4話 事業計画といえないもんですが、とりあえずこんなつもりです
「モンスターによりますが、おおよそ一体七百から八百銅貨。
これを一日一百体も倒せば銀貨七枚八枚にはなります」
「それだけ倒すのは、かなり大変だぞ」
「ええ。
だから魔術師です。
支援があれば何とかなります」
「だが、それでは人件費に届かない」
「全くその通りです。
ですので、この二倍三倍を倒す事を目標にします」
「どうやって?」
「そこで、装備への出資です」
「先ほどの銀貨十枚以外にも?」
「はい。
当面の間は装備への強化魔術をかけていこうかと。
だいたい、一日銀貨十枚もあれば良いでしょう」
「それだと、一日二十銀貨になるな。
かなりの出費だぞ」
「赤字ですね、最初は」
最初、と言葉を加えた。
「俺には剣術などの素養がありません。
訓練など一切してこなかった。
だから技術レベルは全くありません。
それを補う必要があります」
「まあ、魔術の助けを借りればどうにかなるだろうが。
しかし、そんな事続けるわけにはいかんぞ」
「一ヶ月」
「なに?」
「一ヶ月くらいでそちらは大丈夫かと」
ヒロタカは自信をもって宣言した。
「一日二百も三百も倒していれば、レベルは上がります。
一ヶ月もすれば、自力でどうにかなるくらいにはなってます」
そこが狙い目だった。
ただ倒してるだけではない。
倒せば経験値が手に入る。
経験値があればレベルが上がる。
そうなれば、魔術による支援が無くてもモンスターは倒せる。
魔術による付与をしてもらうのはそこまでで十分だった。
「だが、それ以降はどうする?
魔術なしで…………いや、魔術師を連れて行くのか」
「はい。
もちろん、最初から魔術の支援も期待してますが、本当はそれが目的じゃありません。
そちらも一緒にレベルが上がってるでしょうから、こちらを支援する魔術を成長させてもらいます」
相手の意志は完全に無視していた。
「それも合われば、一ヶ月で自力でやっていけるようになるかと。
そうなれば、一日十銀貨も目処がつきます」
「それで、出資か」
父は笑うしかなかった。
ヒロタカの話によれば、一ヶ月およそ四百銀貨の投資で回収が見込めるようになる。
全てが上手くいけばであるが、これは悪くないものだった。
「しかし、そこまで上手くいくと思ってるのか?」
「思いません」
ヒロタカははっきりと答えた。
「そうそう思い通りになるなら何も苦労はしません。
ですが、これだけ準備をして駄目なら、何をしても無駄でしょう。
あとはやるかどうかです」
「まあ、確かにな」
今までの人生を父は振り返った。
安全策は用意したが、それでも危機を回避する術は無かった。
何かしら不安はつきまとったが、やるだけやって結果を出してきた。
成功率を上げる努力はするが、万全完璧など望んでも手に入らない。
そんな事で躊躇ってるよりは、多少の無茶や無理は承知で事に挑んできた。
今もそんな時かもしれないと考えた。
「分かった。
それでは、銀貨一千枚を用意しておこう」
「え?」
その発言にヒロタカが驚いた。
「何事も計画通りにいくわけではない。
出費や費用は後からドンドン増えていくもんだ。
とりあえず想定の二倍は用意しておいた方が無難だ」
「確かに」
さすがだと思った。
伊達にのし上がってきたわけではないのが伺える。
(こっちも考えていた事だけど)
想定ギリギリの予算で全てが賄えるとは思っていなかった。
ある程度余裕を持っておきたいと考えてはいた。
まさかそれを父の方から言い出すとは。
(こりゃ失敗できねえな)
今の父は、親子として語ってるのではなく、商売人として話してるのだろう。
だとすれば、この銀貨一千枚の出資は確実に返済しなくてはならない。
滞らせれば、命を失うだろう。
それで済めばまだ良い方かもしれない。
「それで……」
最後の確認として、ヒロタカは一つ尋ねた。
「利率はどれくらいで貸してくれるんです?」
「そりゃ、決まってるだろう」
父はニヤリと笑った。
「無利子・無期限・無担保だ」
「はい?」
意表を突くどころではない。
「なんで?」
「なに、何となくだな。
これは商会の金ではなく、儂の金でやりくりするもんだからな。
貸し出す条件など、こちらで決める。
それだけの事だ」
「それはそれは……」
何と言って良いのか分からなかった。
「ただまあ」
「うん」
「母さんに顔だけは見せに来い。
心配するだろうからな、冒険者をやるなんて言って」
「ええ、分かりました……」
さすがにこれは断る事は出来なかった。
18:00に続きを出す予定。
とまあこんなもんを思いついたので書いてみた。
出来映えについては何も考えてない。
ただ、読んだ人の反応が気になるのも確か。
笑ってくれてればありがたい。
メッセージなどでそのあたりを聞かせてもらえれば。
それと、他の話も更新してるので、そちらもよろしく。
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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