67話 常にそこにいる者達から聞き出し、先行する者が道をつける
「……だいたいこの辺りによくいるみたいです」
言いながらミズキは、略地図の上に指を走らせる。
それらを見ながらヒロタカ達も考えていく。
「この辺りにいる鳥はそう言ってます。
あと、草とか木も」
魔術を用いて動物や草木から情報を聞き出したミズキは、聞いた事をそのままヒロタカに伝えていった。
それを受け取ったヒロタカも、疑う事なくそれを信じていく。
既に何度か試してきた事である。
おかげで様々な情報を手に入れる事も出来ていた。
否定する理由は何一つない。
「それじゃ、このあたりから片付けていくか」
やり方を決めたヒロタカは、その為に必要な事を更に細かく考えていく。
この段階である程度やり方を決めておかないと、後で困るのだ。
まずはアオイが潜入させる事から全てが始まっていく。
今回、相手がゴブリンという事で少し気を遣わねばならなかった。
相手も多少の智慧があるので、それなりにやり方を考えている。
見張りもいるし、巡回もあるし、弓を持って警戒してる者もいる。
それらを片付けて、ある程度相手の動きを制限しないといけない。
ゴブリン達にとっての目や耳にあたるそれらを排除する事で。
その為にも、アオイの能力が必要だった。
探知から始まったアオイの技術成長は、それをよりよく活かす方向で発展していっている。
何かを見つけると同時に、見つけたものに接近していくために。
先に見つける事で、姿を隠して容易にやり過ごせるように。
発見したものが危険であれば、それを解除出来るように。
偵察に適した形で成長していったアオイの技術は、更に潜伏してからの攻撃にまで至っている。
基本は、クロスボウによる遠距離攻撃だが、最近は接近戦闘技術にまで手を出している。
まだレベルが低いのでさほど効果的ではないが、不意打ちになれば問題はない。
無防備・無警戒な状態に一撃を入れる。
それで相手は沈黙する。
急所を攻撃出来ればそれで全てが終わる。
まだ確実性に欠けるが、それが出来るだけの能力をアオイは手に入れつつあった。
今回もその能力を存分に発揮していく。
レベル3の隠密行動技術は、ゴブリンの警戒警備を突破するのに十分だった。
草の中に身を潜めながら接近し、巡回してきたものをクロスボウで倒す。
だいたいにおいて一緒にいるもう一体のゴブリンも、後ろから組み付いて急所にナイフを突き立てて終わらせる。
見張りの見えてない所での事なので気づかれる事もない。
そもそも、ゴブリンの見張りというのは大して怖いものでもない。
案山子じゃないので見つかれば厄介だが、そうなる可能性は低い。
それほど勤勉ではないゴブリンのこと、まともに見張ってる事などほとんどない。
見える範囲で何かをしてしまえば当然騒ぐが、見張りとして見渡してる範囲はかなり狭い。
怠惰というか集中力がないというか、とにかくずぼらである。
おかげでアオイが何かをしていても、それに気づく事もなかった。
そんな見張りは、己の怠惰の報いを受ける事になる。
周囲の巡回を倒したアオイが、最後の仕上げとして見張りをしてるゴブリンにクロスボウを向ける。
倒壊しつつある小屋の、屋根に空いた(開けたのかもしれないが)から周囲を見渡してる見張り達。
その一体に向けて引き金を引く。
レベル4の射撃技術は、空いた穴から屋根に出て来て座り込んでるゴブリンを貫く。
続いて、もう一つのクロスボウで隣あってるゴブリンを狙って撃つ。
そちらも難なく倒し、アオイはゴブリン(の集団)から目を奪った。
ここまで、三十分もかかってない。
「やったな」
屋根から落ちていくゴブリンを見て、ヒロタカは事前作業が終わった事をしる。
さすがに仲間が屋根から落ちればゴブリンとて異変を察知するだろう。
だが、すぐに行動に出て来るわけでもない。
いずれ他のゴブリンが出てくるだろうが、それまでにはまだ時間がある。
その猶予を利用してヒロタカは仲間を引き連れて近づいていく。
可能な限り物音を立てず、姿を見せず。
でも、出来るだけ急いで。
時間が今は大事であった。
見張りが消えた事で発見が遅れる。
その間に出来るだけ近づいておきたかった。
見つからないように近づいて、一気に襲撃する──などとは考えていない。
周囲を巡回してた連中だけならそれもありえただろうが、見張りを倒してしまったのだからそれは難しい。
それらが地面に落ちてるので、いずれは発見される。
ゴブリンの警戒も強まるだろう。
それは仕方が無い。
どうあってもそれは避けられない。
なので、見つかる事を前提で動いていた。
頃合いを見計らってヒロタカは立ち上がる。
付いてきてる他の者達は隠れたままにして。
見つけてくれと言ってるようなものである。
事実、見つけられるのを期待している。
でなければここから先の行動が潰えてしまう。
(ちゃんと見つけてくれよ)
ゴブリンにそう願いながら村へと向かっていった。
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「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
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「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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