覚醒
《脈拍正常確認及び身体スキャン完了コールドスリープ正常に終了しました。》
宇宙軍少尉のスバルは警報音と共に目を冷ます。
(生きているってことは恒星間航行実験で爆発はしなかったようで安心した)
状況確認の為、管理システムのAIに呼びかける。
「ヒミコ、状況説明を頼む。」
機械的な音声でヒミコが発言する。
《完結にお伝え致します。499回目の恒星間航行に失敗し、本艦は銀河系より消失し未知の何処へ宇宙漂流しました。中将以下士官の皆様8名は緊急対応マニュアル二条一項に基づき軍務を全うされました。》
(あ、詰んだやつやん…たしか緊急対応マニュアルは相当ヤバイ状況じゃないと発生しないはずだし二条は生存第一で不時着できる惑星を探すってことだよなシステムに命令できる士官がいなくなるまで…)
マニュアルに沿ってヒミコに確認する。
「経過時間と生存率の報告を頼む」
《実験失敗から2050年2月経過しております。緊急コード001状況下にあり無人航行を800年継続しておりました。生存率に関しては99.8%の確立で平均寿命の200歳まで問題なく生活できます。》
(乗務員数2名の緊急コードも発令されているわけね…ってことは!)
あと175年はこの艦と共に宇宙のデブリとして生活しなくても良い快適ライフを望みヒミコに確認する。
「本艦の設備状況を頼む。」
《本艦設備が実験前より防衛戦力率が580%上昇しています。中将以下8名の技術士官が時間の許す限り、研究と改造を行われました。研究資料は専用ファイルにまとめてあります。資源反応のある小惑星から資源を回収し資源率1500%上昇しております。問題は食料備蓄です。私の権限では消費期限を過ぎた物しか破棄出来ず、中将以下8名の士官の効率化により食料備蓄率が15300%上昇しております。すぐに消費期限が50年未満の物を破棄する命令をください。》
なにをやっているんだ!あの技術オタクども。
「頼む今すぐ消費期限50年未満の食料を破棄してくれ」
《スバル少尉の命令を受託いましました。重量エラー復旧致しました。スバル少尉の生体認証により受諾。本艦権限により少尉を艦長に就任処理も完了致しました。あわせて艦長へ報告資料を送ります。》
ヒミコから俺の専用デバイスに報告書が送られてきた。デバイスを操作して確認する。
報告書には2000年に渡る航行の概要と1日前に空気がある惑星を発見したことが記載されており、ヒミコには惑星探査を行う権限がない為、スバルをコールドスリープから起こしたと記載してあった。
「ヒミコ、この惑星を今後アルファとして探査する場合なんだが、俺が指揮すれば可能なのか?」
《艦長、緊急マニュアルが発動しておりますので、試験艦である本艦でもアルファを調査することは可能です。しかし惑星開発法に抵触する恐れがございます。》
技術試験艦であるニッポンの任務は試験を行うことこそが任務であり、緊急時に戦闘行動こそ許可されるが、こちらから未知の惑星の調査となると、どんな文明があり知性生物がいるか分からずひとつの誤解から宇宙対戦に発展するリスクも含んでおり、惑星開発法という厳しい法律が存在していた。
「そうだよなぁ…ちなみにニッポンってまだ地球連合軍所属になってんの?脱退とかって出来ないんだっけ?」
《ハイ、本艦は地球連合軍技術試験艦として軍事行動を継続中です。脱退はできませんが本国との通信が途絶え200年以上経過している為、地球連合軍より離脱は可能です。その場合、艦長権限が拡大されその責任は艦長がすべて追うことなり、帰還時に最悪の場合は犯罪者となります。》
今まで恒星間航行の実験艦が行方不明になった事例があった為、技術試験艦のみに許された特権がある。それは、艦の一方的な地球連合軍からの離脱である。
「2000年も漂流してるってことは帰還できる見込みはまずないしな、離脱して惑星調査してみるか。地球連合軍から現時刻をもって離脱する!」
《地球連合軍へ電文にて離脱の旨を送信致しました。現時刻をもって地球連合軍技術試験艦は独立艦ニッポンとして艦長命令を遵守致します。》
アルファの探査活動を開始する前に独立艦となったニッポンの認識標を消す作業に追われるのだった。