59話 色々集めて色々やっていかねばならない
やる事がどんどん決まり、手のつけられる所から動いていく。
ヒロタカはモンスターを倒してレベルアップに励み、春日家はそれを支える人を集めていく。
町の周辺にある貧民街からはやすく人手を集め、作業をさせていく。
同時に募集した人員に春日家でやってる事業に組み込んでいく。
見習いなのでまだ戦力にはなってないのでまずは教育から。
その為に様々な所でてんやわんやになっている。
そうする一方で、ヒロタカの提案通りに奴隷商人にも接触していく。
とりあえず銀貨三百枚から四百枚で買える者を集めていった。
とりたてて技術はないが、働くに十分な健康さと頭をもっている者である。
能力は冒険者になる時に用いる検査のための魔術道具を用いた。
この道具、比較的ありふれており、大きめの町でなら占い遊びのような形で利用出来る。
どういった能力を持ってるのかが分かると色々便利だからなのか、見る機会は結構多い。
それを使う事で能力を正確にはかった上での購入である。
最低限の水準は確保している。
それをとりあえず十人。
しめて四千銀貨近くの投資となる。
決してやすくはないが、春日家にとって支払えない金額ではない。
それどころか奴隷商人に、
「今後もよりよい人間を集めてくれ。
まだまだ人手が足りないから」
と言って追加発注を頼む始末である。
だが奴隷商人も慣れてるのか、たいして驚く事もなく承知した。
もっと高値で様々な人間を買っていく者はいる。
それらと接してきた奴隷商人にとって、春日家程度の購入はさほど驚くものではなかった。
それだけ多くの需要があるという事でもある。
かくて奴隷という形で春日家は労働力を手に入れていった。
誰にあやしまれる事もなく。
ヒロタカも仲間を率いてモンスターを倒し続けていった。
何せ新人を育成しなくてはならない。
怠けてる暇などない。
少しでも多くの経験値を手に入れるため、日夜必死に働いていく。
それでもありがたいのは、以前に比べて負担が極端に減っていた事だ。
最も初期に入ってきた三人組を始め、多くの後続が高レベルになっている。
戦闘技術はレベル6やレベル7に到達してる者も多く、犬頭に遅れを取る事はほとんどない。
ミサキの付与魔術の世話にならずに済んでる者が増えてきた。
そういった者達に新人を預ける事が出来る。
今は三人組にそれぞれ後続の者達を預けて育成をさせる事が出来ていた。
そのおかげで十二人の新人を抱える事が出来ている。
それを三人ずつ四つの組に編入し、戦闘の参加させていた。
一日に倒せるモンスターはそれぞれ四百から五百の間で推移している。
その分経験値も多く手に入り、一ヶ月で一つ二つレベルが上がっていった。
父には二ヶ月と言ったが、この分ならもっと早く村の奪還に赴く事が出来そうだった。
それと同時に貧民街にいた元鍛冶屋などにも仕事が回る。
必要になる装備や道具を日夜量産していくために。
武器や防具だけでなく、必要になる様々な道具が作られていく。
また、戦闘だけが目的ではない。
村を奪還した後の作業もある。
それに必要になる道具も作らねばならない。
むしろそちらの方が中心となっている。
今後三つの村を開放するとなると、それに必要な物資はおびただしいものになる。
今のうちにある程度揃えておかないと後で大変な事になる。
すぐに使わないにしても、様々な道具を揃えておかねばならなかった。
そうしていく中で、行商人なども抱え込んでいく。
様々な場所に赴いて物資の取引を行ってる彼等は必要不可欠な存在になる。
そうでなくても必要な物資を手に入れるために彼等に頼っている。
町の有力者などは春日家に良い顔をしない。
その為、どうしても必要な物が手に入らない事もある。
そんな時に頼るのが行商人になる。
町の中で商売が出来ないのは彼等も同じである。
その為、町の外で露店市を開くしかない。
だからこそ春日家も取引が出来る。
行商人も春日家の評判は聞いているだろうが、そんなものより金の払いである。
物品を適切な値段で買い取り、必要な物資を妥当な価格で売ってくれる春日家は良い取引先である。
それを無碍にするほど行商人は愚かではない。
評判が悪いというか、町の有力者に弾かれれてる者同士というのもある。
最も商売になる町の中に入れないという所で共感を得ていた。
それもあって、行商人の多くは春日家に同情的であり、協力的であった。
金の切れ目が縁の切れ目であろうが、それでも彼等の存在がありがたい。
だからこそ彼等に一緒にやらないかと声をかけていた。
ほとんどの者が色よい返事を口にする。
そうでない者も決して否定や拒絶はしない。
すぐには一緒に行動出来ないからやむなく辞退というのがほとんどである。
あとは、単純に春日家とそりが合わないという者がいる。
人間同士の接触なのだから、こればかりは仕方が無い。
生来の好き嫌いというのはどこかしらに発生する。
生理的に受け付けないというものなのだろう。
だからと言って敵対するわけでもない。
どこで人の縁は結ばれてるか分からない。
不当に相手を否定すれば、巡り巡ってそれが自分にかえってくる。
それが分かってるからこそ、それが合わなくても一定のお愛想は振りまく。
両者共に分かってるから、それで拗れる事は無い。
いつか機会があれば、と分かれて終わる。
余程の事がない限り、そうやってお互い敬して遠ざけるという対応をとっていく。
そんな事を繰り返しながら共にやっていく者達が固まっていく。
なお、事業に関わりのない部分でもそれなりに忙しくなっていく。
春日家の奥方であり、ヒロタカの母であるその女性は、やってくる新人従業員達を見ながらにこにこと呟く。
「あらあら、新しい子達が来てるわねえ」
どこまでも穏和な声が誰に聞かれる事もなく消えていく。
「これならうちの若い子にも素敵な男の子を紹介してあげられるわ」
息子から仕事の話を打診されて以来、母は概ねこんな調子だった。
何の事はない、貴女の世話焼きオバサンやお見合いオバサンの立場を頼んだである。
他に適任者がおらず、ならばと丸投げした結果だ。
実際、他にこんな事が出来そうな人間はいなかった。
なんだかんだで一家の台所を預かる女将さんである。
家の中で彼女より上はいない。
また、なんだかんだで女である。
色恋沙汰などには興味はあるし、それなりに人生経験もある。
何より本人が乗り気だった。
「早速まとめていっちゃおうかしら」
年甲斐もなく、と言ったら失礼であろうが、心を躍らせながらそんなことを言う母は年齢不相応に浮かれていた。
そんな彼女を制止する者がいないのは、幸か不幸か。
「でも、このままじゃ女の子が足りないから、もっと入れなくちゃね」
さらっと使用人の増加を決定した母は、早速父の所へと向かう。
「あの人も納得してくれるわよね」
父が母に甘いのは確かなので勝算は高い。
もちろん財布は固く、不要なものを抱え込むような事はしないが。
それでも母は、遠慮なく父の所へと向かった。
使用人の増加は父もヒロタカも考えていた事なので反対は無いのは確実であるが。
「どんな子が来るのかしら、楽しみねえ」
既に決まった事ととらえてる母は、躊躇いの素振りも何も見せずに父の執務室へと入っていった。
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