65話 こんな調子で話はひろまっていくものではなかろうか
「いや、びっくりしたよ」
周旋屋の広間で冒険者達が盛り上がっていた。
「モンスターだらけだった村が片付いてて、今は復興作業中なんだから」
「あそこ、犬頭とかが屯してたよな。
それが綺麗さっぱり消えててよ」
「建物とかは、まあ、壊れてたりするけどな。
でも、それを取り壊して新しい建物を造ってる最中だし」
「田畑の方はまだこれからみたいだけど。
でも、そのうちそこからもモンスターを追い出すぞ、あれなら」
そんな話を聞いてる者達は、「へえ」「はあ」と感嘆の声をあげている。
「そりゃあ大したもんだな」
「どんだけ凄いんだ?」
「どうにも出来なくて放置してた場所だぞ」
誰もがどうにかしたいと思っていても、どうにも出来なかった事である。
それをやってのけたという事に驚いてる。
「おまけに村を立て直そうってんだろ?
すげえな」
「つか、よくやるよ。
手間と金がかかるってのに」
「そんだけ余裕があるって事だろ」
「さすが成金。
どうやって稼いだんだか」
「まったくだ」
意地の悪い笑いが起こる。
「でも、どんな風の吹き回しかしらんが、やってる事は悪くねえな」
「俺達にもこうして仕事が回ってくるしな」
「ため込んだ分を、こっちに吐き出してくれるんなら文句はねえ」
決して好意的な意見ではない。
やってる事は評価するも、その裏に何らかの意図があると考えている。
だが、そうであっても彼等には問題はない。
こなした仕事の分だけ金を払うなら。
その分だけは依頼人や雇用主を信用信頼する事にする。
ただそれだけの事である。
それでも話が流れていくうちにあちこちで様々な評判がたっていく。
決して良い物ではないが、かといって悪評ばかりとも言えない。
今までやれなかった事をやってのけた。
その事への畏怖がある。
それに、村の回復に努めてるというのはやはり好感触を与えていく。
何かしら思惑があるのでは、と思われもするが、それであっても決して悪印象だけというわけではない。
分かりやすい所でいけば、貧民街の者達が元の村に戻り初めている。
同情はしていても、治安などの観点から問題視されていた部分である。
それらが多少なりとも減少した事が知られるようになると、評価は上がっていった。
また、資材なども持ち込んで復旧復興に勤しんでると知れ渡ると、更に評価があがった。
吟遊詩人や旅芸人などがそれらをもとに歌や劇を作り出し初めていき始めた。
それらのほとんどが、ヒロタカ達が画策していたものであり、春日家から金をもらっての事である。
だが、紛れもない事実であるので、拡散するにしたがってあちこちで好印象を抱かれていった。
これらの影響がはっきり出てくるのはまだまだ先であるが、その流れが生まれ初めていった。
(それを見越して冒険者を連れていってるわけだし)
ヒロタカの狙い通りの展開となっていった。
冒険者を連れていくのは、実際に起こってる事を目にする者を増やすためでもあった。
工作活動もするにはするが、それだけでは足りない。
もっと大きな拡散手段が欲しかった。
特に部外者の。
そのための冒険者である。
彼等が開放された村を見て、それをあちこちで吹聴してくれるならこんなにありがたい事は無い。
痛くない腹をさぐられ、余計な勘ぐりがついてまわるのは余計だが。
それらも、今はやむなき負担と思うしかなかった。
とにかく、何をやってるのかが伝わるのが先である。
そうした冒険者も数が増えるにつれて、多少は口を慎むようになる。
態度の悪い者は契約を切られるし、再契約もない。
全員、最大で一週間の契約なので、それが切れれば自動的に縁も切れる。
態度の良い者────仕事をしっかりやってる者は後進されるが、そうでないものはそこまでのご縁となる。
この際、春日家への不当な嫌みなどの吹聴はあまり考慮はされなかった。
基本、仕事をどれだけこなすかで決めている。
ただ、よからぬ事を口にするような輩はえてして業務態度も悪い。
不平不満もこれに加わる。
多少は仕方がないが、あまりにも多い者はどういうわけか仕事も最低水準程度に終わる。
そういう者達は優先的に首を切られていった。
結果として、契約切れは春日家に文句を言う者が多くなる。
それが余計な悪評を生むことにもなった。
『文句を言ったら解雇かよ』と言うような。
実態はそうではないのだが、そう思われるのも避けられない。
ただ、これについては契約が継続された者達の態度や行動から少しずつ否定されていった。
残った者達は真面目に仕事をしていたし、そんな彼等に春日家も相応の態度と待遇をするよう努めた。
それは雇われてる冒険者も感じ取っていたので、だんだんと不平不満や勘ぐりでの悪評は減っていった。
時間を経ての事になるが、冒険者達もだんだんと態度を変えていく事になる。
一番評判が上がったのは、貧民街に身を寄せていた村人達からである。
自分達のいた村を取り戻してくれたという事に、彼等が一番喜んだ。
そこから上がる評価は天井知らずだった。
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