56話 穴埋め手段は他にもありました
英雄、というのもあながち冗談ではない。
国境におけるモンスターとの激突もそうだが、国内におけるモンスターの撃退も英雄譚としてもてはやされる。
あちこちを虫食いのようにモンスターによって制圧されてるのも、やはり問題である。
それはそのまま周辺地域への脅威になるからだ。
これを押しのけた者は大なり小なり評価される。
人々にとっておも、遠い国境ではなく身近にいる英雄に目が向きやすい。
娯楽や明るい話題が少ない世界でありご時世である。
そういった者の存在は貴重であった。
ヒロタカ達が名前を売りこむ機会がそこにあった。
また、現在のレベルでも村一つを解放する事は可能である。
三ヶ月が過ぎ、レベルも上がっている。
新人達は戦力になってないが、それでも周囲を囲んでクロスボウで援護射撃するくらいなら出来る。
それでも更に三ヶ月をかけるのは、その先を考えてのことだった。
村を開放するだけでは終われない。
村を開放するのは良いのだが、それで終わりではない。
解放しなければならない村は一つだけではないのだ。
目標としてるゴブリンの制圧してる村まで一気に片付けたい。
その為にも戦力の底上げが必要になる。
一つの村を開放し、次の戦闘に突入するには数が必要になる。
出来るだけ質の高い兵力が。
でなければ連戦は難しい。
損害を少なく抑えるには、敵を圧倒できる強さが必要になる。
その為にもレベルアップは必要不可欠だった。
やはり、最低でもレベル3にはなっていてもらいたい。
でなければ安心して戦闘に突入出来ない。
結局は安全性の問題になっていく。
技術が無ければ何も出来ない。
何かをしても失敗の確率が高くなる。
それだと仕事を任せる事が出来ない。
どうしても手の届かない所は出て来るにしても、出来るだけそういった部分を減らしておきたかった。
その為にも三ヶ月の時間が必要になる。
逆に言えば、まずは村を一つ制圧し、それから三ヶ月かけてひとを育てる事も出来る。
やろうと思えばそれも出来るのだ。
しかし、それもとある可能性を考えると最善と言い難いと思えた。
別の勢力の介入である。
ヒロタカが相手にしてるのはモンスターだけではない。
何かにつけ文句を口にし、いちゃもんをつけてくる人間もまた敵である。
成り上がりへの警戒などもあるのだろうが、そのくせ開拓した新市場に当たり前のように入り込んでくる。
自由参入を否定するつもりはないが、自分達の既得権益や市場には断固として参入させないのだから公平性が無い。
この一方的な態度にヒロタカは敵意を感じていた。
向こうからすればそれが当然なのだろうが、その無意識の特権意識が鼻持ちならない。
参入してくるのは良い。
競合相手がいるならそれはそれで活気づく。
独占や独裁は、結局は最悪の事態を招くと思うだけに競合他社の存在は歓迎したい。
なのだが、既に成り上がってる連中(貴族にしろ富裕層にしろ)は自分達の領域への参入を頑としてはねつける。
彼等は独占・独裁しているのだ。
あるいは寡占というのだろうか。
少数の一部だけが利益を得るようになっている。
利益を均等に振り分けろなどとは言わない。
しかし、競合相手として参入できる自由はしっかりと確保してもらいたかった。
それをしない連中に分け与えるものなどない。
だからこそ一気呵成に片付けねばならなかった。
介入する隙を与えないように。
時間がかかればその分隙が生まれる。
「しかし、それでも人手が足りなくなるぞ」
父はそこをどうするかを考えていた。
「モンスターの相手はともかく、それ以外の部分で人手が足りん」
「貧民街から引っ張ってきてもですか?」
「ああ。
人数が絶対的に足らん」
そもそも貧民街は命からがら逃げてきた者達の集まりである。
ろくな稼ぎがないから家庭をもつ事も難しい。
なので一代限りでお家断絶となる事が多い。
どうにかこうにか生活してる者も、その日暮らしがほとんどである。
春日家で雇う事で多少は改善されてるが、全体的に貧しい事に変わりはない。
いずれ結婚、そして出産となるにしてもそれは数年先の話であろう。
労働力として使える人間が生まれてくるのは十五年から二十年という長い道のりとなる。
「となると、他の村や町から人を集めてくるしかないですね」
「そっちは何とかかけあってる。
口減らしもあるんだろうが、三男四男あたりを引っ張ってきてる。
それでも簡単には集まらんし、集まっても使えるようになるまで時間がかかる」
教育や訓練はどうしても二年三年の月日が必要になる。
レベルアップに付き合わせて一気に成長させる事も出来るが、今はそれをやってる余裕が無い。
ただ、レベルアップもそれをする人がいての話である。
今は何も出来なくても、まずは人を集めねばならない。
「そう簡単にはいきませんか」
「なかなかな」
人の気持ちはどうにも出来ないのだから仕方ない。
とはいえ、これでは頭打ちがすぐに見えてくる。
「なら、金がかかる方法も考えないといけませんね」
「うん?」
父は息子が何かを思いついてるのを察して、次の言葉を待った。
ヒロタカはそんな父に短く考えを伝えた。
「奴隷です」
言い訳をする
続きに全力を出してるので、訂正修正にまで手が回ってない
他の話もよろしく
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
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「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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