58話 邪魔さえなければこんな事をせずともと思いはする
「あの連中が乗り込んでくるのが一番面倒ですからね。
出来るだけ動きを悟られないようにしておかないと」
何かしら行動をすればどこかに漏れる。
当然、商売敵もそこに含まれる。
こちらの行動が漏れると色々と厄介である。
特に独占寡占をしてる相手だと。
基本的な力が違うので正面からぶつかれば勝ち目がない。
この場合、単純な力量差だけを刺してるのではない。
才覚や努力や運ではどうにもならない固定化された特権の有無が問題になる。
固有の権利として認めねばならないものも有るが、この場合はそうではないだろう。
独占寡占は、利益を得てる者達にとっては最高だが、それ以外の者達には負担となる。
それだけで隔絶した力を持ってしまうのだから話にならない。
そんな連中に勘づかれないように可能な限り動きを隠しておきたかった。
「その為に奴隷商です」
ヒロタカにとって都合の良い存在となりえた。
「奴隷商を通せばこちらの動きをかなり隠せます。
少なくとも表立って動くわけではないので、相手に動きを察知されないで済みます」
「うむ」
「それに、先ほども言いましたが奴隷商に身売りするのは割と一般的です。
食うに困った者達がやむなく、という事ではありますが、家族を身売りする事はあります。
その為、三男四男といったものが売り出される事もあります。
自然と奴隷商にはこちらが求める条件の者が流れやすくなります」
「確かにな」
「それに奴隷商があちこちの村を巡るので手間もかかりません。
我々が独自に動くより楽です。
何せ、店先に行って注文すれば良いだけですから。
それでいて動きが筒抜けになる事もない」
「理想的だな」
「ええ。
まあ、多少は外聞が悪くはなるでしょうが。
あそこは奴隷を酷使してると。
でも、我が家は成金。
悲しいかな言われ無き誹謗中傷には事欠きません。
そんなものが今更一つ二つ増えた所で何がどうなるという事もないでしょう」
「それもそうだな」
父は苦笑気味に、しかし面白そうに笑った。
「今更傷つくような看板などないな」
「ええ。
とっくに傷をつけられてますから。
それも商売敵に。
そんなもの、敵からの勲章であっても、こちらの非になるものではない」
評判は気になるが、どうせ最底辺に落ちてるならこれ以下を気にする必要がない。
「それに、悪評がたってるならたってるで、思いっきり利用させてもらおうじゃないですか」
「ほう?」
「どうせ我らは悪人。
少なくともそう言ってる連中がいます。
ほとんどが商売敵と、それに同調する輩です。
ならば、徹底的に悪人らしくやってやろうじゃありませんか」
開き直ってしまえば何も怖くはない。
「奴隷を徹底的に買いましょう。
人を徹底的に集めましょう。
下っ端の労働力を片っ端から手にいれましょう。
なに、すぐに必要になります。
解放した村を元に戻す為に、人手はいくらでも必要です。
でも、金を払ってそれらを雇うのは手間です。
なら、奴隷を使っていきましょう。
金は先払いで出してるのだから。
そして解放した村を我らの下におきましょう。
政治的な行政区分なんぞ知った事ではない。
我々が介入し、我々が手に入れ、我々の支配下におく。
他の連中が町や地域で手にしている独占寡占を我々も手に入れるのです。
手段など構ってる必要はありません。
多少は取り繕う必要はあっても、相手が手出し出来ないようにするための方便で十分です。
こちらが強くなればあちらも手出しは出来ません。
力を使って牽制してくるなら、こちらも力を手に入れて叩きつぶしてやるまでです」
いつになく長い台詞をヒロタカは口にした。
それを聞く父は眼を細めていく。
「その為にも、人手の募集は今後も続けていきましょう。
面白い事になるかもしれません」
「どうしてだ?」
「どうせ邪魔されます」
残念ながらそれは避けられない。
今も人手がなかなか集まらないのは、何かしらの圧力があるからかもしれない。
そう思うくらいだ。
実際どうなのか分からないが、可能性は捨てきれない。
「だからこそ利用しがいがあるかもしれません。
そうなると人手の余ってる所は自然と奴隷商に頼らざるえません。
奉公先などそうそう見つかるものでもないし、そうなると冒険者か身売りしかありません。
モンスター退治が主力の冒険者になろうという者は少ないですし、残る選択肢は一つになります」
