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1話

がんばる

 VRMMO……発売と同時に爆発的人気を博したそのジャンルは、発売から現在に掛けて日々進化し続けてきた。

 そしてそんなVRの分野を支え続けている者達の中でも、俺はグラフィック……VR空間で消費者が一番気にする重要な部分に携わっている。


 時にはその辺に生えているような雑草、そして時には重要なボスモンスターなど、この仕事の中で作ってきた物は数え切れないほどある。


 しかし、これだけ作ってきたとはいえ、俺はべつにゲーム会社に就職している訳では無い。

 ネット上に自分で作ったモデルなんかを投稿し、それを見たゲーム会社から外部委託という形で依頼を受けて今まで暮らしてきた。





 と言うか、就職できなかっただけなんだけどネ!





 と、そんな俺こと【美波 祐也】だが、世界中に名の知れた大手ゲーム会社が制作した新作VRゲーム《ーFantasy Worldー》通称《F.W》のスタート直前イベントのようなもので、オリジナルNPCコンテストというのものを見かけたため、そこに渾身の力作を制作し『リンシア』という名前をつけて応募した。


 このリンシアは幼い体に紫色の瞳、銀色の髪の吸血鬼という、王道を攻めた感じの、のじゃロリ系吸血鬼っ娘だ。

 また、ゴシック調の改造ワンピースに太いベルト、そこに試験管や魔導書を付けることで、錬金術師っぽくするなど、色々と詰め込んだキャラクターが出来上がった。


 そして投票期間が終わり、結果を見てみると、見事優勝していた……VR用のモデル作成はそこそこ難しいのであまりたくさんの応募があった訳では無いのも幸いしたのかもしれないが。


 と、そんなことより、なんと……





 そのゲーム会社からオファーが来ちゃいました。





 何でも、今回のこのNPCコンテストは宣伝の他に、新人モデラーの発掘も目的としていたようで人気だったNPCのモデラーを何人か雇おうという話だったようだ。


 しかもなんと今回はモデリングの他にF.Wの運営を手伝って欲しいとの事で、詳しい内容を聞いてみたところ。



 ・F.Wの中で運営側のアバターでNPCを演じてもらいたい。


 ・もちろんNPCを演じるのが今回の仕事内容なのでその間の給料はきちんと払う。


 ・また、今回使用するVR機器は最新型で長時間のVR接続が可能だが、まだ実験段階のためそのテスターとしての役割もある。


 ・アバターの演技の他に、イベントの時にモデリングに駆り出されることもあります。



 とのこと。

 これを聞いた瞬間タイムラグなしで頷いてしまった俺は悪くないと思う。だってゲームしてお金がもらえるんだもの……。


 とまあ、そんな訳で就職が決まった訳だが。


「遂に今日から……か」


 目の前には今回俺が就職したゲーム会社の本社ビルが建っている。


「しっかし、大手なだけあってビルも立派だな……」


 会社の敷地内は広めの自然公園のようになっており、これまでこの会社が手がけてきた有名タイトルなどのキャラクター達を象ったオブジェなんかがあり、様々なところに社員と思わしき人達が居る。皆、事前に渡されていた自分の首にぶら下がっている少し小洒落た社員証と同じものを首から下げているため、自分もこの会社の社員になったのだと言う実感が湧いてきた。


「さて、入社1日目、頑張りますか」


 そうして気合を入れ、ビルの中へと足を踏み入れた。



 ♠♡♢♣♤♥♦♧



 ビルの中に入ると、やはりここにも様々なキャラクター達が玄関ホールを彩っていた。


 そんなキャラクター達に出迎えられながら受付カウンターへ行き、事前に言われていた通りに社員証を見せると受付嬢から13階のダイブルームへ向かってくださいと言われ、13階のダイブルームに向かうと、そこには数人のラフな格好をした人達がおり、こちらに気が付いた1人が話しかけてきた。


「おや、貴方は今回入ってきた美波さんでしたか?」


「あ、はい、今回新しく入社した美波 祐也です」


 そう言って俺が挨拶をすると「ああ、ご丁寧にどうも」と言い、向こうからも自己紹介をしてきた。


「私は今回の新作ゲームF.W運営チームのリーダー、結城ゆうき わたるです。あと、後ろにいる彼らも今回の運営側アバターを操作するチームメンバーです」


 そう言って結城さんはチームのメンバーを紹介した後、今回の細かい説明を始めた。


「さて、全員集まった事ですし予定してた時間よりもかなり早いですがミーティングを始めさせていただきます。

 明後日から正式サービスが開始するF.Wですが皆さんにして頂くことは事前に説明したとおり、運営側アバターの操作です。F.Wでは最新のAIを使っておりこのAIは人間とほぼ変わらず、違和感を感じないような会話や判断などが可能です。もはや一つの意識を持った人物と言っても過言ではありません。しかし、やはり運営する際にNPCの中に運営側の人物が何人かいないとイベントなどがやり辛くなるためNPCの中に運営側の人物を仕込むことにしました。また、プレイヤーの方々の不満等をすぐ側で感じることで、改善点を見つける事も目的の一つです」


 なるほど、NPCに紛れることでその辺の対応を早くするのか……。


「また、ゲーム上で重要な立ち位置のNPCなどにも皆様のうちの何人かには担当していただきます」


 それは……大丈夫なのか……?


