第93話 艦(3)
あれから大臣に港や艦をじっくりご覧いただいてから、また五十嵐家へ引き返して来た。
「それにしても、実際この目で見たにもかかわらず信じられん船だった。この技術力はきっと極東全体の発展も促すであろう。……さしあたって貴殿には褒美をやらねばな」
大臣はそのようにおっしゃってパンパンッと手を叩いた。
すると庭に控えていたらしき『お供の者』たちが、奇妙な魔器具を持ち運んでくる。
「これは……?」
見たこともないアイテムだった。
三つ脚の上に黒い箱型のボディを持ち、その先には筒状の部品が飛び出て、上部にふたつ車輪が付いている。
大砲?……じゃないよな。
「うむ。エイガ殿は活動写真なるものを知っておるか?」
「は? ええ、まあ。一応」
活動写真とは、写真や絵の動きを映しだす技術である。
商業都市ハーフェン・フェルトの劇場でティアナと観たやつだ。
「これはその活動写真を撮影する南蛮渡来の魔道具でな」
聞くと、大臣が地方を回っていたのは、この『撮影機』が手に入ったので極東の各地域の映像を記録するためだったのだそうだ。
なるほどね。
「しかし、麻呂はもう帝都へ帰らねばならぬし、この撮影機はエイガ殿に譲ろうと思うのだ」
「え!? でも貴重なものなのでは?」
「もちろん貴重だ。しかし、貴殿に託した方がその真価を発揮してくれるように思う。特に貴領がモンスターを倒す様子を撮影するとよいだろう」
「はあ」
この時の俺は『撮影機』のパワーにまだあまりピンと来ていなかったのだけど、
「ふふっ……正直申せばな。麻呂もあの艦と海の竜が戦う映像を見てみたいのだよ。わっはっはっは」
とおっしゃるし、せっかくの褒美なのでありがたく受け取ることにした。
◇
こうして大臣騒動が済むと、俺はさっそく海竜シーサーペント戦の準備に取りかかった。
今度の戦いにはもちろんモンスターと戦う鋼鉄の船【艦】を使用する。
艦は通常のパーティでは攻略が困難な海系モンスターと戦うために造ったんだから、シーサーペントはまさにうってつけの敵なのだ。
ただし艦は、
・全長:50ヤードル
・全幅:16ヤードル
・吃水:4ヤードル
・定員:150名
・攻撃能力:ラム、主砲1、機銃7
という、今までにない大規模な『武器』だ。
これの運用には燃料、弾、兵糧など大量の『もちもの』を必要とする。
「ええと、倉庫ストックのアイテム・リストは……」
「こちらです」
ふいに身体の側面に女体の起伏がぴったりと寄り添うのを感じると、目の前にリストが差し出された。
横を向くと、目つきの鋭い女秘書の綺麗な鼻梁が俺の顎にピトリと触れた。
ふっ、さすが五十嵐さんだな。
情報の管理と出し入れのスピードが半端ない。
「ふふっ、ありがとな」
俺は礼を言ってリストを受け取ると、艦へ積み込む『もちもの』の選定を始めた。
ところで、この『もちもの』の選定においてハーフェン・フェルトでの遠征のような予算の制約はない。
すでにクエストに必要なモノはだいたい国産できるように生産力を高めてきたので、これにあたって外貨をほとんど必要としないからだ。
例えば、回復薬はイサオさんの薬草から、穀物は中村の田んぼから、剣や矢じり、融合石の弾丸はリヴの鍛冶工房から、そして魔鉱石は領地の西側の鉱山から……
それぞれ各村の余剰生産物やクエストのためのアイテムは、常に水路を通って運ばれ、港の倉庫へストックすることになっている。
倉庫への入庫時にptの+-がガルシアの帳面へ記入されるというシステムである。
俺は燃料の魔鉱石を最優先にしながらも、今度の戦いに不足のないように積載アイテムを選別していった。
「エイガ殿! ただいま帰還してござる」
そうこうしていると片翼の塔からの引き上げを指示していた部隊が帆船で帰って来る。
彼らには3日の休養を与えた後、港に集結してもらった。
がやがや……
港。
岸に着けた艦の巨大な影は、近くで見上げるとまるでモンスターのようである。
「みんな!」
その前に並ぶ150人部隊へ振り返り、俺は気合をかける。
「今回の敵はA級のボス海竜シーサーペントだ!」
おー!!
「強敵だが油断しなきゃ倒せる! 気合入れてこーぜ!!」
おおー!!!!
部隊は鬨をあげると、ドヤドヤとタラップを上り艦へと乗り込んでいく。
気力十分だ。
そりゃ退屈な経験値貯めよりボス戦の方が気合入るよな。
俺はニッと微笑みながら、最後にゆっくりとタラップを上っていった。
キュイーン……!! ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
さて、艦の炉に魔鉱石が投下されたようだ。
魔動スクリューの回る振動。
汽笛が鳴り、艦が港から離れ、海原へと進み始める。
わーわー!!
領地を振り返ると、見送りの領民たちは旗を振って歓声を上げていた。
みんな、この艦のことは領地全体で造り出した息子のように思っているのである。





