45話 誤魔化すよりも正直にやっていた方が長い目で利益になります
作業が終わって戻ってくると、三人組も戻ってきていた。
餌も回収し、本日の作業は締め括ってるという。
頃合いから見ても妥当なところだった。
「それじゃ、確認をお願いします」
そういって能力表をそれぞれ表示する。
ついでに核も。
数の誤魔化しが無いかを確かめるためだ。
組み分けというか別行動で一番問題になるのはこれである。
とってきた核を誤魔化し、いくらかちょろまかすという事だった。
やろうと思えば幾らでも出来る事だし、それによる損害を無視するわけにはいかない。
とはいえ監視を完璧に出来るわけもなく、どうしても幾らかの漏れやズレは発生する。
それは仕方のない損害として覚悟せねばならない事であった。
だが、三人組はそれに対して自ら申し出てきていた。
「作業が終わったら能力表を見せます。
それで経験値が分かるはずです」
「経験値から倒したモンスターの数はおおよそ分かります」
「そこから核の数を照らし合わせてください」
言われた時にヒロタカは呆気にとられた。
こういった事を誤魔化して少しでも小遣いを稼ごうというのが普通である。
ヒロタカもそれはやむをえないと諦めていた。
それがまさか、自らそれを封じてこようとはおもわなかった。
「なんで?」
と尋ねるのも無理からぬ事。
それに対して三人は、
「誤魔化して小遣いを稼いでも高が知れてます」
「核を一個二個持っていったところで、一個あたり七百銅貨くらいですよね?」
「一日一千四百だか五百銅貨の儲けのために、ズルしたって割に合いません」
どうやら単純な正義感や道徳観念によるものではないようだった。
「そりゃ、毎日やれば、結構な額になるかもしれませんよ。
でも、ばれたらひとたまりもありません」
「ここにいられなくなります。
その方が大問題です」
組織力というか、ヒロタカの下で大きな組織の下にいた方がよっぽど良いと思ってるようだった。
しかし、それなりの実力になれば、自分達だけで稼いでいける。
そうすれば結構な金を稼げる。
実際、今の三人組でも、自分達だけで活動した方が実入りはよくなる。
日当である銀貨一枚よりは手元に残るものは多い。
「でも、それだけですよね」
三人組は否定的な反応を示した。
「ここにいれば魔術の支援もあるし、寝床も食事もある。
それとは別に日当一銀貨です。
そっちの方がよっぽど良い」
「一日の稼ぎは、そりゃ俺達だけでやった方が良いですよ。
でも、寝床や補修やその他の経費を考えたら、ここにいた方が得です」
「それに、他の仲間がいる。
これからも増えるんですよね?
だったらそいつらからの支援も期待出来る」
だからここにいた方が良いという結論に至ったようだ。
実に合理的というか現実的である。
そこに「主の為」「忠誠心」「皆の為」といった道義や理念は存在しない。
ただただ利害を考えた結果だけがある。
「なるほどね」
ヒロタカも納得した。
理念や理想はそれなりに必要である。
そうであってほしいという願望は、時に人々をまとめる手段になる。
大義名分が大事なのはその為であるかもしれない。
ただそれだけで正義や邪悪が決められてしまう。
大義名分や理念というは、簡単に正邪善悪を色分けする手段にもなりえる。
そして、どちらかと言えば正義を振りかざす方が人は動きやすい。
それがどれだけ欺瞞に満ちたものであろうと。
本来、正義や善意とは、そういったどこかの誰かの利益になるようなものではないのだが、利用されやすいのは確かである。
しかし三人組が出してきたものはそういった欺瞞に満ちたものとは全く違ったものだった。
どこまでも自分の利益を考えた結果である。
それが、ヒロタカを始めとした他の誰かの利益にもなっている。
ヒロタカにはそれが心地良く感じられた。
本来有るべき正義や理念、善意とはこういうものではないかと思うほどに。
なのでヒロタカもそんな三人の申し出を快く受け止めた。
何せヒロタカが損をする事は無い。
ヒロタカも公明正大にしていればどこにも問題は発生しない。
三人組の呈示してる経験値や核の数をヒロタカが意図的に間違って計上しなければ。
今度はヒロタカの方が誠意を試される事になる。
そうなったらヒロタカの方が非難を受ける事になるだろう。
少なくとも信用を失う。
三人組にそんな意図があるかどうかは分からないが、彼等が見せた誠意とはそういう意味も含んでいた。
ある意味、したたかと言えよう。
そんな所にも好感を抱く。
貶めようとするなら容赦はしないが、公明正大であろうとした結果なのだから。
だからこそヒロタカも、
「それは帰ってからにしようや」
と言う。
「ここで数えても正確な事は分からないし」
そう言って三人を促す。
実際、ここで色々数えてしまうと、何かしら誤魔化しが発生しかねない。
それがヒロタカからなのか三人組からなのかは分からないが。
それよりも、その他の者達がいる場所で計上した方がまだよい。
誤魔化しがしにくくなる。
とにかく、当事者だけでない、他の誰かの目がある所でないと面倒や問題が発生しやすい。
それだけは固く守っておきたい事だった。
「そんじゃ、帰ろうや」
つとめて軽い口調でそう言って、ヒロタカは帰還を促す。
三人組も、それならと後に続く。
人が増え、別行動する者が増えていく事による手間と面倒と通すべき筋をあらためて実感しながら。
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