40話 身につける事ができるなら大きいので試す価値はあるはず
「なかなか大それた事を考えますね」
「俺もそう思う」
「でもやるんですか?」
「試してみない事にはどうにもならん」
「そうですか……」
そう言ってミサキはため息を漏らす。
モンスター退治が終わった帰り道、馬車の中で二人は向かい合って話しあっていた。
「でも、未だによく分かってないんですよ、魔術は」
「知ってる」
「それでも何ですね」
「ああ」
ヒロタカの決意も固い。
「それでも魔術を身につける道は幾つか見えてるんだし」
だからこそやるしかなかった。
魔術がどういった条件で身につくのかはまだ完全に解明されてない。
それでも、ある一定の技術を身につけた場合に得られる可能性が高いとは言われていた。
その為の研究や調査は進められており、成果の幾ばくかは外部にもたらされている。
だが、研究に対して結果が伴ってるかというとそうとも言い切れない。
該当すると言われてる技術を、必要と思われるレベルに上げても魔術に目覚めない場合もある。
それとは別に、想定外の技術とレベルを保有してたものが魔術を使えるようになる事もある。
そこにどんな違いがあるのかはいまだにはっきりとはしてない。
なので、魔術を身につけられるかどうかは、まだはっきりと分かってるわけではない。
「それでもさ、少しは必要な条件が見えてるわけだし。
それを試してみたいとは思う」
「でも、それって誰がやるんですか。
魔術を身につけるって」
「まあ、これから来る新人で、希望する奴がいればやらせてみようかと」
「ふーん」
ミサキの目が細くなる。
視線の体感温度は氷点下にまで下がる。
呆れており、なおかつ軽蔑してるのは明らかだ。
視線だけでなく表情も冷めたものになっている。
「自分じゃなくて、他の人を使うんですか」
「そうだ」
「酷いと思わないんですか?」
「思うぞ」
良心は痛む。
誰かが積み重ねた苦労や労力を無駄にしてしまう事になるのだから。
レベルアップが早いとはいえ、魔術に必要な技術とレベルは結構高いと言われてる。
技術にもよるが、複数の技術をレベル2あたりで身につけねばならなのではないかとは言われていた。
となると、合計で5~8レベルくらいにはなるだろう。
今のペースでも二ヶ月から三ヶ月はかかる。
それだけの期間の努力を無駄にするかもしれないのだ。
魔術が身につけば良いが、そうでなかったらそれまで身につけた技術が無駄になりかねない。
「でもまあ、知識とかを身につけていくんだから、全部が無駄になるわけじゃないだろうさ」
「それはそうかもしれないけど」
一般的(というほど広まってるわけではないが)に言われてる魔術に必要な技術は、主に知識に関わるものが多い。
それだけに、魔術を身につけなくてもその課程で得た知識は無駄になる事はほとんどない。
「冒険者では使わないかもしれないけど、父さんの仕事では役立つかもしれないし」
「じゃあ、そっちに回すの、魔術が使えなかった人は」
「それも考えてるよ」
さすがに放り出すわけにもいかない。
ヒロタカの指示でレベルを上げていくのだ。
そう無碍に扱うわけにはいかない。
「それが無理だったら、あらためて戦闘のレベルを上げてもらうさ。
それくらいの余裕はそのうち出て来るだろうし」
「気の長い話ね」
「でなけりゃやってられないよ、こんな事」
何にせよ時間のかかる事をしている。
かなり短縮出来てるとはいえ、レベルアップに概ね十日はかかっている。
そんな事をこれからやり続けていこうというのだ。
目先の事ばかり考えてるわけにはいかない。
「折角確保した人間だし。
きっちりと使い続けていくよう考えるさ」
「結局、上手く使う事しか考えてないわけね」
「君と同じくね」
「……本当にサイッテー」
視線の温度が更に下がっていった。
「けど、やるからには無駄は省きたい。
だから、桐原にも協力してもらいたい」
「私に?」
「ああ。
魔術に目覚めた時の事とか。
今までの研究で、何が魔術に目覚める要因なのかとか。
桐原が身につけていた技術も教えてほしい。
少しでも参考になるものが必要なんだ」
言われてため息を吐く。
「それは構わないけど。
でも、参考になるか分からないよ。
あくまで私の場合でしかないんだし」
「構わないよ。
それを踏まえて考えるから」
そう言ってあらためてミサキを見つめる。
「だから、知ってる事を教えてくれ。
それだけでいい」
「はいはい」
気のない返事をしながらも、ミサキは知りうる事を喋りはじめた。
ヒロタカの顔がモンスターを相手にしてる時のような真剣なものだったのが大きい。
他の話もよろしく
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
http://ncode.syosetu.com/n7595dj/




