミに似合うと思うんだけど」


「……そうね」


 大賢者エルはどうにか話を膨らまそうと、雑誌に載っているファッション杖の話とか、スイーツの話とか、いろいろと話題を提供するのですけれど、ティアナ先輩は「ええ」とか「そうね」とか答えるだけでうわの空です。


「それにしてもキミの支援系魔法は大したものだよ」


「(ピク……)そうかしら?」


 ただ、冒険の話になるとさすがにティアナ先輩もシャンとした受け答えするので、自然とそちらの話へと落ち着いていきます。


「うん。冒険者としても一流だけど、キミにはもっと上の可能性があると思う」


「上の可能性?」


「そう。すべての冒険者たちの上に立つ可能性さ」


 ティアナ先輩はきょとんとした顔をしますが、エルは笑顔を作って続けます。


「ええと、たしか……キミたちは来週から休みを取るのだったね」


「どうしてそれを?」


「ははっ、キミのスケジュールは常に調べさせているのさ」


 ちょ、それストーカーじゃないですか!


「どうだろう? キミには来週から少し僕のギルド運営の手伝いをしてほしいんだが」


「え、その。来週は……」


 ダメですよ!


 ティアナ先輩、来週はエイガ先輩の領地へ行くんですから!


「これはキミにとっても上へ行くチャンスになると思うが?」


「悪いけれど。私、出世欲はないの」


「何を言っているんだ。キミのような優秀な人が十分に能力を発揮することは、それだけ魔物の被害に遭う人々の苦しみを減らすことでもある。逆に、力ある人がポジションを得ようとしないのは、救える人を救わないことになるんじゃないか?」


「そ、それは……」


 カッチーン(怒)


 アタシはそれでつい頭に来て、ちょーヤバイとは知りつつ、つい横から口をはさんでしまいました。


「あはは! 必死すぎでちょーウケるww どーせフラれるのにー(笑)」


 するとエルは、エルフ族の端正な顔立ちを般若にしてアタシを睨みつけます。


「なんだキサマ、消されたいのか?」


 こ、怖っ……(汗)


「あ、アタシは親切で言っているんですよー。ティアナ先輩には他に好きな人がいるんですからねー!」


 そう言うと、エルのとがり耳がピクッと跳ねます。


「……クロス君なら、ゲーテブルク城のナターシャ姫との交際がウワサされているそうだが?」


「そーじゃないです。ティアナ先輩が好きなのは……」


「ちょっとエマ! やめて!!」


 とティアナ先輩は私の腕を抑えてあわてますが、アタシは気にせず続けました。


「ティアナ先輩が好きなのは、エイガ・ジャニエス(笑)このパーティを解雇された人ですよ!」


「……!!」


 そうおちょくるように言うと、大賢者エルはアタシには目もくれず、まだ見ぬ遠くの誰かを見るように空を睨みつけ、低い声でつぶやきました。


「ぎっ……エイガ・ジャニエスか。覚えておこう」


 ……あれ?


 ひょっとしたらこれで、エイガ先輩はザハルベルトの中央ギルドの最高権力者を敵に回しちゃったってことになるんですかね?


【お知らせ】

4月15日頃に書籍2巻が発売になります!

『活動報告』の方に詳細を更新しますので、よかったらご覧ください!


(それから、マンガの方も昨晩更新だったのでそちらもぜひぜひ!!)

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― 新着の感想 ―
エマが中学時代のトラブルメーカー(女子)とやってることがそっくり。ヘイトが集中するのも分かる。 この性格は簡単に治らないんだよなー
[一言] エマの野郎いつになれば死ぬ?
[一言] この世界の冒険者はやけに不自由だな
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