54話 彼らの為を思えばこそ、という事にしておこう
「まあ、声はかけてあるから、あとは時期を待つだけだがな」
「調整は済んでるんですか?」
「人を雇ってる時にな。
村をまとめていた者に声かけて説得してからは楽だったぞ」
「やっぱり、村長を中心にまとまるもんですね」
「所によるがな。
中には村長がからっきしだったからと、別の者が中心になっておった。
しょうがないんだろうがなあ」
「こればかりは責められませんね。
モンスターに攻め込まれ、村を破壊されたんですから。
対応出来ないのが普通でしょう」
そこには幾分同情的ではあった。
村を焼け出された者達である。
それをまとめるなど簡単にはいかない。
平和な時ならともかく、最悪の事態に陥ったのだ。
そんな時に平然としていられる、超然としていられる者など滅多にいない。
平和な時代と、戦争の時代では求められる統率者のあり方は事なる。
モンスター出現以来、世の中が平和であるとは言い難い。
しかし、それでも国境より内側は一応の平和が保たれている。
そんな所を治めてる者に、戦闘における統率も求めるのは酷というものである。
両方の素質を持ち合わせてる者もいるだろうが、そう多くはない。
なので、脱出時に醜態をさらしたであろう村長などには同情してしまう。
「けど、それならやりやすいですね。
村に戻るにあたっても」
「そうだな。
変な横槍は入らないだろう」
「火事場泥棒は何処にでも出ますけどね」
ため息が漏れる。
「でも、占有権を主張するような者もいないでしょう。
モンスターのいる場所を取り戻したというならともかく」
「残念ながらそんな話は聞かないしな」
「おかげで助かりますよ。
今回ばかりは、領主様の腰抜けっぷりがありがたい」
「そうだな」
「ええ、そうです」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………くくく」
「…………ふふふ」
「くくくくく…………うわーはっはっはっはっはっ!」
「ふふふふふ…………ふはははははははははっはっ!」
親子して邪悪な笑い声を上げる。
実際、これが一番面倒な所だった。
村からモンスターを追い出すのは良い。
それによる名声、モンスターを追い払ったという実績が欲しいのだから。
だが、それだけでは面白くないのも事実である。
実利がない。
強欲過ぎるかもしれないが、やはり手に取れる利益が欲しかった。
その為の村人であった。
貧民街を形成してる者達の中で、元の村出身の者を探し集めていた。
彼等はモンスターの襲撃にあい、命からがらここまで辿りついた者達である。
既に二代三代と世代を重ねてる者もいる。
その間、村の奪還も出来ずに今に至っていた。
やむを得ない部分もある。
そこまでの余裕がないのだ。
軍勢のほとんどは国境に貼り付き、そこでモンスターを食い止めている。
そこをくぐり抜けてくるモンスターを追い散らす兵力がない。
幾らか残ってはいるのだが、それらは温存するべきものであり、どうしても出し渋ってしまう。
その為、冒険者に仕事が回ってくるという寸法になっていた。
だったら冒険者を兵隊に取り立てれば良いと思いがちだが、これがそうもいかない。
現状の兵力でも抱え込めるギリギリで養っている。
これ以上採用する余裕は無い。
もちろん全く採用しないわけではなく、緊急時には募集がかかる事もある。
しかし、レベルは高くても独自の意志と判断で活動してきた冒険者は使いにくいというむきもある。
統一された訓練を受けてるわけでもないので、集団行動がとりにくい。
そのため、基本的に冒険者は一時的な雇用で終わる事が多い。
傭兵としか扱われない場合がほとんどだった。
ごく希に採用される事があったとしても、それは独自の単位で動く特殊部隊扱いとなる。
その為、相当な能力を持つ者でなければ採用されない。
何にせよ、狭き門であった。
それはともかくとして、そんな状況だから国内の、更には領地内の村や町を回復出来ないでいる所が多い。
やって出来ない事はないが、その為の出費も馬鹿にならない。
軍隊を動員するというのは、とにかく金がかかるものである。
養うだけで手がいっぱいなのにそんな余裕があるわけがない。
だからこそ、ほとんどの壊滅した集落がそのままになっていた。
逃げてきた村人達も、ほとんど放置状態である。
「おかげでつけ込めるのはありがたいですね」
かなりアコギな事をヒロタカはほざいた。
他の話もよろしく
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
http://ncode.syosetu.com/n7595dj/




