63話 そっちはそれで、こっちはこれでやっていく
村の機能回復は遠い。
建物を修復してそれで終わりというわけではない。
周囲にいるモンスターを更に排除し、田畑を元に戻していかねばならない。
長年放置していただけに雑草も伸び放題なので、それを刈り取らねばならない。
土の状態も戻さねばならないし、水路も再度整備しなくてはならない。
職人や作業員を動員はしてるが、一日二日でどうにかなるものではない。
地道な根気のいる作業の継続が求められる。
その間ヒロタカ達は、村にテントをはって泊まり込みとなる。
家と村を行き来してこなせる作業では無い。
必要な資材も続々と搬入されてくる。
その間、村をモンスターから守らねばならない。
モンスター除けを更に増設し、とにかく村と田畑からモンスターを排除していく。
……事になるのだが。
「そんな事やってられん」
やるべき事を一通り説明したヒロタカは、ここまで言った事を否定する。
「今後そうしていく事になるだろうが、今必要なのはそれじゃない」
「つまり、何をするの?」
おそるおそるミサキが尋ねる。
聞きたく無いのは口調と顔色で分かるが、聞かないわけにはいかなかった。
どうせ無理矢理連れていかれてやらされる羽目になる。
だったら今のうちに聞いておくしかない。
ヒロタカはそんな彼女の気持ちをある程度読み取ったが、無視して話を続ける。
「もちろん、他の村を開放する」
当初の予定というか目的の通りである。
「次の村を攻め落とし、その次の村も開放する。
やる事に変わりはない」
「急ぎすぎなんじゃないかな?」
おずおずとしたミサキの言葉を更に否定する。
「急がなくちゃならん」
「自覚はあるんだ、急いでるって」
「もちろんだ。
分かっててやる」
「なんで、そこまで」
「大人の事情だ」
父との話し合いで出て来た、他の有力者からの介入を弾く為、というのは伏せておく。
伝える必要も無いし、変な智慧を出して邪魔された面倒である。
こういうとき、
『ならば有力者に情報を売りつけてしまおう』
と考える奴は必ず出て来る。
そんな者を出さないためにも、出て来ても対応しきれないようにするために早急な行動が求められた。
「なので、明日もやる」
「明日って……あの、この村でモンスターと戦ったのって、今日なんだけど」
「そうだな。
だからなんだ?」
気にするような事ではない。
連戦が大変だ、というのも当てはまらない。
何せ、モンスター退治ではこの日こなした戦闘以上の数を毎日こなしてたのである。
問題になるような物事など何一つ存在しない。
幸い、怪我人なども出ていない。
強行軍というほど酷い事も無い。
「何一つ問題は無い」
ヒロタカは断言した。
「明日は隣の村。
明後日はその先の村。
一気にやるぞ」
その言葉に、ミサキはため息を吐いてうなだれた。
対象的に他の者達は口を引き結んで頷いた。
やる気は十分にある。
むしろ大変なのは父であった。
ヒロタカが村を制圧したという報を受けたのが夕方。
戻ってきた伝令役の者達が伝えてくれた。
同時にもたらされた手紙に、明日明後日で他の二つの村も開放すると伝えられてもいる。
「さすが我が息子!」
その事はたいそう喜んだ。
しかし、問題なのはその為に求められる労力である。
「人も資材も足りなくなるな……」
腐っても商売人。
あくどくても経営者である。
すぐに何が必要で何が求められるかを思い浮かべた。
そして現状に照らし合わせていく。
「モンスターは問題ないようだが……」
それに続く作業はそうもいかない。
モンスターはレベルが上がれば簡単に倒せるようになる。
それは今もヒロタカが証明してくれている。
しかし、その後の作業に必要な人員や資材は簡単に揃える事が出来るものではない。
当初から分かっていた事だが、実際にやってみると想像以上の手間がかかる。
それでも父は、
「まあ、どうにかするか」
と気楽に流すことにした。
無理をしてるのは確かだが、今までだって無理を通した事はある。
この程度──というには大きな事ではあるが、やってやれない事は無い。
時間はかけられないし、強行軍にはなる。
しかし、かける金と手間は出せる範疇の中である。
自転車操業も確実だが勝算はあった。
面倒なのは、これが外に漏れる事である。
大量の資材を買い付け、人手も可能な限り用意しなくてはならない。
その手配で動きが必ず外にばれる。
既にばれてるかもしれないが、はっきりとした形になるとのならないのでは大きな違いだ。
「もうちょっと隠しておきたかったなあ……」
父としてはなるべく水面下で事を進めたかった。
「ま、いいか」
あっさりと諦める。
もうどうしようもないので、早めに全てを済ます事にした。
「ついでに宣伝もするか」
かねてからそのつもりであった、あちこちへの宣伝を開始する事にする。
今回の目的の一つである、評判を取りにいくために。
「吟遊詩人と大道芸人と噺家に講談師と。
それと、旅の演劇団と。
あちこちに触れ回ってもらわんとな」
今必要なのは情報の宣伝である。
『春日ヒロタカ、モンスターに制圧されてた村を開放!』
この話を、英雄叙事詩としてあちこちで喧伝しないといけない。
評判を得るのと同時に、周囲への牽制のためである。
「英雄を蔑ろにするような事は慎まないとね」
父としてはそんな事を目論んでいた。
もちろん、ヒロタカの進言である。
『評判は使えるだけ使いましょう』
これもそんな利用方法の一つである。
だから、早速利用する事にした。
「とりあえず村の開放と。
残り二つは、それからで良いか」
まず第一報として最初の村の開放をあちこちに宣伝。
それで驚いてる所に、次の村の開放を叩き込む。
三つ目の解放を更に流せば、さすがに周囲も驚くだろう。
その衝撃を利用しないわけにはいかない。
「お父さんも頑張るぞ!」
この場にいない息子に宣言する。
そして、自分がやる事をしたためてヒロタカへの手紙とした。
ヒロタカ達の所へと向かう者達に託して。
「さすが父さん」
動きの早い父に感動し感謝をする。
伊達に成り上がってはいない。
必要な動きをする事にかけては的確である。
「じゃあ、こっちも頑張らないとな」
そう言ってヒロタカは明日への意欲をかきたてた。
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