「なに分今回が初めての試みのため前例などはありませんが、皆様の奮闘を期待しています。それではそれぞれに担当して頂くキャラクター達の設定などをこれより配布します」


 結城さんはそう言うと全員にタブレット端末を渡してきた。


「それではそのタブレットに社員証を翳してください」


 指示に従いタブレットを起動し、社員証を重ねると自動的に俺専用のサーバーに接続され、一つの文書ファイルが開かれた。


 おお!なんかカッコイイな、これ……うぇっ!?


「皆様開きましたね?今回担当していただくキャラクターがそこに書いてありますのでそれにある程度従って操作していただきます。

 質問等はありますでしょうか」


 結城さんのその言葉に対し俺はすぐさま手を挙げた。

 だってこの文書ファイルに書かれているキャラは……っ


「はい、何でしょうか美波さん」







「自分の演じるキャラ女性なんですが!!??」


「仕様です!」


 俺がNPCコンテストに応募した『リンシア』だったのだ。



 ついでにこのことで周りの何人かが吹き出していた。酷い。





 あの後、結城さんに何度も確認をしたが、製作者である俺が一番『リンシア』の事を理解しているはずなので、という理由で押し切られてしまった……。

 女性が演じるべきだと今でもおもうが……


「まあ、仕方が無いか……仕事である以上は頑張らねばっ!俺が作ったキャラだから娘みたいなものだし、娘に恥はかかせられん!」


 そう気合を入れて設定をもっと読み込もうとした所で後ろから声をかけられた。


「さっきのリンシア役の美波さんですよね?」


 話しかけてきたのは25歳くらいの男性だった。


「まあ、そうですけど……そちらは?」


「僕は三井みつい 浩三こうぞうで、演じるキャラは衛兵隊隊長のクラウスです、よろしくお願いします」


 そう言ってぺこりと頭を下げてきた。


「ああいや、こちらこそよろしく……それで何か用でもありましたか?」


「はい、実は設定を少し読んだんですが僕の演じるクラウスがリンシアとの友好関係があるみたいで、その変の打ち合わせとかでもしようかなと」


「ああ、そうだったのか……ちょっと待っててくださいね、まだ設定読めていないので……」


 結城さんと色々話してたから仕方が無いよな。


「ああ、じゃあ読みながら打ち合わせしましょうか……改めてよろしくお願いします」


 そう言って三井さんは手を差し出してきたので俺もその手を取って「よろしく」と伝えた。


 うむ、初日から仲良くできそうな人が出来て良かった……。


 その後は彼とクラウスとリンシアの、ある程度の関係を整理してから解散した。




 ♠♡♢♣♤♥♦♧




 操作するキャラについてや今回の仕事に関する説明を受けてから二日後、遂にF.Wの正式サービスが開始する日だ。


 正式サービス開始の3時間前に俺たちのチームは昨日と同じダイブルームに集合していた。


「皆さんおはようございます!遂に今日からサービス開始ですが、私からいうことは一つだけです。楽しみましょう!!」


 結城さんは笑顔でそう言うと何やら手元のリモコンのボタンを押した。


 するとダイブルームの壁が等間隔で開き、中から黒光りする人がひとりすっぽり入れるくらいの大きさの機械が次々と出てきた。


「これは我が社が新しく開発したフルダイブマシーンです!」


 結城さんが声高にそう言うと同時にその機械、フルダイブマシーンは蒼いライトラインが発光し、展開した。

 なるほど、ダイブルームっていうのに何も無かったから不思議に思っていたけどこういう事だったのか……というかめっちゃカッコイイんですけど!?


「カッコイイでしょう?そうでしょうとも、私がわざわざ上に掛け合って付け足したこの無駄な演出、かっこよくない訳がありませんとも!」


 なんだかキャラ崩壊している結城さんはそんなことを言っていた。

 いや、無駄な演出って……大丈夫なのか(困惑)


「それでは皆さん、それぞれダイブを始めてください!」


 その一言を聞いた俺達は皆、いそいそとダイブマシーンの中に横たわり、一つ、また一つとマシーンのフタが閉められていく。


 そして俺の入ったダイブマシーンのフタが閉まると同時に俺の意識はVR空間へと引き込まれて行った。




[社員証の確認……完了]



[ミナミ ユウヤ様と確認、ユーザー認証開始……完了]




[ようこそ、ミナミ ユウヤ 様]



 システムアナウンスのその言葉が聞こえると同時に周りの暗闇が晴れ、真っ白なか世界に降り立った。



[Fantasy Worldを起動しています……起動完了、これよりキャラクター作成に入ります。]


[ミナミ様は既にキャラクターデータをお持ちですこのデータを使いますか?]


 その質問にyesと答える。


[キャラクターネーム『リンシア』]


[ようこそ、FantasyWorldへ]



 遂にスタートだっ!


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