7話 もう一人の同行者を見繕っていく
「うまくいったのか?」
「ええ、なんとか」
結果を短く報告していく。
「簡単にはいきませんでしたけど、どうにか納得してもらいました。
今後、一緒に仕事をやっていけるのかと思うとありがたいです」
「がんばれよ。
最初の従業員になるからな」
父はミサキの事を、仲間ではなく従業員と呼んだ。
「がんばって給料を出せるようにします」
「ああ、それが経営者としての義務だ」
「とにかく最初の一ヶ月がんばります。
でないと先が無いので」
「そうだな、最初はとにかく必死に、死にものぐるいでやる事だな。
初動で一気にやっておけば、あとは少し楽が出来る」
その初動がどこまでなのかが見当もつかないが、まずはレベルをある程度まで上げる事を目指していく。
「それで、学校の方の手続きはやっておくが、他にやる事はあるのか?」
「つれていく使用人の選定と、あと幾つか貸していただきたいものが」
「なんだ?」
「行き帰りの馬車です。
歩いていくのも面倒だし、時間がもったいない」
「手配しよう」
「それで、幾らほどかかるんでしょう?」
「なにがだ?」
「馬車ですよ。
まさか無料って事はないでしょう」
「なんだ、そんな事か」
父はヒロタカの言葉を笑い飛ばした。
「うちの事業としてやるならそんなもんはいらん。
儲けが出せるようがんばってくれ」
「いや、それは……」
さすがに甘すぎではないかと思った。
身びいきが過ぎる。
「まあ、確かに親子だからというのはある。
だがな、こんな所で変につっぱるな。
使えるものはなんでも使え。
お前は余計な苦労はするな。
苦労はな、するだけ無駄だから苦労というんだ」
目から鱗だった。
「しなくちゃならんなら、試練とでも言うだろう。
そうでないから苦労なんて言葉があるんだろう。
省けるなら、そういうものは省け。
だが、やらねばならない労力はしっかりと注ぎ込め」
「肝に銘じます」
忘れないようにしたかった。
「他には何かあるか?
用立て出来る事なら何でも出すぞ」
「今のところ、思いつくのはそこまでです。
あとは使用人の方を。
手伝いが欲しいのは確かなので」
「なら、執事か家政婦に聞いた方が早いな。
そっちに行ってみろ」
「そうさせてもらいます」
一礼して父の執務室から出る。
やらねばならない事はまだまだ多い。
「手のかかるのはこのあたりです。
しかし、本当によろしいのですか?」
執事が心配そうに尋ねてくる。
「まあ、できの悪いというほどではありませんが。
作業となりますと、いささか手が遅いというか」
「だからって、使える奴を引っ張ったら家が大変だろ?」
「それはそうですが……」
「そんな負担をかけられないよ。
とにかくこっちの言う事を聞いてくれればそれでいい。
あと、モンスターから逃げ出さなければね」
そう言って執事が用意してくれた考課表を眺めていう。
いずれも春日家で働く使用人達だ。
全員、若い。
いなくても家の中が滞らないように、という事で技術的に未熟な者が集まったせいだろう。
「この中で一番素直なのは?」
「でしたら、この子でしょうな」
そう言って一人の考課表を指す。
「入ったばかりで仕事はまだ出来ませんが、言う事は聞きます。
まあ、これからですね」
「十二歳か……」
奉公に出るなら妥当な年齢だ。
この世界、就労について最低年齢制限などがあるわけではない。
それこそ家の仕事は子供の頃から手伝うのが普通である。
読み書きに計算などの手習いは、その合間にいくのが普通である。
示されたその子も、ごく普通に就職してくる年齢ではあった。
むしろ十代半ばを過ぎても学生でいられるヒロタカの方が少数派である。
「とりあえず一度会ってみてから決めるよ。
今、こいつはどうしてるの?」
「この時間ですと、仕事が終わって部屋に戻ってるかと」
「じゃあ、そっちに行ってみるよ」
「呼び出さないので?」
「こっちから出向いた方が早い」
良いながら考課表を掲げる。
「──他の子も見てみたいしね」
「左様で」
理由を承知した執事は、そう言ってヒロタカを見送った。
「で、君がそうなのね」
「はい!
君塚アオイです!」
緊張した使用人の少女が直立不動の姿勢で返事をした。