死刑も戦争もない唯一の世界
この国から死刑がなくなって、五年がたった。誰からともなく「死刑を廃止しよう。」と声が上がった。それまで重要視していなかった問題なのに、人々はそれに食いついた。今まではほかの緊急の案件にとらわれていて、後回しにして、それがだんだんと積み重なった書類の塔と化したとき、たまたま今は平和だからと言って、その塔から引っ張り出してきたもので、「前からやらなくてはと思っていたんだよ。」という顔で議論をされるのは腹が立った。かといって今更、そんなことをする必要があるのかと皆思っていた時、一人の男が現れた。当時、一警察官に過ぎなかった。彼は演説で「国が人を殺せ、となぜ言えるのですか。犯罪者は人であって、尊い命を持っているのです。こんなことがまかり通っているなんて間違っているのです。」彼は握り拳を天高く振り上げて、時には怒り、時には泣いて、善良なる国民から同情を勝ち取っていった。そのうち、アイドルも俳優もはたまた政治家たちも誰も彼もが口々に「死刑廃止」と騒ぎ立てた。そして、二〇二〇年死刑は廃止され、死刑ではなく、労働が課せられることになった。同時に、犯罪者及び前科者自立支援法が成立し、彼らは独立行政法人となった刑務所で働けることになった。
なんとも、馬鹿馬鹿しい法律ではないか。人々はこの法律がもたらすであろう、結果にまだ気が付いていない。この、死刑のない日本の恐ろしい末路を。
「俺が真実を見つけてやるんだ。」
男は、パソコンをゆっくりと閉じた。