「それで奴隷に流れる人間が増えると?」
「あくまで可能性ですが。
ですが他に道がないならそうなるでしょう。
さもなくば飢え死にです」
この世界、飢饉や飢餓は珍しくない。
多少不作になるだけで結構な痛手になる。
それくらい農業生産などが安定していない。
農業技術に変革がない限りはこんな調子でいくだろう。
それらもいずれレベルアップを用いて解決出来れば良いのだが、先の話にせざるえない。
そんな先の事ではなく、目の前の問題である。
「流れてくるならそれを受け止めれば良い。
それが出来るなら我々ががんばりましょう」
「分かった」
父は了承した。
それならば徹底的にやろう。
お前が稼いでくれた分も注ぎ込み、可能な限り人を集めよう」
「ええ。
奴隷商を囲い込めればなおありがたいですね。
今後の人材確保に使える」
「以前言っていた周旋屋の買収も含めてか?」
「ええ。
周旋屋も人が流れ着いてくる場所ですから。
冒険者を取り込めればこちらも戦力が増えて助かります」
食い詰めた者が行き着く先は同じである。
人に売られるか、自ら立ち上がるかの違いがあるだけだ。
その両方の流れの先でヒロタカ達が待っていれば良い。
「楽しみだな」
「ええ、とても」
「ふふふふふふふ」
「くくくくくくく」
「ふはーはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
「はーはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
邪悪な笑い声をあげて、二人はこれから先の未来に思いをはせた。
「あと、ついでに」
「なんだ?」
「女の子もこちらで引き受けましょう。
直接の戦力にはならないでしょうが、裏方の作業は出来るでしょうから」
「といっても、メイドくらいしかないぞ」
「だからいいんですよ」
「なぜだ?」
「男だけじゃむさ苦しくなります。
そんな彼等の目に見える所に、女の子を置いておかないとどんな暴走をするやら」
「分かりやすいな」
「ええ、分かりやすい話です。
それに」
「んん?」
「将来の嫁さん候補も必要です。
これから頑張ってくれる者達が独身じゃこまります。
結婚して所帯を持って子供が出来ないと」
「そのためのメイドか」
「出会いの場を作らないとどうしようもないですからね。
村とかだったら世話する大人もいるでしょうが」
親同士や村ぐるみで結婚などが決まるのは当たり前というか基本である。
だが、貧民街や冒険者に奴隷などにそんなものはない。
誰かが世話をするか、偶然恋愛に発展するのを待つしかない。
というよりも、それ以前の問題になっている。
男は女と出会う機会がない。
女も同じで、男と出会う機会が無い。
まずは接点を作らない事には恋愛もありえない。
お見合いも果てしない夢にしかならない。
「我々でそういった場を提供してあげましょう」
それで恋愛でも発生するなら儲けもの。
両者には是非幸せになってもらいたい。
そうでないなら、こちらで世話をして見合いをさせていっても良い。
独身が良いという者もいるだろうが、そうでないなら添い遂げる相手がいた方が良いだろう。
「だが、誰にそれをさせる?
色恋沙汰は儂としても苦手じゃぞ」
「なに、最高の適任者がいるかと」
少々呆れたとういか困り顔で言う。
「他に思いつく人がいませんし」
そういってヒロタカは一人の人物の名をあげた。
「あらあら、まあまあ」
話を持ち込まれた該当者は、口癖のようなその言葉を漏らした。
そんな相手にヒロタカは、「是非にも」とお願いする。
「他に頼れる人がいません────母さん」
春日家においてもっとも穏便穏やかな存在である母に、ヒロタカは頭を下げた。
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「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
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「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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