1-2 入学試験 2
話しをしていたために、魔力量測定が終わっていた。
誰も魔法の発動感知したような空気は、なかった。
「只今より、模擬試合を行います」
と、さっきまで話していた、教官が呼びかけする。
他の教官は周りにある観客席に腰を下ろし、生徒たちを評価するようだ。僕は、半周回った反対側に座る。
話していたときに聞いたのだか、模擬試験は一対一の魔法でのみの戦いだそうだ。
飽くまでも模擬試合であり、死に追いやったら負け。入学は確実に出来ないらしい。
時間が恐ろしいほどかかってしまうのは、目に見えていたが、陛下の命令もあるので帰れない。
しかし、生徒たちの実力が見えてくるので、そこはありがたい。
「では、始め」
号令とともに、対峙していた二人は動き出した。
若干の駆け引きはあるものの、その動きにはキレがないため、魔法は当たる。地上機動型の魔法師にとってあるまじき行為だった。
さっきの魔法量計測は、魔法量を測る他にも、模擬試合で同じくらいの者と、当たるようにするためでもあったと思っている。
魔法量は、努力すれば上がるため、このような形をとっているようだ。
「そこまで」
弱い魔法のみだったために、何度も当たっても死ななかったみたいだ。
このように次々と、試合は終わっていった。
戦略においては、良いと思う者はいるが、体が追いついていなかった。また、逆も然りで何も考えず、持って生まれた才能だけで戦うものもいる。
いよいよ、次はラストだ。
ここまで、どうもめぼしい人は見つからずにいた。
「最後の者は、前へ」
最後に出てくるのは、ガタイの良い大男と白い髪の少女だった。恐らく、この組が強いらしいが果たしてどうだろうか?
しかし、大男は同い年とは思えない程の体格である。遠くからでも白の髪の少女との差は歴然。
剣士でないことが、不思議に思えるほどのもの。
「始め」
最初に仕掛けたのは、大男。
「【ライトニング】」
連射しやすい電気系の魔法を用い、少女に近づく。
威力は弱いものの、多角的に放たれるため、対処が大変だ。
しかし、接近戦の魔法があるように思える行動。
基本的に魔法師は距離をとり戦う。魔法は射程が長く、速度が速い。
それをしないのは、やはり、短距離で一撃で決着をつける魔法を隠し持っている。
それ故に、少女はやることが限られてくる。
まずは、ライトニングを防ぐところから、だが。
「【シールド】」
無可視の壁ができ、ライトニングを消しつつ、さらなる魔法を使用する。
「【ウィンド•ストーム】」
慣れたカウンターに見えた。
突然の暴風。観客席に座っている僕にすら届く強風。これは、と思い大男に視線をやると……
やはり、大男の足は地面から宙に浮いてしまった。これは、#白髪__しろかみ__#の子の勝ちだなと、思った次の瞬間。
「【グラビティ】」
重力魔法を己にかけ、再び地面に足をつける。
これか、と僕は、思考を繰り広げる。
彼の隠し持つ魔法。
しかし、重力系魔法は近くでなければ使えない。効果は絶大だが、近づくのにリスクが大きいので、通常、覚えようとは思わない。
しかし、この男の機動力ならば、それを可能にする。
この二人は、かなり強い。
「【ライトニング】」
大男はさっきよりも、動きが良くなっている。
ライトニングの光の数も多い。
少女は、シールドを使っているものの、反撃ができない。
大男が迫りくる。
「【グラビティ】」
「【シールド】」
シールドは、まだ保たれている。
しかし……バキッと言う音。
――――壊れた。
大男の勝ちだ。
少女は、強い重力で地面に手をついた。
「そこまで」
教官の声が辺りに響き渡る。
大男が魔法を解き、少女はゆっくりと立ち上がる。
これでもう入学試験は、終了だ。そう思っていた。
大男と目が合う。熱が今も尚こもっている、その目を大男は逸らさない。
「なあ、先生よ。少し聞いていいか?」
「はい、なんでしょう?」
少し引きつった笑いをしながら、答えている。
強さ故の大きな態度。それは、許容される範囲をこえている。
「アイツは、入学生か?」
僕を指差し、先生に問う。
「はい、そうですが?」
「何で入学試験を受けてない」
ごもっとも。全員が全員。測定のときも、試合のときも、僕の方を見ると、表情は疑問で少し歪んでいた。
「免除、されていますので」
「そうか、じゃあ、アイツに勝負を挑む」
「それは……」
「アイツは、免除されている程の強さがあるんだろ? 問題ねえじゃねえか!」
「それは、その」
教官は、否定の言葉が出てこない。
こんな質問をされるとは思っても、見なかったからだろう。
「おい、おまえ」
少し間を置き、挑発するように言う。
「勝負しようぜ」
僕は声は聞こえるものの、観客席にいてもしょうがないため、彼らに近寄る。
「おいおい、この学校どうなってるんだよ」
近くで見ると、尚、デカイ。
顔を高めにに上げなければ見えないほどだ。
「こんなヤツが免除だって?」
辺りは静寂に包まれた。
「チビ、戦って証明してみろよ」
戦って良いものかと、考える。
しかし、答えはNoだ。
僕は姫様の警護のために入学するのだ。
「強いんだろ?」
やれ、口を開けば挑発、挑発。
全く、困ったものだな。
その挙げ句に悪口まで言い出すとは。
「断る」
ただ、端的に言い放つ。
それ以上の言葉は必要ないそう思っていた。
「弱虫が!」
断っただけで、弱虫扱いとは。
たまったもんじゃない。
「そんなんじゃ、何もできないんだよ!」
この言葉は、幸か不幸か、この国最強の魔法師を呼び起こした。
その者は……
曰く、相手にしては国が消える、と。
その途方のない強さ故に、周辺国家はこの国に戦争を仕掛けない。そして、戦争をしない。
さっきまでは、薄い青の髪に濃い青の瞳の華奢な少年。
しかし、彼の目は、今、この一瞬だけ、濃い青色ではなく、黒、いや光のない漆黒だった。