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1-10 学校初日 4


「終わってしまいましたね」


 上級生の試合が終わった。

 勝敗は、女の人方で男の人は、最後まで要塞を貫けず、魔法の連射を受け負けたと言うかんじだった。


 面白みもなくあっけなく終わってしまったために、妙に満足感がない。


「では、こちらからも、試合に出場しましょう。上級生と戦えますが、参加したい者がいるのであれば挙手をお願いします」


 教官はそう聞きいたが、周りの生徒は苦笑し、誰も手を挙げなかった。


 その様子を見ながら、困ったような表情をしたあと、こちらを見て笑いかけた。


「姫様? どうでしょうか? 参加しませんか?」


 皮肉めいた言い方だった。

 

「良いですよ! 参加します‼」


 しかし、姫様はそう言われたからなのか、明るく答える。

 その反応は、教官を少なからず動揺させたに違いない。


「で、では、お願いします」


 そう教官は言い、駆け足で去っていった。


「良かったんですか?」


 僕はそう疑問を口にする。

 

「はい、良いのです。頑張ります。ミスラ、見ていてくださいね」


 姫様はあの教官の方を、数秒、眺めた後、そちらに歩いて行った。

 周りは呆気にとられており、静寂に包まれている。


○●○


 シャルロットは思う。ミスラに良いところを見せなければなりませんね、と。


 石で作られた無機質な階段をゆったりとしたペースで下り?。そして、観客席の下に位置する、試合をする場まで繋がる道を進む。


 光が見え、景色が広がる場の少し手前。一人の背筋の伸びた、先程とは異なる教官がシャルロットに、声をかけた。


「姫様」


「ルールはお分かりでしょうか?」


 新入生であることと、この国の姫であることが、彼にこの丁寧な質問をさせた。


「ええ、はい、そうですね。確認したいことが一つ……」


 シャルロットは即答した。

 

「畏まりました。質問をお願いします」


「はい、えーと、飛行魔法は使っても良いのでしょうか?」


「ひ、飛行魔法?」


 教官は、急に驚いた素振りを見せる。

 何を言っているのか、と。

 

 この反応の要因は、この学校で習う魔法以上の魔法を使用して良いのか? と、聞いているからだ。


「そ、そう、ですが……」


 シャルロットは、今の教官の反応を訝しく見つめながら、恐る恐る肯定した。


「ルール上、問題ありません」


 と、教官はさっきとは違い硬い口調で首肯した。


「それは良かったです!」


 シャルロットは嬉しさのあまり笑みが溢れている。


 それもそのはず、機動力がさらに上がる空中戦の方が、前略も複雑なものになり、面白いのだ。


「そうです、もう少しで試合が始まります。相手の生徒は反対側から出てきます」


 そう聞くや否やシャルロットは魔法を発動する。


「【ヒアリング • エンハンスメント】」


 少し時間を経た後、シャルロットは確信した。

 やはり、予想通りだった、と。


「ありがとうございます!」


 シャルロットは、頭を軽く下げてから、実演場の中心に歩みを進めた。


○●○


 実演場からの景色は、シャルロットを緊張させるものではなかった。

 彼女は人の前に出ることに慣れている。

 王国誕生祭の視線は、この比ではない。


 他の慣れてない者がこの場に立つのであれば、ほぼ全方位からの視線で動きが鈍くなるだろう。


 試合相手が姿を現した。

 その目の鋭さは、さっきの上級生よりは強さを感じさせる迫力のあるものだった。


「姫サマ、頑張って下さいね?」


 あからさまな挑発。

 彼は信じ切っていたのだ。自分の強さを自負するあまり目の前の相手の力量が自分より下だ、と。


 さらに言えば考えが古いのだ。

 男の方が強い魔法が放てると言う、昔の考え方を持っていた。


「大丈夫です。勝ちますから」


 シャルロットは、平然と返す。

 少し冷たい声音であった。


 その落ち着きように、男は少なからず疑問を抱いた。


「その自信はドコから?」


「良いところを見せないと、いけないので」


 そう彼女には、目的がある。完遂しなければならない、大事なことが。


「ソレをこの手で潰しましょう……‼」


 お互いに黙り、集中力を高める。

 教官の開始の合図をするまで。



「試合開始!!!」


 少しの時間が経ってから、教官は合図をした。


 それと同時にシャルロットは、飛び上がる。

 目にも止まらぬ速さであり、瞬きしていた者は、その場から消えたと錯覚するほどだろう。


「【ファイヤーボール】」


 相手は魔法を放つ――砂煙が立っている誰もいないところに。

 

 上空のシャルロットは、相手に手をかざし、言い放つ。


「【ウィンド • ストーム】」


 彼女の手から円柱状に暴風が発生する。

 

 空を飛ぶ魔法師から見れば、飛べない魔法師は、ただの的。ただでさえ広範囲の、上位の風の魔法はもはや必中。躱せるはずがない。


「【シールド】‼」


 防御魔法をギリギリで発動し

軽減したものの大きなダメージを受けた。


「何なんだ……聞いた話と違う……」


「……クソッ!!! 【ライトニング】」


 光が一直線で高速でシャルロットに接近する。


 急降下しそれを躱す。

 そして、優雅に足を地面につけた。


「あなた、やはり飛べないのですか?」


 シャルロットは子首を傾げながら、そう呟いた。


 男は舌打ちをし、ポツリと聞こえない大きさでこう言った。


「勝算は……ないか……」


 しかし、それでも強気に見せる。


「そんなモン必要ねえ‼‼」


「【ファイヤーボール】」


「【ハリケーン】‼」


 三個の炎の玉。


 しかし中心に凝縮した風がそれを貫き、消滅させる。

 しかし――――それでは終わらない。さらに相手に迫る。


 さっきの風の魔法は広範囲の攻撃。

 だが、今度は一点集中の高火力攻撃。


 ――――威力はさっきの比ではない。


 しかし……


「こんなもの簡単に躱せるんだよ‼【クイック】」 

 


 凝縮し過ぎたために魔法の効果範囲が狭くなっている。


 さらに、この魔法の力で素早い身のこなしで、迫り来る風の魔法を要因に躱せる――――はずだった。

 

「少しあまいです」


「……ん⁉」


 横に躱すだけでは不十分なのだ。

 円錐状である今度の魔法は、周りから風を引き込みながら渦を巻いて迫っていた。


「嘘だろ……」


 相手は抵抗できずに引き込まれる。


 盾のない陸上の魔法師はただの的。

 それを体現する光景。


 風は相手を巻き込みながら、なお進み、演習場の壁にぶつかり消える。


 勝敗はもはや明白であった。



 シャルロットには聞こえていた。

 相手の国王陛下を罵る声が。


 それ故にシャルロット本人が、直々に相手を下したのだ。


 しかし、それだけが目的ではないのだが……


 強力な風の魔法で盛大に、そして豪華に、試合は幕を閉じた。


 そして、やはり、生徒全員は、終始呆気にとられていた。

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