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ある冬の日、私の恋模様。

作者: こぺっと

その日、私は家の2階にある自室で一人、机の椅子に座っていました。

立派な勉強机で、小学校に上がる時におばぁちゃんが買ってくれた物です。

使い続けてもう七年、窓際に置かれたこの机は部屋での私の定位置になっています。


立ち上がって窓から外を眺めれば、今日は少し大きめの雪がはらはらと降っていました。


「外、寒そうだなぁ」


窓を触ってみるととっても冷えていて。

暖房の効いた部屋だったので、それがひんやり気持ち良いなって。


「何だか贅沢だなぁ」


私は机の上の携帯端末を手に取ると、トークアプリを開きました。

個別とかグループでチャットが出来るもので、友達も皆使っているスマホアプリです。

可愛いスタンプとかも送信できて、友達とお気に入りのスタンプを使って会話するのがマイブームです。

最近はデフォルメされたコウモリさんがちょっと生意気なことを言うスタンプがお気に入りで、友達も面白いねって笑ってくれました。


私はチャットの一覧から一人の男の子とのチャットを選択すると、最後に男の子が送ってきたメッセージを確認しました。


「今日の二時、だよね。やっぱり」


少し二人だけで話したいことがある。

そんな主旨のメッセージです。

その男の子は小学校からの同級生でしたが、今年の夏まではあまり会話はしたことがなく、ただ少しつっけんどんな態度の男の子だなって印象でした。


夏休みに友達と三人で花火を見に行って偶然男の子たちのグループと遭遇したあの日。

折角だからって皆で一緒に見た花火は何だか少し大人になったような気がして少しドキドキしたのを覚えています。

その時、一緒になった三人の男の子達とは連絡先を交換しました。


それからはその時の六人で遊んだりもしました。

カラオケに行ったり遊園地にいったり、プールに行ったり…。


私が今見ているメッセージを送ってきた男の子はそんな中の一人です。

まだ幼さが残る面立ちの、少し背の小さな男の子。

つっけんどんだけど、結構優しかったりする恥ずかしがり屋な男の子。


そして、最近少し気になっていた男の子。


「何の用事なのかな…」


口に出してみたら急に顔が熱くなりました。

もしかしたら。そんな想像が頭を駆け巡ったのです。

思わず両手で顔を覆ってしまいました。


「…きゃー。なんちゃって」


触った少し頬が火照っているように感じます。

呟いてみたら余計に恥ずかしくなって、私はベッドに飛び込みました。

お気に入りの熊のぬいぐるみ、エディさんを抱えてゴロンゴロン。


子供っぽいと弟から言われるけれど、エディさんは私が二歳の頃から一緒にいる友達です。

そんなエディさんをギューっと抱えながら、「ねぇエディさん。もし、そうだったらどうしよう」とエディさんに尋ねてみました。


時計を見ると午後の一時十五分になっていました。

約束の場所は家から五分くらい歩いたところにある小さな公園です。

まだ時間があるので少し何かを食べようかと、私はエディさんを枕元に座らせて部屋を出ました。

緊張のせいかあまりお腹は空いていないけど、お腹が鳴ったら恥ずかしいですし。


公園で二人きり、少しいつもと違う雰囲気の中突然鳴る私のお腹…。

恥ずかしいこと請け合いです。


そんな妄想をしながら一階に降りると、リビングではソファに座った弟がテレビを見ていました。


「お母さんたちは?」

「買い物」

「何か食べるものある?」

「ん」


弟はこっちを見ずにテーブルを指差しました。

そこにはおにぎりが幾つか置いてあったので、適当に一つ手に取ると弟の隣に座りました。


「あ、これ知ってる」

「うるさい、あっちで食べてよもー」


私が隣でおにぎりを食べ始めると居心地悪そうに少しお尻をずらす弟。

反抗期って奴でしょうか。

昔はお姉ちゃん、お姉ちゃんと可愛かったのに。

悔しいからそのまま隣でモグモグ食べてやりました。


「ごちそうさま。お姉ちゃんももうすぐちょっと出掛けちゃうから、お母さんたち帰ってきたら言っといてね」

「はぁ?何処にだよ、雪降ってんだから気を付けろよ姉ちゃん。それと、自分でメールしろよ」

「よろしくねー」

「聞けよ!」


弟のツッコミを背中にリビングを出ると、私はタタタッと階段を登りました。

弟とおにぎりを食べていた時は少し気が紛れたけれど、部屋に戻るとまたドキドキしてきてしまったので、少し椅子に座ってぼんやりしました。


「そう言えば、何着ていこうかな」


一時三十分。

もう時間も余りありません。

外は雪が降っているので暖かい格好の方がいいかなとも思いましたが、もしも本当にそういうことなら制服が良いな。とも思いました。

何となく、その方が学生っぽくて良いなって。

そうと決めるといそいそと制服に着替えます。


着替えながら今から会いに行く男の子のことを考えました。


なんの話をするのかな。

やっぱり、そういう話なのかな。

ちょっと自意識過剰かな。


どんな顔をして待ってるのかな。

実はもう待ってたりするのかな。


もし、そういうのだったら私は何て答えようかな。

宜しくお願いします、とか?


