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6話 たぶん、包み隠さず本音をお伝えしてるはずです

「でも、魔術を使う人が欲しいなら、私じゃなくても他にいるんじゃないですか。

 貴族でなくてもそういった方はいるはずですし」

「いますけど、引っ張るのは無理ですね」

 これも即答した。



「仰る事が出来ないか、事前に調べてみました。

 ですが、正直に言うと無理です。

 やってやれない事は無いかもしれませんが、条件が厳しくなります。

 まして、こちらの都合に合わせる事など夢のまた夢でした」

「あの、今『こちらの都合に合わせる』とか言いませんでしたか?」

 ミサキは、話の腰を折る事になるは承知で質問をしていく。

 都合に合わせるというのが気になってしょうがない。



「それって、あなたの好き勝手にやるって事ですよね」

「当たり前でしょう」

「否定しないの?!」

「してどうするんですか」

 呆れたようにヒロタカは言い放った。



「俺は俺の都合で行動してるんですよ。

 他に人間だってこの都合に巻き込みますよ」

「相手の都合や気持ちはどうなるのよ」

「対価は用意してるんだから文句言わないでくださいよ」

「開き直ってない?!」

「何が問題ですか。

 別に体を寄越せとか言ってるわけじゃないんですよ。

 労働として、拘束時間中は作業に関わる指示には従ってもらう──ただそれだけです」

「何故か、それでは済まない気がするんですけど」

「安心してください。

 サービス残業や超過勤務を求めたりはしません。

 出来る範囲で、やれる事を全力でやってくれればいいですから。

 ぶっ倒れるまで」

「倒れるまで働かせるって事ですよね!」

「そうならないよう注意します。

 ですが、相手はモンスターなのでこちらの都合など考えてはくれないでしょう」

「それって倒れるどころか命がけになるよね? なるよね!」

「はい、もちろん」

 生命の危機を感じてきているミサキに、ヒロタカはさらっと言った。



「だからこその見返りです。

 一日銀貨十枚」

「命がけなのに、それって」

「聞いた限りでですが、傭兵などの相場より大分高いと思いますよ。

 冒険者の報酬としても破格です」

「そこまで調べたんだ……」

「はい、これも社会勉強と思いまして。

 ついでに、卒業後の仕事の予行練習と思って」

「凄いね、その部分は……」

「お褒めにあずかり恐縮です」

「そう言うけど、全然恐縮してないよね」

「社交辞令ですから」

 包み隠さず本音で答えた。



「……もう少し取り繕うとか考えないの?」

「隠しても無駄ですし、腹芸は相手を選んでおきます。

 あなた相手に隠し事はしたくないので」

「でも、もうちょっと隠してよ!」

「必要ならば。

 ですが今ではありません、おそらく、たぶん」

「…………はあ」

 ミサキのため息が二人だけの部屋に漂った。



「でもまあ、実際魔術師を探すのも大変で。

 まず、学校や様々な機関にいる方々。

 これは論外です。

 頼んだって来てくれませんし、それでも起こし願うなら莫大な金が必要です。

 とてもそんなもの用立てできません」

「そりゃそうよね」



 学校でも政府関係の国家機関でも、そこに所属する魔術師を連れてくるなど不可能に等しい。

 彼等は各機関での仕事があるのでそれに沿った形でしか行動しない。

 このあたりは公務員などと同じと考えれば良いだろう。



 逆に言えば、各機関の目的に沿うような形であれば無料で活動してくれる。

 だが、そんな機会がそうそう訪れる事もない。

 分かりやすく言えば、警察や消防署などに所属する者達がどのような時に活動するかである。

 犯罪が発生したり、火事が起こった時だ。



 そんな時であれば彼等は駆けつけて物事に対処する。

 しかし、そんな状況にヒロタカなどが巡り会う事など滅多にない。

 それらに関わってれば別だろうが。



「それと、お抱えの魔術師。

 まあ、貴族の方々や裕福な商会などで活躍されてる方もおられるのは存じてます。

 でも、そういった方々に協力をあおぐ事も、やっぱり難しい」

 これらは貴族の家、あるいは会社、そして個人との契約をしている。

 それらに来てもらうには、やはり相手の都合と折り合いをつけねばならない。



「これは冒険者とかも同じです。

 個人で動いてる冒険者なんて滅多にいない。

 まして魔術師なら引く手数多です。

 そんな所に声をかけたら、魔術師だけじゃなくて、冒険者一組全部を抱える事になります」

 金で動かせるならそれで良いが、継続的となると負担が大きい。

 それに、下手に大金を見せれば、今後せびりに来る可能性もある。

 そうなったらそれなりに対処すれば良いが、下手をうつ可能性が出てくるので避けたい。



「かといって引き抜きをかけたら、もっと面倒になる。

 例え引き抜いたとしても相手の恨みを買う。

 そんな馬鹿な事はしたくありません」

 これはどこにいる魔術師であっても同じである。

 魔術師だけではない。

 所属してる人間を引き抜かれて憤りを感じない者はいない。

 それが救いようのないほど使えない人間でもない限りは。



「そんなわけで最も面倒がないのが、あなただったわけです」

「はあ…………」

 魂が抜けたような声が返ってきた。

「まあ、家の事情とかも色々考えたんですけどね。

 それを含めて、あなたなら適任かと。

 出来れば素直に承諾してもらいたい。

 素直でなくてもいいから承諾していただきたい」

