57話 見方を変えれば利点も見えてくる
「奴隷?」
「ええ、奴隷です」
「買うのか?」
「手っ取り早く頭数を揃えるために。
多少は選別をしなくてはいけませんが、とりあえず健康であれば良いとしましょう」
必要な数を揃える為に手段として割り切る事にした。
「もちろん金もかかります。
やすいものじゃない。
相場がどれくらいは詳しく分かりませんが、確か一人四百だか五百銀貨必要だったかと。
手痛い出費になりますが、これでとにかく急場を凌ぎましょう」
「しかし、それだけの利点があるのか?」
「────さすが父さん」
ヒロタカは父のその言葉に素直に感動した。
「出費を惜しむのではなく、出費に見合う利益を考えるのがさすがです」
「やっぱり?」
息子からの賞賛に、父は喜びを感じていった。
「もっと褒めてくれてもいいぞ」
「それはまた今度」
「えー」
「いや、そう言われましても」
あらかさまに残念そうな顔をする父に苦笑する。
こんな調子の人間が、よくまあここまでのし上がったものだと。
「父さんのすばらしさを口にするのはまた今度にして──ですから涙目にならないでください。
ともかく奴隷をあえて揃える事で思いつく利益はあると思います」
「聞かせてもらおう。
ついでに儂のすばらしさについても……」
「奴隷についてですが──」
父の言葉をヒロタカは遮った。
涙目を通り顔して泣く寸前の顔になる父に、思いつく利点を口にしていく。
「まず、単純に人件費です。
四百五百の銀貨は人間一人を一年二年雇う金額になります。
これを奴隷だと五年ほど拘束する金額として用いる事が出来ます。
単純に考えれば二年三年分の出費がおさえられます」
「確かにそうだな」
表情を戻した父が頷く。
それが奴隷の利点ではある。
所有者から見た場合の。
「そう考えるなら、五年分の人件費を先払いしてると考えても良いかと。
確かに出費は大きいですが、レベルアップさせてそれなりの労働力にすれば元はとれるかと」
「先行投資か」
「そういう事です。
無理は出来ませんが、もし余裕があるなら何人か揃えておけば良いかと」
「それはお前が稼いできた分があるからどうにかなるだろう」
人数が増え、組み分けをして行動してるモンスター退治はかなりの核を稼いでいた。
単にそれを売却するだけでも毎月一千銀貨を超える売り上げになる。
直接の利益でなくても、核を燃料や動力源として用いた場合の生産性の向上もある。
それらがもたらす恩恵による利益も大きい。
おかげで春日家は現在かなりの利益を出していた。
モンスター退治以前に比べて遙かに大きく。
それを考えれば、当初の一千銀貨の投資など小さなものであった。
同様に、今回の奴隷購入も長い目で見れば大きな利益になる可能性が十分にある。
「また、五年の奴隷契約の間は裏切る事がありません。
この事が非情に大きな利点になります」
従業員、労働者、奉公人。
一応契約などはするが、それでも離反する事はありえる。
他からの引き抜きや独立自立、単に現在の職場が嫌になっての離職など。
理由は色々だが、手元から去るのは変わらない。
「奴隷にはそれがありません。
これだけでも大きな違いになります。
少なくとも五年は確実に手元にいる。
これなら長期的な計画がたてられます」
人の確保が難しいのは雇うまでだけではない。
雇ってから居着いてくれるかも難しい問題となる。
どれだけ優秀であっても短期しかいないのであれば長期的な活動は出来ない。
長くいてくれるというのは、それだけでも大きな利点になりえる。
不況になった時には重荷になるのも確かだが、何かをやろうとしたときに人手がそもそもいないと何も出来ない。
ある程度まとまった人数を長期間確保するのも事業には必要になる。
そのため、五年の拘束期間が存在する奴隷は貴重な戦力にありえた。
怠け者や無能であっては困るが。
「あとは人手集めの手間ですね。
今回のように急に募集をかけてもなかなか人は集まりません。
そもそもの知名度の問題でしょう。
我々がここにいる事を知らない人間の方が多いでしょうから」
情報伝達が限られるこの世界において、各地に知れ渡るような存在になるというのは難しい。
それなりに裕福である春日家も、世間に認知されてるかというと心許ない。
館を構えるこの町と、この周辺の村であれば知ってる者もいるだろう。
しかし、そこより外となると途端に知名度が下がるはずだった。
知ってても「いけすかない成金野郎」というよろしくない悪評の方が大きい可能性がある。
「そんな我々よりも、奴隷商の方がまだ名前が知られてる。
少なくとも業務内容は誰もがご存じでしょう。
なら、我々の人員募集より奴隷商に身売りする事を選ぶ者も多いかと。
そもそもの選択肢として、我々の募集がある事を知らない者も圧倒的に多いでしょうし」
宣伝力というのも関わってくる。
今回募集をかけてあちこちに飛び回ってるが、それが拡散して周知されるまでには時間がかかる。
成果があがるまで二ヶ月三ヶ月とかかる事も覚悟せねばならない。
実際、人を集めてる今も、募集をあちこちに告知してようやく人がちらほら集まってきてるところだ。
「それなら奴隷商から集めた方が手っ取り早いと思います」
将来的にはともかく、人手を早急に集めるなら奴隷を購入した方が早いかもしれなかった。
「奴隷商には長年にわたる活動実績があります。
それを頼る者も今は多いでしょう。
もっとも、身売りする方も苦渋の選択でしょうが」
何にしても奴隷に身売りするのは最後の手段と考えられている。
誰だって自らの意志を奪われる奴隷になろうなどという者はいない。
それでもやむなく身を売らねばならない事もある。
この世界でもそれは変わらない。
「ついでに言うなら契約による騒動も発生しない。
労働者なら条件や待遇の改善を求めてくるでしょうが、奴隷はそんな事しません」
このあたり雇用者としてはありがたかった。
何せ事業を進めるにあたって、一々騒動が起こってはかなわない。
それなりの待遇はしていても、何かしら要求があがるのが常なのだ。
そんな事に一々対応してもいられない。
「もちろん、それなりの待遇はしていかねばなりません。
無理を押しつけてもいけません。
ですが、やるべき事をやってもらわねば困ります。
途中で放棄される心配がないのも奴隷の利点です」
何せそういう契約である。
生死に関わるような命令は出来ないが、通常の作業や業務はしっかりやってくれる。
それだけでも十分にありがたい。
「そんな奴隷がいるから、他の一般的な作業員にも牽制になります。
無茶な注文をつけて仕事をしないなら、こちらは奴隷を揃えて対処すると。
雇用を守りたいならそれなりに頑張っていかねばならないと示す良い手段にもなりえます」
もちろん作業員にも適切な支払いや作業をふりわけねばならない。
しかし、無茶な要求をさせないための手段として有用であろうと思えた。
実際、あまりにも酷い要求をされれば、作業員を奴隷に置き換えてしまう事も考えている。
「そうならないのが一番ですけどね」
ここは奴隷ではない作業員達にも分かってもらいたいところである。
「ただ、最大の利点は、我々の行動を隠す事が出来る事になるかと」
ヒロタカは思いつく限りにおける最大の利点を口にしていった。
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「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
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