第四話 ヴァナルガンド商会ケルベロス部隊
「余り、そう言う口説き方は好きじゃあないなあ」
不意に、そんな言葉と共に銃声が響き、ケイトを襲おうとしていたボルドーが弾き飛ばされた。
「女性を口説くのならば、まずは女性はとにかく褒める事。それができなければ一歩引くべきだ。女好きなのは良い事だけどれも、それならば女性への敬意だけは忘れるべきじゃない」
手にした大型拳銃を弄りながらそう言ったのは、甲板でケイトに声をかけてきた男だった。
見ると、何時取ってきたのかその背中には巨大な白い両刃の剣を背負っており、その手に握られた白銀色に輝く大型の拳銃は尚も油断なく弾き飛ばされたボルドーに狙いをつけている。
「貴様、よくも俺の服を汚してくれたなああああ!よくも、この俺の体に、傷を付けたなああああああああああああ!!」
「やはり、不死属性持ちか。というか、そんなに汚れるのが嫌いなら、白い服など着て暴れるなよ。馬鹿みたいだぞ?」
「やかましいわああああああ!俺の
飄々とした派手男の言葉に対して、ボルドーは完全に頭に血が上っているのか、まともな言葉
「それともう一つ、お前みたいなゴミみたいなクズ野郎が魔導士などと名乗るな。その称号は、真に偉大な魔術師に送られる呼び名だ。クズが勝手気ままに名乗っていいもんじゃない」
その一言が終わると同時に、派手男が手にした拳銃からは轟音と共に雨あられとばかりに銃弾が弾かれ、まるで弾切れが無いかの様にその轟音は数分の間、途切れることなく船内に鳴り響き、
やがて、
だが、全身を粉砕され、木っ端みじんになったはずのボルドーの体は、飛び散った血液や肉片が徐々に集まりだして
「流石だな。この距離で『ホワイト・ウルフ』の弾を二千発食らっても、まだ形をとどめているとは……。これでも、不死魔術には耐性のある弾丸を使ったんだけどね……。改良の余地ありだね」
「アゲート兄さん、あんまり一人で突っ走ることは良してよね。
「酷いな。それだとまるで僕はオニキス兄さんと同類みたいじゃないか」
「え?オニキス兄さんもアゲート兄さんも同じでしょう?」
腰を抜かしてその場で驚くことしかできないケイトに対して、
「安心してください。僕達は貴女に危害を加える気はありませんよ。ヴァナルガンド商会のケルベルス部隊と言う組織に所属している、アゲート・ジャスパー・オルティスという者です。此処にいると危険ですので、安全を確保している場所まで案内します。それと、此処にいるのは僕の妹で、」
「アイリス・ジェード・オルティスです。よろしくね」
派手男、……アゲートの言葉を遮る様に軽く名前を名乗ったアイリスに、ケイトは「はあ。」と間の抜けた声を出して頷くと、そのまま二人に連れられて異様なまでに静かな船内を急ぎ足になって移動していく。
「え、……っと。事態が急展開過ぎて、何が何だか分からないんですけど、とりあえず質問をしても大丈夫ですか?」
「今の状況だと時間が惜しいので答えられる質問にも答えられかねますが、それでもよろしければどうぞ。あと、出来れば質問は手短に」
甲板での態度とは違い、素っ気ない返事をよこすアゲートだったが、その態度がことさらに今の状況が途轍もない非常事態が巻き起こっているのだということを理解させるには十分だった。
「まず、今何が起こっているんですか?取りあえず、闇の魔法使いから襲撃を受けているのは分っているんですが、事態の詳細な状況が分からなくて
「……意外ですね。こういう場合、僕等の詳しい
「ヴァナルガンド商会ケルベロス部隊。確か、オニキス・ジェット・オルティスを首魁とするカウンターテロを得意とする民間武装組織ですね。その他にも主に、魔導兵装の開発と流通も担当している軍需産業であるというのは聞いています。同時に、その職業上、民間企業でありながらも国家機密に関わることが多く、その全貌が不明であることが多い組織ですね。確か、オニキス社長には二人の兄弟がおられていると言う事までは聞いていますが、その関係者でしょう間違いないですか?」
アゲートとアイリスの二人に連れられながら、ケイトの口から流れるように語れる情報に、二人は歩きながら思わず顔を見合わせた。
今まで驚かされてばかりだった二人を少しだけ驚かせたことに何となくいい気分になりながらも、
「どうやら、随分と僕等のことについて詳しいようですが、一体何者ですか?あんまりファンを作る様な仕事でもないと思うのですが?」
「私は、ニューウェルズタイムズの新聞記者をしているキャサリン・グレイスです。よろしければ、後程改めて取材に訪れてもよろしいでしょうか?」
「そうですね……」
ケイトの言葉にアゲートは一瞬考え込むと、
「その返答は、ここを切り抜けた後で考えましょう」