プロローグ
「ミスラ、陛下の御命令だ」
突然、静寂に包まれた空間を侵す者が現れた。
王城を警備している兵士のようだが、何用だろうか?
見るからに重装備の彼は、聞き流せない一言を発した。
これは、と、机に開いていた本を閉じる。
驚いて何も言葉が出なかったが、落ち着きをを取り戻し、言葉を発する。
「僕に、ですか?」
魔法の研究に明け暮れていたために、久しぶりの人との会話に声が震えだした。
しかし、僕に、と言うことを強調し、命令の種類を割り出す。
「ああ、そうだ」
男は直立不動で答える。
これで僕だけの命令、ということになる。
重大な任務と言う嫌なワードが頭を過るが、気にせず切り出す。
「僕は何をすればいいんでしょうか?」
僕を呼び出すと言うことはよっぽどのことだろう。
その男は端的に答えた。
「魔法師育成学校に行け、だそうだ」
極めて簡単な内容。
それ故に……
「僕が、ですか?」
再び、聞き返してしまった。
男は揺るがぬ姿勢のまま答えた。
「そうだ」
そう肯定された。
今更、教えてもらうことなんて……
「勉強に、でしょうか?」
「違う違う。勘違いするな。飽くまで、警護で、だ」
男は慌てて認識のズレを正す。
そして、男は続ける。
「お前に魔法を教えられるヤツ何ていないだろ」
男は目を細め、口の端を吊り上げる。
「はぁ、分かりました」
しかし、疑問が残る。
僕を外に出してまで、守る人? 全く思い当たらない。
「それで、誰を警護すれば良いんですか?」
そう端的に聞いたが、次の瞬間、聞き違いとも思える応答を兵士がした。
男は、間を置き、答える。
「――――姫だよ」
金色の髪の少女が脳裏を過る。
なるほど、納得だ。
「ああ、僕と同い年でしたね」
「そうだな」
男はそっけなく答える。
姫様とは顔見知りなものの、話したことはない――
「了解しました。最善を尽くします」
「分かった。陛下に伝えよう」
彼は、部屋から、出ていった。
再び、訪れる、心地よい静寂。
再び、本を開き、読み始める。
部屋はざっと見渡しても、装飾がなくシンプルである。
しかし、本に関しては、落ち着いてなどいない。
机の上に雪崩のように崩れている本の量。
棚に置かれた、数多の分厚い本。
これだけで、異質さは際立つ。
しかし本人は――――ミスラは違う。
――――本だけが頼りだった。
――――本だけが生きる道だった。
魔法の書を読み、学び、研究し、強くなる。
それしか、生きられなかったのだ。
あのときに気づいた。孤独だった。あのときに……。
長くなりそうな、陛下の命令を僕は受ける。
次話は6/30に投稿します。