48話 申し訳ないが君には頑張ってもらうしかないんだよ
「新しく参加するのがこちら。
皆、よろしくねー」
白々しい声が出発前の仲間達の耳に響く。
紹介されてる者は、しょげかえった顔と態度で頭を下げた。
その表情を言葉にすれば、「どうしてこうなった」というしかないだろう。
それを見てミサキは、
(ああ、私と同じように引きずりこまれたんだ)
と理解した。
その他の者達も、同情や哀れみをもって彼を見つめた。
見られてる方も、その視線から仲間となる者達が同情的なのを察知した。
一人ヒロタカは、
「さあ行こう」
と元気よく声をかける。
それが様々な追求を拒否する意思表示に思われていく。
実際その通りであったが。
「……あんまりにもあんまりなんじゃ」
いつもなら座らないヒロタカの隣に座ったミサキがぼやく。
「あの子、無理矢理連れてきたんですよね」
「まあね」
あいまいながら肯定の返事をする。
「モンスター退治ですよ。
危険なんですよ」
「そりゃそうだ」
「何を考えてるんですか」
「金儲け」
明確な理由である。
それ以外は何も考えてない。
というより、他にどんな目的が必要なのか分からない。
生きていくためには、金が必要である。
生きていくためには金が必要であり、それは幾らあっても良い。
使い切れないくらいあれば、生きていく事で不自由する事はほとんど存在しなくなる。
だからこそ金を求める。
清貧なんてのは、そうしたい者が一人でやっていれば良いのである。
貧しくても清く生きるというならまだ良いが。
清く生きる為なら、別に貧しい必要はない。
豊かであっても清く生きる事は出来る。
だったら豊かな方が良い。
それだけの事だ。
そう思うからこそヒロタカは金儲けを優先する。
「その為に、無理矢理巻き込むんですか」
「何が悪い?」
本当に何が悪いか分からなかった。
「金は大事だぞ。
無いと困るのは分かるでしょ」
「だからって無理矢理引きずり込むなんて……」
「無理矢理連れて行かなきゃ誰も来ないでしょ」
「でも……」
「それに、こうでもしないと人が育たないし。
こっちも結構崖っぷちなのよ」
どこが、どミサキは言いたかった。
彼女の目には、裕福な春日家の姿しかうつっていない。
内情や今後の計画について知らされてないためであるが、その為ヒロタカの言葉が胡散臭く感じられる。
「ま、悪いようにはしないつもりだし。
あいつが本気で頑張れば死ぬ事もない」
実際、素人同然で始めたヒロタカ達も今まで生き残っている。
「どうにかなるさ」
「ならなかったらどうするの」
「そら、諦めるしかないじゃん」
酷い話である。
「そうならないように、俺らが頑張るしかない」
「……頑張るつもりではあるんだ」
「当然だ。
死なせるつもりも怪我させるつもりもない」
その言葉にミサキは、決して何一つ感心しなかった。
「どうせ、死ぬと面倒だからとか言うんでしょ」
「もちろん」
即答である。
「死んだら何も出来ん。
投資分を回収出来ないし、今後の活躍も見込めない。
そんな事したら、俺達が一番損をする」
「……結局、金なんだ」
「一番分かりやすい目安だ。
怪我させたり死なせたりしたら、真っ先にここにあらわれる」
それはヒロタカなりに考えて出した結論である。
「金を稼ぐには全員が無事に過ごさなくちゃならん。
俺はその為の努力を惜しむつもりはない。
出来る事に限界はあってもだ」
「はいはい」
どこまで言っても金と儲けである。
ミサキはため息すら出なかった。
ただ、その為に人をすりつぶすというわけではない。
それが救いになるかどうかは分からなかったが。
「そんじゃやってくぞ」
新人投入二日目、将来の計測係一人を加えて作業が開始される。
出発前にミサキが三人組に魔力をかけ、それから出発となる。
将来の計測係にクロスボウを持たせる。
彼にはアオイと同様に遠距離攻撃に徹してもらう事にする。
さすがに近接戦闘までさせるのはしのびなかった。
そんな彼に、
「俺には当てるなよ」
と注意するのを忘れない。
「わざとであろうと、そうじゃなかろうと、死んだり怪我したら、お前だけでなく他の皆にも制裁がされるからな」
嘘でも何でもない。
実際にそういう事にしている。
可能なら誰がやったのかをはっきりさせ、加害者だけを対象としたい。
しかし、その確認は困難である。
また、誰かがそうやるようにそそのかすかもしれない。
そうなると実行犯だけを処罰するわけにもいかない。
やるなら、計画した者も対象にしないといけない。
現実問題としてそこまで調べる手間はかけられない。
かけても時間がかかりすぎる。
それならばいっそのこと、という事になる。
かなり無理矢理モンスター退治に引きずり込んでるので、後ろから刺される可能性は常にある。
その為の対策はいくらでも仕掛けておかねばならなかった。
そういう状況を作ったのがヒロタカ自身である事を棚に上げて。
連れ回される者達からすればたまったものではない。
だが、一部の例外を除いて、ほとんどの者達はそれに従うしかなかった。
これで見返りが無ければ不満が確実に蓄積されていっただろう。
金銭による報酬と、レベルアップがあるからこそ彼等も納得している。
一日十銀貨のミサキは別格であるが、他の者も一日一銀貨を日当として受け取っている。
周旋屋で回ってくる仕事よりも、使用人として館で働くよりも遙かに高い給料である。
それもあるから不満を押し殺して耐えている。
金は偉大であった。
それでも不満がないわけではない。
「……なんでこんな目に」
と繰り返しぼやく計測係(予定)は我が身の不幸を呪っている。
事前に危険も伴うとは聞いていたが、まさかこんな事になるとは思っていなかった。
見込みが甘かったと言えばそれまでだが、今更逃げるわけにもいかない。
周りの者達が同情的なのがせめてもの救いであろうか。
彼がヒロタカにクロスボウを向けて引き金を引くのも時間の問題かもしれなかった。
それでもヒロタカは、早急に核を計測し、不正が無いかを確かめる者を必要としていた。
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