68話 さよならゴブリン、君の事は可能な限りすぐ忘れるよ
「本当にやるとは思わなかった……」
立ち上がって村へと向かっていくヒロタカを見て、ミサキは頭を抱えたくなった。
「そりゃあ、魔力を付与してるけど」
「凄いですよね」
隣にいるミズキも感心してる。
若干呆れてもいるようだ。
「まあ、上手くいけばこれでいいんだろうけど」
「大丈夫なんですか?
さすがに無謀だと思うんですが」
「そうよねえ……」
ヒロタカの考えた作戦を思い返しながら考える。
「どう考えても無理よね。
普通ならあり得ない」
「ですよね」
二人とも同じ結論に到達していく。
それほどヒロタカの作戦は無謀に過ぎた。
作戦というのもおこがましい代物なのだから。
「いくら魔力を付けてるからって、油断しすぎよ」
武器や防具に魔力を付ける事で、威力や防御力を強化する事が出来る。
今のミサキのレベルからすれば、ちょっとやそっとの攻撃など弾くくらいの防御力を提供も出来る。
武器の切れ味は、それこそ一撃必殺に近い。
しかし、そうであっても数多いゴブリンがいると思われる村に単身突っ込むのはどうかと思った。
「まあ、死ぬのはあいつだから良いけど」
「なにげに辛辣な事を言いますね」
「まあね」
ここでこうやってモンスター退治に参加させられてる経緯がある。
一年ほど経過はしてるが、ヒロタカに好印象を抱くのは難しい。
(お金はいっぱい手に入ったけど)
銀貨十枚の報酬はいまも守られており、それはミサキと家族を潤している。
そこは評価するが、だからと言って全てを許すことも出来ないでいた。
実家はかなり持ち直したが。
それを考えても納得しかねるものがあった。
「早く学校に戻りたい……」
ぼやきながらヒロタカのほうを見る。
悠々と接近していく雇用主を、ミサキは三白眼でにらみつけていった。
そうしてる間にも村の中からゴブリンが出てくる。
最初は見張りが落ちた音に反応して出てきた。
それを見たのが大声を出して他のものを呼び寄せる。
村のあちこちから出てきたものが、迫るヒロタカを見つけて騒ぎ出した。
異様な連中である。
人に比べれば小柄な体躯、緑色の肌、口から飛び出す牙、頭に生えた小さな角。
ボロきれを服のようにして身につけ、手には武器を手にしている。
錆びた斧や剣がほとんどで、手入れはなされてない。
ボロの上に板と呼ぶのもおこがましい木片をつなぎ合わせて身にまとってる。
多少は文明的な格好をしてるが、技術レベルや文化水準は低いのが見て取れる。
それらが口々に耳障りな叫び声をあげている。
「あれがゴブリンか……」
話に聞き、姿を模写した素描をモンスター関連の書籍で見てきた。
本当にこんな姿なのかと思ったものの実物が大量に並んでいる。
なかなか圧巻だった。
そんな連中に向かって博隆は、ためらうことなく進んでいく。
ゴブリンも、自分達に向かって進んでくる人間を見て、嘲るような笑いをあげていく。
たった一人でやってきてる事に呆れてるのだろう。
侮ってるのは確かである。
そして最初の一体がヒロタカに向かって走り出す。
つられて何体ものゴブリンが後を追う。
居合わせた全てのゴブリンが走り出した。
それみてヒロタカは剣を抜いた。
幸い弓や投石はない。
たった一人ということで油断してるのかもしれない。
あるいは遠距離攻撃手段がないのか?
それは分からないが、ヒロタカにとって好都合である。
魔術の援護を受けてるとはいえ、厄介であることにかわりはない。
接近戦と違って避けるのが難しいので、当たり所が悪いとどうなるか分からない。
魔力の防御も完璧ではない。
なので、向こうから突進してきてくれるのはありがたかった。
そんなゴブリン達を────
文字通りに吹き飛ばしていった。
戦闘と呼べるようなものではなかった。
核の消費を恐れることなく施した魔力付与の効果もあって、ヒロタカの攻撃はゴブリンを凌駕した。
押し寄せるゴブリンも数十体といった数であるが、全く問題にもならない。
振った剣はゴブリンを両断していく。
近づいたそばから体が切断されていくゴブリンは、次々にその場に倒れていった。
運が良くても腕の切断は免れない。
かろうじて避けても、触れた刃が表皮と筋肉を切って内臓をあふれ出させる。
襲い掛かったゴブリンは、一太刀で葬られていった。
そもそものレベルが違うのは確かだし、魔術による支援もある。
だとしてもでたらめすぎる光景だった。
それを見ているゴブリンも、後ろで見ているミサキやミズキも口を開きっぱなしにしてしまっていた。
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「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
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