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雪中花  作者: 竹世 信
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プロローグ

 この白いものは何だろう?

道に落ちてきては、消えていく。掌を広げると、ふわふわしたものが、掌の上に落ちて消えた。

雪か?

それにしては全然冷たくない。

空を見上げると、大量のボタン雪が、舞っている、

それが、この狭い路地に降り注ぎ、多くの人々の黒い服に落ちては消えていく。

何故か皆、暗い顔をして俯いている。

泣いている者もいる。

 私は何故か、呆然と立ちすくんでいるようだ。

後ろを振り向くと、大きな箱の中に花が一杯敷き詰められ、その上に大粒の雪が降り注ぎ、花びらの上に落ちては消え、落ちては消え、花の廻りを妖精がダンスをしているようにキラキラと輝いている。

 その中には、雪よりも一層白い妖精が、花の中から顔だけ出して眠っていた。


私は吉田健司60歳、今年長年勤めた大手の食品会社を退職し、退職した子会社である飲食店の店長として再就職した。

 飲食店といっても、土産物店兼居酒屋で、駅々の近くのビルの1階やショッピングモールに、その土地々々の特産物と地酒を販売し、その地酒を1階の片隅にあるカウンターで試飲してもらうという仕組みである。

 駅前のテナントは家賃が高いが、その駅の市や町から補助金が出ているために、なんとか利益は上げられているようだ。

 私は京都駅前店を新たに10月からオープンさせるために、現在の会社を3月末に定年退職して、早速翌日の4月1日から子会社である「おみや株式会社」の京都店準備室長を命じられた。

 親会社では入社した時から経理畑で、店を切り盛りするなど、初めてのことだが、経理部長や経営室長の経験を活かしてなんとか頑張るしかないと思っている。

 そんな私は京都市の東山の麓の町で生まれ育った。都会といっても山の麓であるために自然豊かなところで育った。私の家は100メートル程の坂の途中の家で、家の向いはその100メートル坂の上から下まで塀になっている。それというのも大邸宅の壁で、その壁の向こうはその屋敷の庭で森のようになっており、ほとんど手入れがされていないようである。そのために夏になると色々な昆虫や虫が家に舞い込んでくる。当時はサッシや網戸などなく、ましてやクーラー等という代物はなかったために、窓は開けっぱなしの状態である。

 また、その屋敷も相当古く、向いの塀も石塀で、雨の浸食によって色々な模様になり、さながら幾何学模様の展覧会のようになっている。

 道もまだ舗装がされておらず、石の少ない砂利道というか、石よりも土の方が多い感じである。

 そんな所に建っているいる我が家もかなり古く、木造づくりの2階建てで、何故か周りの家は黒い瓦であるが、うちだけ赤い瓦であった。

 親にうちの瓦だけが何故赤いの聞いたことがあるが、どうやら昔はこの一帯の大家だったらしく、その差別化のために瓦の色が違うということであった。

 父は電気工事の職人で一応工事専門の吉田電機という看板をあげていた。

 母は専業主婦で、その他、弟と妹が一人づつ、それとこの家の持ち主である祖母の6にで暮らしていた。

 祖父は祖母と結婚するときにこの家を買ったらしいが、太平洋戦争で戦死したために、私もあったことがない。

 そのような家族の中で何不自由なく地元の近くの小学校、中学校、高校と進学し、その後も普通に大学に進学し、就職も普通に就活をし、大手食品会社に就職が決まった。

 配属先は、大学時代に日商簿記二級の資格をとっていたことから、経理部に配属となった。

 私が彼女に出会ったのは、そんな時であった。


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