第91話 艦(1)
――3か月後。
あれから基本的に領地とクエストを往復する日々が続いていたのだけれど、ある日、俺は道すがらスカハマに立ち寄って『冒険者ギルド極東出先機関』へやってきていた。
取り組むクエストについての相談を続けなきゃいけないし、定期的に世界の情報を得ておくのは大切だからな。
ざわざわ、ざわ……
冒険パーティで賑わうスカハマのギルド事務所。
俺はひとり待合室でチェアーに座り、タバコへ火をつけ、モソモソと新聞を開く。
すると、
≪奇跡の5人、世界2位になる!≫
ふと、そんな見出しに目が止まった。
≪勇者クロスは「俺たちの戦いは始まったばかりです」と答え……≫
というクロスのインタビュー記事は「まあいいか」と思い新聞を閉じると、次は雑誌【冒険王】の最新号を開いてみた。
そのランキングを見てみると、たしかに『奇跡の5人』が女勇者パーティや賢者パーティといった大御所を抑え、2位にランクインしている。
ちなみに、1位は魔法剣士グリコ・フォンタニエ。
さすがグリコは強えーな。
「おっ!?」
それから、なんと俺たち『エイガの領地』が56位にランクインしている。
ランキングにとらわれすぎるのはよくないけれど、こうして冒険王の順位に載るってのはイチ冒険者としてはやはり胸がじんわりと熱くさせられることだった。
ペラ、ペラ……
俺はさらに冒険王をめくってみる。
雑誌には冒険に対する真摯な評論から、『グリコの部屋』のようなお笑いコーナーまで硬軟ある。
そんな紙面をずっと眺めていると、どうやらザハルベルトの冒険評論家界隈では≪奇跡の5人の2位は過大評価だ≫という意見もあるらしかった。
でも、それは『出る杭』を打ちたいヤツの悪口じゃねーかな?
ひいき目を抜きにしてもアイツらの2位は順当な評価だと俺は思うぜ。
そもそも、去年の女勇者パーティや賢者パーティは活動そのものが停滞していた一方、クロスたちはコツコツ精力的に活動をしていて魔王級討伐だけじゃなく数体の準魔王級討伐もこなしていたのである。
そして、第6魔王アニムス討伐の凱旋パレード後、ザハルベルトのギルドから年間の『賞』を立て続けに獲得してもいた。
まず、パーティはS級年間新人賞。
クロスは個人のS級年間新人賞を獲得していた。
それから、ティアナとエマが『ゴールデン後衛賞』に選出。
モリエはザハルベルトの冒険評論家から『特別審査員賞』を受賞。
デリーは今季の『与ダメージ3位』を記録した。(ちなみに、与ダメージ1位はグリコ、2位は女勇者、クロスは6位、モリエが11位である)
アクアの記事にはこうあった。
≪総じて勇者クロス・アンドリューの超必殺技ギガストライクによる決定力の目立った一年であったが、メンバーそれぞれの活躍も光った。特に、多彩な支援魔法に定評のあるティアナ・ファン・レールは予言庁エルから大絶賛を得て、次期ギルドマスターにと推されている。モリエ・ラクストレームはアイドル的人気を博し、初のコンサートはチケットが即日完売となるなど話題になった。奇跡の5人から今後も目が離せない≫
ふーん……って!?
「モリエのヤツ、何やってんだ!?」
と、思わずその場でひとり叫ぶと、待合室の冒険者たちは一斉に怪訝な顔で俺を見た。
ヒソヒソ、ヒソ……
「うっ……け、ケホン(照)」
俺は恥ずかしさをまぎらわすために咳払いをする。
まあ。
いずれにせよ去年はアイツらにとって飛躍の年で、ザハルベルトでの注目も相当だってのは確かなようだった。
これじゃあろくに休みも取れない、か……。
「エイガ様ー、エイガ・ジャニエス様ー」
そんなふうにため息をついていると、ギルド出先機関の職員が俺の名を呼んだ。
俺はタバコの火を消して立ち上がり、受付へ向かった。
「新規でA級ボス討伐依頼が2件来ています」
と職員。
「おっ、一気に?」
「“エイガの領地”様は話題性がありますからね。これでA級のボス討伐依頼は全部で6件になります」
職員はそう言ってペーパーを俺へ渡した。
<<<<<<<<<<<
1 やまの巨人
2 川竜ジャイアント・クロコダイル
3 ジャイアント・トロール
4 キラー・ビーの巣
5 海竜シーサーペント
6 翼竜ラードン
>>>>>>>>>>>
新規案件は5番と6番。
さすがA級のボスだけあっておそろしい顔ぶれである。
新規の2匹もすげえモンスターだ。