「強引すぎです……」

「でないと好きな事も出来ません」

 前世からの教訓と実感だった。



 思い通りに生きるには、力と勢いと強引さが必要になる。

 それが無かったばかりに前世は散々だった。



「今はそうはなりたくないんで」

「え?」

「こちらの事です。

 それより、理由としてはだいたいそんなもんです。

 あなたで無くても良いかもしれませんが、あなたより良い人もみつかりません。

 妥協や打算と言われればそれまでですが、納得していただけたでしょうか?」

「したくありません!」

「でしょうね。

 まあ、気持ちは納得しなくても、頭で理由を理解していただけるだけでもありがたいです」

 その言い方がミサキには嫌みや皮肉に聞こえてしょうがなかった。

 ヒロタカは素直に本音を言ってるだけであるが。



「あと、理由らしい理由をあげるとですね」

「なに?」

「どうせ一緒に活動するなら、むさくるしい野郎より女の方がいい。

 そんな所です」

 偽らざる本音だった。



 一人の男として、若さが漲る年齢として、一緒に行動するなら女が良いと思っていた。

 相手が野暮ったい格好の学生であってもだ。



 なお、ミサキの名誉の為に繰り返し申し添えておけば、彼女はみてくれが悪いわけではない。

 ただ、他の女子が身綺麗にしてるのに比べて、彼女は外見に気をつけてない。

 そこで差が付いている。

 庶民感覚からすれば、さほどおかしな所はない。

 だからこそヒロタカは、可能な限り彼女を引きずりこもうとした。

 とはいえ、欲望だけに忠実というわけではない。



「まあ、体が欲しいとかそういうのはありませんから。

 その部分はご心配なく」

「…………そういう事まではっきり言うんですか?」

「所信表明です。

 あなたとお近づきになれればこんな嬉しい事はありませんが。

 ですが、俺に必要なのはあなたの能力です。

 惚れた腫れたではありません。

 そんなのは、他のご学友の皆様にお任せしてきます」



 自由に過ごせる最後の期間になるだろう事から、学校内における男女の交流も水面下では頻繁に行われている。

 それを素直に羨ましいと思いつつも、ヒロタカは割と冷ややかにそれらを見ていた。

 男女問わず、許嫁や政略結婚の相手がいる者達同士のやりとりである。

 好き勝手出来ない今後の結婚などの対価として、今現在目の前にいる相手との色恋を楽しんでるだけなのだ。



 誰もがそれを表に出ないように気をつけながら楽しんでいる。

 誰も本気で誰かを好きになってるわけではない。



 あくまで、ほとばしる情熱の発散だけを求めての事だった。

 まれに本気で愛し合って出奔、駆け落ち、という事もあるが。

 まず滅多に発生しない珍事である。

 だからこそ、学校内における恋愛事情には、薄っぺらいごっこ遊びめいたものしか感じられなかった。



(まあ、単なる僻みだろうけど)

 家柄のおかげでそういった事からも無縁であるヒロタカは、それらを眺めてる事しか出来ない。

 それ故の僻みが、彼等を冷ややかに見てしまってるだけなのだろうとは思っていた。

 当事者であれば、もっと素直に楽しんでいたかもしれない。

 残念と言えば残念ではある。



「ま、そんなわけですので、身辺についてはご安心を。

 あなたに欲情して襲いかかるよりも、あなたと一緒に仕事をした方が利益になるので」

「いや、そう言われるのもなんなんですけど」

「失礼のないように申し添えるなら、あなたは他の誰かに見劣りするような事は無い。

 少なくとも俺はそう考えてはいます。

 まあ、俺の審美眼なんて、何の価値もないでしょうけど」

「う…………」

 さすがにミサキは表情を曇らせた。

 というか、固まらせた。



「……ええ、ええ、分かってますって。

 別に口説いてるわけでも何でもありませんよ。

 あなたに釣り合うような人間だとはこれっぽっちも思ってませんから。

 ただ、素直な感想として聞いていただければ結構です」

 自分の容姿をわきまえてる(つもり)のヒロタカは、向かいに座るミサキにそう伝えた。



(不細工に言われても嬉しくないだろうしなあ)

 認めたくはないが、ヒロタカは自分をそう評価していた。

 実際には並といったあたりなのだが、美男子にはほど遠い。

 そんな奴からの褒め言葉なんて、もらっても困るだけなのは十分にりかいしている。



「それで」

 変な方向にずれた話を元に戻す。

「お返事は?」

「…………」

 決断を迫られ、ミサキは更に顔を強ばらせていった。

 眉間に皺がよる。



「でも、勉強が……」

「まあ、そうですよね。

 それについてはこちらも考えがあります」

「え?」

 どうなるか分からないが、と前置きをしてヒロタカは説明をしていく。

 それを聞いてミサキは、更に呆れたような驚いたような顔をした。

 20:00に続きを出す予定。


 それと、他の話も更新してるので、そちらもよろしく。



 更新中はこちら。

「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」

http://ncode.syosetu.com/n9583dq/



 ちょっとお休み中はこちら。

「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」

http://ncode.syosetu.com/n7595dj/


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