1-4 姫との会話 1
ヒロインが降臨なされます。
「ミスラ、どうでしたか?」
転移で王城に着くなり、そう聞かれた。
よほど、気になっていたのだろう。
「シャルロット様、二名ほどめぼしい者がいました」
僕が話しているのは、この国の姫である、シャルロット様。
金色の長い髪が特徴の姫様は、容姿端麗で魔法の才能が秀でている。
王城でも魔法は教われるのだが、人々の姿をもっと近くで見たいと言う要望から、通うことになった。
僕は、調査の結果を単刀直入に話した。
「そう、それは楽しみですね」
と、優しく笑った。
ここは、シャルロット様――姫様の部屋だ。
陛下に会いに行ったときに、紹介され、話すようになった。ここで会話しているのは、彼女の要望だ。
「それで、どんな魔法を使ってたのですか?」
魔法師は、魔法に興味をいただくもの。
相手が未知の魔法を使うかもしれないからでもある。知識欲に関しては、魔法師を超えられる者など、考えられない。
「目立っていたのは、風系の魔法と重力系の魔法ですね」
「うーん、珍しいですね!」
首を傾げ、答えた。しかし、そう、珍しいのだ。
風魔法は高いレベルでないと、火力不足で役に立たず、重力魔法は短距離魔法であるため、魔法師の殆どが覚えようとしない。
「もっと詳しくお願いします」
詳しく言うように促され、説明する。
「風魔法は【ウィンド•プロテクション】と言って暴風を起こす魔法で、白い髪の少女が使っていました。模擬試合の中では、一番の火力でした」
「はぁ、風魔法で、高火力とは驚きですね」
感心したように、目を見開き、呟いた。
強い魔法は習得まで、かなりの時間を要するのだから、あの歳で使うのは、同じく驚きだと思う。
僕が言うのはなんだが……あなたもですよ……
「それで、重力魔法は、【グラビティ】と言って、大男が使ってました。【ライトニング】で牽制して、近づき、その魔法でとどめを刺す、と言う戦法でした」
「それは、良いですね。動きが出来てないとできませんよね。凄いです」
それで、と、続ける。
「ミスラは模擬試合に参加したのですか?」
と、いたずらっぽく言い、覗き込むように聞いてくる。姫様は僕が試験を免除されている、と言うことを知っている。
「さ、参加はしてません」
声が震えてしまい見透かされた。
「そのどちらかと戦った、と」
間を空けずに、すべてを見たかのように当てられた。
「はい」
引きつった笑いをしつつ、肯定する。
「まぁ、それでそれで、どんな方と、どう戦ったのですか?」
身を乗り出しながらそう聞かれた。
興奮が伺える表情、声音である。
「重力魔法の大男と戦いましたよ……」
「そうですか……こんな弱そうなヤツ、などと、言われていないと良いんですが……」
姫様。正解です。言われました。
「その顔は、やはり、言われたのですね……」
表情に出てしまったために、姫様は確信してしまった。
「同世代の男の子と比べても筋肉がないですし、華奢ですし、その顔もまだ幼いですし」
包み隠さず言われて、少なからずショックを受けている。
「シャルロット様……少しダメージが……」
「ごめんなさい……」
口元を抑えながら、悪気がないように言った。
そして、姫様は話を戻す。
「それで、大男とは、どうやって戦ったのですか?」
そして、さらに、続ける。
「まさか、ミスラ! 本気を出したのですか!」
「いえいえ、手加減しましたよ」
慌てて誤解を解いた。
「そうですか! 良かったです」
何が良かったのか分からないが、姫様は胸をなで下ろしている。
「それで、どう戦ったのですか?」
否が応でも僕の戦いが気になるらしい。
「ええっと、【ライトニング】を跳ね返しただけですよ」
僕は至極当然のことを言っただけ、しかし、彼女の受け止め方は違った。
「魔法を……跳ね返す……?」
姫様は目を見開き、途切れ途切れにそう言葉を紡いだ。
「はい、そうですが……何かありましたか?」
ミスラには理解できなかった。自分が言ったことの異常さ、を。
魔法は攻撃し、防ぐもの、と、普通は教えられる。
しかし、ここにいる、この地最強の、この王国が隠し持つ規格外の切り札は、相手の魔法すらも攻撃に活かすと言う。さらに恐ろしいのは、彼が、当たり前のことと、自分の中で考えていること。
「凄いです。ミスラ」
僕は、何を言われたのかよく分からなかった。
はて? 別段、何かした覚えはない。
「はい? 何がでしょうか?」
それ故に、問い返してしまう。
しかし、返ってきたのは……
「ミスラの全てが、です」
姫様は「はっ!」と驚き、顔を赤らめた。
そして、照れ笑いをして、「今のは少しだけ、忘れてくださいね」と言い、満面の笑顔を見せた。
その笑顔は魅力的であり、包容感がある。
一国の姫だからこそ出せる、それは、誰もが見惚れさせるほど、美しかった。
※描写足しました。