ちょうど勇者パーティを解雇になる直前まで敵にしていたレベルのモンスターと言っていいだろう。
コイツらを倒す実力があると判断されれば、いよいよザハルベルトからお呼びがかかるはずだ。
「個人的には、“エイガの領地”様はまだ無理にA級のボス討伐依頼へ応じる必要もないと思います」
職員はそんなふうに言う。
しかし俺は、
「5番の案件を任せてくれ」
と答えた。
「5番と申しますと……海竜シーサーペント討伐ですか!? この中で一番の難敵ですよ?」
そう。たしかにシーサーペントは6つの中で、唯一戦闘力20万超えているほどの強敵。
でも、そもそも俺たちにとって、すでに敵を選ぶポイントは戦闘力ではなくなっていた。
倒せるか倒せないかは、作戦が立つか立たないか。
「つまり、敵がどんな属性を持ち、どんな強さと弱点があり、どこに出現するかの方がよほど重要なんだ」
「はあ」
と、職員は首をかしげる。
俺は彼から海竜シーサーペントの情報ファイルを受け取ると、出先機関を去り、すぐにスカハマから飛びたった。
◇
俺はスカハマから黒王丸で飛び、そのまま片翼の塔のクエスト現場へ向かう。
塔では今、140名あまりの領民部隊がゴーレム狩りにあたっているはずだ。
前まではそれこそ150名のフル態勢だったのだけれど、領地で『艦の造営』が始まってからは攻撃系魔法使いの10名ほどが領地に引き返している。
彼ら10名だけは例の『溶接』で魔鉱石のエネルギーを炎系の魔法へ変換する仕事に従事しているのだ。
ヒヒーン!……
ところで、塔の攻略に先立って、大工職性の山本ゴン吉さんには周辺の荒野に簡易の【宿舎】を作ってもらっていた。
彼の建設能力でどこにでも宿舎を建てることができるので、いちいち街へ引き返さなくても100人規模の部隊が現場の近くで寝起きすることが可能になる。
もちろん、ローテーションして週に2~3日は休養日を設けるので、そんな時はみんなラムーの町へ行って遊んでくるらしいんだけどな。
「おっ」
で、俺がその宿舎の上空へ着いたのは朝だったので、ちょうど部隊が宿舎から出ていくところであった。
部隊の140名がアイテムの荷車や馬を引いて、ぞろぞろと塔へ向って行くのである。
「ちょっと待っとくか」
今日の攻略が始まっているのに下手に口を出すとむしろ邪魔だろう。
そう思って、俺はしばらく上空で様子を眺めることにする。
ぞろぞろ……
領民たちはガヤガヤと談笑しながらも整然と班に分かれ、馬や荷車を並べる。
慣れたものだ。
準備が調うと、ナオの指示で順に塔への侵入が始まった。
領民部隊はすべて、ひとりずつ馬の飛行魔法で順々にふわり↑ふわり↑と飛び上がっていく。
ヒヒーン、ヒヒーン……ヒヒーン!
以前はこの役割は黒王丸のみが果たしていたのだけれど、今は全部で4頭の馬が空を飛べるようになっている。
100名以上の部隊が外から60階へ飛んでテラスから塔へ侵入し、ゴーレムを狩り、融合石を得ると、それを地上へ持ち帰るのにもまたテラスから降りていく。
目的のみを果たす、効率的な攻略というワケだ。
「B班とE班が引き返すので、馬を出してください」
通信魔法トランシーバーで、通信を取り合う支援系部隊。
西園寺華那子のフロア内偵察能力で各班の状況を聞いたナオがそれぞれへ指示を出すという連携。
すでに俺がいなくても塔のゴーレム狩りは回っていく状態になっていた。
まあ、俺がいないと経験値は2倍にならないし、その経験値を領地へ送ることができないので、基本現場にいるようにしているんだけどね。
「よお、お疲れさま」
で、しばらくすると俺は空から降りて、塔の下で馬の指揮をしている坂東義太郎へ声をかけた。
「エイガ殿! 今おかえりでござるか」
「うん。今日も順調みたいだな」
「はっ。融合石も溜まってきてござる。また輸送船に来てもらわねばなりませぬな」
なるほど。ちょうどいい。
「じゃあ順調なところ悪いけど、今日のクエストはお昼までにしよう。そんで昼飯が終わったら話があるから部隊を全員集合させておいてくれ」
「何かあったのでござるか?」
「ああ。経験値タメはここまでってことさ」
「は?」
俺は怪訝な顔をする侍へ黒王丸の手綱を渡すと言った。
「強敵を倒しに行くんだ!」
◇お知らせ◇
育成スキル【2巻】が4月(来月)に発売です。
1巻が好調で重版の勢いが続けば……と思っております。
詳しくは活動報告をご覧ください。





