55話 そこは元々彼らの場所ですから
「領主が、貴族が動けない。
今までは忌々しいと思ってましたが」
「まさかそれが絶好の機会になるとはな。
世の中分からんもんだ」
「俺もここまでは考えてませんでしたよ」
感慨深く思ってしまう。
「まあ、村人達が自分の土地を取り戻すのだから文句を言う奴はいないでしょう」
「土地の権利なども調べてみたが、まだちゃんと村の者達のものとなっていた。
既に亡くなった者もいるが、そいつらの土地は村の者になるだろうしな」
「取り返せば、こちらが食い込む良い機会です」
人の生死や生活がかかってる事柄であるが、ヒロタカと父には儲けの機会に思えていた。
慈善事業をやるつもりはないので、全く悪びれていない。
ヒロタカと父にとって、これは純然たる投資であった。
仕事であって、義理人情ではない。
ただ、成功した場合に助かる者が大勢出るので、あながち悪いとも言い切れない。
村が村としての機能を取り戻すまではそれなりに援助も必要になる。
利益の回収までは結構な年月がかかる事になる。
それでも二人は、村を回復する利益は大きいと見込んでいた。
「あれば便利ですからね」
「拠点としては使えるだろうからな」
それが一番の目的である。
何せ、町から移動する必要がない。
村の近くの方がモンスターがいるというわけではないが、町における面倒が消える。
色々とやったとしても視線を気にする必要がない。
村に恩を売りつけておけば、たいていの事は見逃してくれる可能性が高い。
もっとも、人間は打算的なものだから、利益になると思えば平気で人を売るだろう。
そんな人間ばかりでなくても、そんな人間はどこかに潜んでいる。
その一人のために余計なもめ事が起こる可能性はある。
とはいえ、自由に動ける場所が増えるのはありがたい。
当面は、ヒロタカ達が活動する中心地になってくれれば申し分ない。
その上で、田畑が回復し収穫が増え、豊かになって人口が増えてくれれば販売先が増える。
かなり先の話であるが、やらなければ永遠に何も変わらない。
ならば先行者となってその利益を独占したかった。
その為にも土地の権利関係がはっきりしていなくてはならない。
苦労して取り返して、後から「そこは我々のものだ」とか言われてはやりきれない。
ならば最初から権利を持ってる村人を連れていった方が良い。
土地を手にいれる事は出来なくても、そこに住む者達を相手に商売が出来る。
彼等にしても、自分達の住処を取り戻してくれた者を無碍にはしまい。
するかもしれないが、その時は放り出せば良い。
後で慌てた所で乗り込めば良いのだから。
「まあ、その為にも人か」
「ええ、人です」
話が振り出しに戻った。
「やはり、三ヶ月はかかるか」
「無理をすれば今の状態で行っても良いのですが。
やはり無謀でしょう」
「そんなに厄介な奴がいるのか?」
「話を聞いてみたところ、そうでもないようですね。
いるのは犬頭がほとんど。
そこかしこにネズミもいるようですが、大した脅威にはならないでしょう」
「それでも、強行はしないと?」
「ええ。
出来るだけ安全を確保したいです」
「分かった。
ならばそれでいこう。
ただ、可能な限り急いでくれ。
こちらもさほど余裕がない」
それが本当か嘘なのかは分からないが、遅れるよりは急いだ方が良いのは確かだろう。
先手をとられる事などまずないだろうが、延期すればするほどいらぬ経費がかかる。
無駄は極力省きたいものだった。
「しかし、ゴブリンが相手じゃないのか」
父はヒロタカの言葉からそれに気づいたようだった。
「てっきりゴブリン退治かと思ったんだが」
「残念ながらまだまだです。
先に村を確保しないと」
「そうだな。
まだずっと先にいるものな」
「ええ。
まあ、二つ三つ先の廃村ですから、そんなに離れてるわけでもないですけどね」
そこから飛び出してこないのはありがたい事だった。
向こうもさすがにそれ以上人間の勢力の中に入るのは危険だと思ってるのかもしれない。
とはいえ、そこにゴブリンがいるおかげで、交通路が遮断されている。
迂回すればその向こう側にも行けるのだが、無駄が大きい。
それを排除して村を回復させれば、移動距離の大幅な短縮が見込める。
誰かがそれを為しえることを誰もが望んでいた。
もっとも、そこが難しいところで、迂回していく事で利益を得ている者もいる。
そういった者達はゴブリンの殲滅に及び腰である。
「なるべく急ぎたいところです」
経費の無駄だけでなく、そこからの妨害が入るのを恐れてもいた。
だが、動くに動けない現状では、レベルアップに励むしかなかった。
「英雄になる機会なんですけどね」
冗談めかしてそう言ってしめくくった。
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