「…きゃー」


ちょっとむっつりしたような男の子の顔が頭の中に浮かんでは消えて。

恥ずかしくなった私はいつの間にかブレザーをギュッと握って抱き締めていました。

心がどんどん逸っていくのを感じます。


「早く行かなきゃ」


一時四十分。

私は黄色のマフラーを首に巻くと、姿見で自分の確認して部屋を出ました。

階段を下りて玄関に着くと、傘立てからいつもの傘を取り出そうとして一旦手を止めました。

そしていつものより少し大きめの赤い傘を手に取りドアを開けます。


「もう、待ってるかな。先に着いちゃったらどうしよう」


長靴を履いてドアを開けると、深々(しんしん)と静かに降り積もる銀世界が私を迎えました。

バサッと傘を開くと、まだ誰も踏んでいない雪の上を私はサクサクと音を立てて歩き始めました。

雪道を行く足取りは、普段よりもゆっくりとしています。


「手袋、してくれば良かったかな」


そうして暫く静かな雪道を歩くと目的地の公園が見えてきました。

すると奥にある自販機の隣で頭を抱えてグルグル回っている男の子がいたので私は足を止めました。

男の子はすぐにピタっと止まると大きく深呼吸を始めました。

その様子に私はやっぱりそうなのかな。と心臓が跳ねましたが、それと同時に自然と頬が弛んでしまいます。

想像の中の彼はもっと落ち着いて立っていたので、そのギャップが凄く可笑しくって。


私は彼の動きが落ち着くのを待って、公園の入り口に向かいました。

サク、サクと足音を少しだけ大きくして入り口の車止めまで歩くと、彼がビクリとしてこちらを向きました。


私は深呼吸を一つ。

白い息をはぁぁ、と吐くと男の子の所まで歩きました。

ドキドキする気持ちに負けないように、しっかりと彼を見て「急にどうしたの?」と訊いてみました。

声が震えないか心配だったけど、いつも通りに声が出て良かった。


「あ、うん。寒い中ゴメン」

「んー、いいよ」


彼は私に背を向けるとポケットから財布を取り出しました。

そして小銭を取り出そうとした時に手が(かじか)んでいたのか、雪の上に小銭を何枚か落としてしまいました。


「あー、何してんの」


私はその光景にちょっと笑ってしまいました。

何だか緊張もどこかに行っちゃいそうです。


「雪、冷たいね」


雪の上に落ちた500円玉を一枚拾って手渡すと、彼は顔を真っ赤にして「ありがとう」と受け取ってそのまま自販機に入れました。

500円玉を手渡すときに少しだけ触れた彼の手が温かくて、もう少し触れていたかったな。と自然に出た思考に恥ずかしくなって、私は思わず下を向きました。


ガコンと二回、自販機がジュースを落とす音が聞こえると、彼は両手に持ったコーンポタージュの片方を私に差し出しました。


「くれるの?」


私が訊くと、彼は頷いて私にスチール缶を手渡しましたが、蓋を開けるのに手間取っていると自分が開けた方を「じゃあこっちあげる」と渡してくれました。


「ありがとう」


私が散々手間取った缶を難なく開けた姿は、きっとどうという事でもないのだけれど。

それでもやっぱり男の子なんだって感じて少しキュンとしました。


コーンポタージュを一口啜ると優しい味と熱が口の中にじんわりと広がります。

何だか少し、この男の子に似ているなって彼の顔を覗き込むと、彼の視線が揺れました。


「温かいね」


私が言うと。


「…うん、温かい」


と恥ずかしそうに彼。

私は少し嬉しくなってはぁぁ、と白い息を吐きました。


私たちは何で雪の降る公園で向かい合いながらコーンポタージュを飲んでるんだろう。

そんな冷静な考えが頭を過りましたが、これはこれできっと掛け替えのない青春の一ページになるんだろうなって、私は少し目を閉じました。


すると。


「好きだ」


そんな彼の声が聞こえました。


少し震えた彼の声。

でも、精一杯の彼の声。


それに私はびっくりして、今日一番ドキドキして。

覚悟していたはずなのに胸が苦しくなって。

なんて答えようかって、色々考えていたはずなのに…。


「…コーンポタージュ?」


私の口を突いて出たのはそんな言葉でした。

恥ずかしくて下を向きたかったけど、せめて目だけは逸らさないように真っ直ぐ彼に向けました。

私の顔はきっと今真っ赤になってることでしょう。


すると彼は静かに目を閉じました。


それがどんな意味なのかは私にはわかりませんでしたが、缶を持つ手が震えているのが視界に入りました。

早く、早く答えなきゃ。


「…そっか」


ドキドキと加速する鼓動。

どんどん音が大きくなって、胸が苦しくなって、頭がぼぉっとして…。

ゆっくりと大きく白い息を吐くと私もゆっくり目を閉じました。

そして、何て答えよう。ってずっと考えて決めた一言をしっかりと噛みしめる様に呟きました。


ありふれた言葉。

でもきっとこうやって皆一歩進むんじゃないかなって、そんな言葉。

私もしっかり伝えたいと思った言葉。




私も、好きだよ。

最後までお読みいただきありがとうございました。


評価、感想など、切にお待ちしていますm(_ _)m

男の子側「ある冬の日、一時間の恋模様。」も併せて読んでいただければ幸いです。

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