61話 金の力を用いていくよ第二弾の開幕
長い間使われてなかったせいか、道路は雑草が生い茂っていた。
かろうじて繁殖が少ない事で、そこが道だったと分かる程度である。
何度か下見で通ったが、それでも迷ってしまう可能性があった。
そんなところを進み、村まであと少しという所で止まる。
「ここから歩きだ」
全員で突入してモンスターに襲われた、では意味が無い。
戦闘には直接関わらない者もいる。
それらを護衛と一緒にここに残し、戦闘員だけで村を攻略する。
「モンスター除けは持ったか?」
突入する者達に確認する。
全員が最低一つのモンスター除けを持っている。
モンスターを蹴散らすのが目的であるが、戦闘を避けられるならその方が良い。
目的は、あくまで村を回復する事である。
モンスターを倒すのはその為の手段の一つにすぎない。
向こうから出ていってくれるなら、それで構わなかった。
とはいえ、完全に戦闘が避けられるわけでもない。
モンスター除けといっても、効果は完璧ではない。
持っていれば、設置しておけば、通常よりモンスターが接近しにくくなる、というだけだ。
無いよりはマシだが、完璧な効果は期待出来ない。
最終的にはモンスターとの戦闘になるだろう。
それが終わった後で、モンスターを村から遠ざける事が出来れば良いのだ。
そのための道具を全員が持ってる事を確認し、あらためて促す。
「じゃあ、行こうか」
その言葉に二十二人の者が従う。
戦闘担当の一組と、村の開放後にで番となる作業員達がその場に残った。
モンスターに襲われ、廃棄されてからおよそ十六年が経ってるという。
建物はまだ残り、柵や堀などもそのままだ。
田畑も、雑草が茂ってるが元の形を留めている。
廃れてはいるが、まだ村だったという事が分かる程度に様々なものが残っている。
しかし、そこは既に村ではない。
近づくにつれ、それがはっきりとしていく。
崩れてはいないが建物はどれも損壊していた。
壁は様々な形で破壊されている。
襲撃当時に行われた事がそこに残っているのだろう。
その状況を再現するかのようにモンスターがうろついている。
見える範囲にいるのは犬頭。
他には見えない。
建物の中に何かが潜んでるかもしれないが、遠く離れたところからでは確認しようがない。
そこに知性のあるモンスターがいたら厄介な事になる。
人間より劣ると思われてるゴブリンであったとしても、物陰から攻撃するくらいの智慧はある。
このあたりがそこらをうごめくネズミや犬頭との違いである。
犬頭などは本能に従って動いてるようで、作戦を練って行動するといった事がない。
そこは動物と大して変わらない。
だが、ゴブリンなど知性を持ってると言われてるモンスターは違う。
巧拙はあっても、多少は考えて行動する。
勝てるように、少なくとも負けないように。
なるべく損害を出さないように。
そのために考えた行動をとってくる。
物陰からの遠距離攻撃など当たり前のようにやってくる。
待ち伏せしての奇襲なども行う。
相手にするとなると結構な手間がかかる。
なので迂闊に近寄る事が出来ない。
なのだが、ヒロタカはあえてそこは警戒しないでいた。
何度か偵察に来たが、ゴブリンの姿を見たことはない。
周囲にそれらしい痕跡がないか調べてみたが、それもない。
ここにいるのは犬頭などだけというのが調査結果である。
それからさして時間も経ってないし、今も村の廃墟には犬頭などしかいないだろう。
ならば、さして恐れる事も無い。
さっさと倒して村からモンスターを駆逐する。
それで十分だった。
ただ、念のために多少は中の様子を調べていく。
「うーん」
魔術を用いて近くの草に語りかけていたミズキは、うなり声を出してからヒロタカに振り向く。
「やっぱり中にいるのは犬頭だけみたいです。
他のモンスターは見た事がないって」
植物との意思疎通の魔術を使った結果である。
草は移動しないが、連なってる他の植物から情報を聞いてくれるので、辿り辿れば村の中の事も聞ける。
伝言ゲームのようなものなので、長い情報は聞き出せない。
それでも、ある程度の事は掴めてくる。
モンスターの所在地などならば把握は出来た。
「でも、建物の中は分からないですね。
そこには仲間もいないらしいので」
「だろうな」
建物も、中にまで植物が入り込んでいれば少しは様子が掴めるだろう。
残念ながらそこまで建物は損壊してないようである。
「でも、雨の日には中に入ってるのもいるらしいです」
「となるとそこから飛び出してくる事もありえるのか」
何も雨の日だけ建物に籠もってるというわけでもないだろう。
そこが快適だと思えば、モンスターだって中に籠もるかもしれないのだ。
「ここまで分かっただけでもありがたいか」
見えない部分、知りようがない部分についてはどうしようもない。
あとは運を天に任すしかない。
「行くぞ」
全員の顔を見て告げる。
誰もが引き締まった顔をしていた。
逃げだそうという者はいない。
それを見て安心する。
これならどうにかなるだろうと。
「アオイ達は外から援護射撃。
その間に俺達が中に入る。
とにかく、村の柵の中からモンスターを一掃する。
モンスター除けを設置して、中から追い出せ。
逃げない奴は倒せ。
向かってくる奴も倒せ。
逃げた奴は、出来るなら倒せ。
深追いはするな」
単純な指示を出していく。
細かく色々言っても仕方が無い。
人間の記憶力などそこまで多くの情報を蓄えられるものではない。
出来るだけ短い言葉で伝えた方が無難である。
それが終わればあとは動くだけである。
「やるぞ」
しかし戦闘は呆気ないほど簡単に終わってしまう。
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