37話 地味なものだが、与える影響がどうなのか知りたい
「一般教養そのものは、確かにさして役立つものじゃない。
あってもなくても同じと言われてる」
ヒロタカもそれくらいは知っている。
実際、知らなくても困らないような知識や情報がこの技術で手に入る。
「けど、それが考える土台になっていくと思うんだ。
ありとあらゆる事のね」
「どういう事ですか?」
新人達は更に続きを求めていく。
「みんなは今、次に何をやるか、これからどうすればいいかって考える時どうしてる?
頭を使ってるとは思うけど、答えが出るまで時間がかかってないかな?
例え答えが出ても、実行する時にかなり手間取ってないかな?」
「まあ、確かに」
「そりゃあそうですけど」
戦闘については技術レベルが上がってるので手間取るような事は減っている。
しかし、それ以外の部分では結構無駄な動きをしてしまっている。
「それは、基本的な情報が無いからだと思うんだ。
情報や知識がないから、何を考えていいのか、何を基準にすればよいのかが分からない。
だから、最初から当てずっぽうでやるしかなくなっている」
これは言われてる者達はほとんど分かってないようだった。
仕方ない事である。
比べる事が出来ないなら効果は実感しにくい。
しかし、出来るならこれを成長させてもらいたかった。
そこは彼等の性格にかけるしかない。
だが、意外な所から申し出がでる。
「だったら、あたしが上げてみましょうか?」
ミズキが手をあげた。
「あたしならあと少しでレベルが上がるからやってみます」
「でも、他の技術はいいのか?」
「ええ。
世話や調教の技術はもうレベル2になってるから。
他のに目を向けても大丈夫だと思いますよ」
その言葉通り、もともと動物に接していたミズキの関連技術はそれなりにあった。
ここで多少寄り道しても大した問題にはならない。
強いていうなら、戦闘におけるクロスボウの技術を上げるのが遅れるくらいだろう。
彼女も戦闘開始直後の先制射撃を行っている。
そちらの成長をさせたほうが便利であろう。
どれだけ短縮出来てもレベルアップに時間はかかるし、出来るだけ無駄は省いた方がよい。
だが、わざわざ申し出てくれているのはありがたい。
「じゃあ、頼むよ」
申し訳ないとは少しは思ったが、好意に甘える事にした。
「はーい」
その返事から十日も経たずにミズキのレベルアップが訪れる。
宣言通り、一般教養のレベルを1にしてくれた。
それから一日二日と経過しても、特段大きな違いは見えなかった。
ミズキの行動はいつも道りで何かが変わったわけではない。
一緒に居るときは何かと目を向けて様子を伺っていたが、変化があるようには見えなかった。
三日四日と経ってもそれは同じである。
しかし、御者は「いやはや」と言って感心していた。
「あのレベルアップから、動きが変わりましたね」
「へ?」
思ってもいなかった言葉である。
「いや、何がどうとは言えないんですが、とにかく前よりよく気がつくようになってますよ。
動きに無駄がないというか、考え込む時間が短くなったというか。
一つ一つの動きには大した違いはないですが、手が早くなってます」
「そんなに違うの?」
「ええ。
前より準備にかける時間などが幾らか短くなってますから」
そういうものなのかとヒロタカは思った。
だが、この道何十年という御者が言うのだから間違いはないだろう。
ついでとばかりにミズキにも聞いてみると、
「ああ、そうかもしれないっすね」
と答えてきた。
「前よりも、こっちを先にした方がいいとか、これは後回しでいいとか思えるようになりましたし」
「へえ」
そういう風に考えてるとは思わなかった。
目で見える部分ではないので気づかなかった事である。
「やり方は前から知ってる事ばっかりなんですけど、何からやればいいのかが分かるというか。
なんか不思議な感じです」
「やっぱり、一般教養のレベルが上がってから?」
「だと思います。
はっきりとは言えないですけど」
どうしても曖昧な答えになる。
本人にもはっきりとは分からないのだろう。
レベル1程度では目立った違いは出てこないのだから。
しかし何かしらの影響はあるようだった。
ただの気のせいかもしれないが、それが明確な違いとするなら、変化があらわれたのはまさにそこである。
それがミズキの何かを変えたのだろう。
一般教養そのもので各種の技術のレベルが上がったわけではない。
ただ、それらの技術を適切に用いるタイミングや順番を考えられるようになってるようではあった。
そう考えるきっかけや土台を作ったと思われる。
最低限必要になる情報があり、それを元に考える、あるいは考えた結果が備わってきてるのだろう。
だとすれば、これはこれで有用な技術だった。
(学校で一番に教えるはずだ)
学問は細かな専門分野があるが、それらの前にどの分野にも属さない一般教養を学ぶ。
それは直接的には何に効果もないものなので、何の為に身につけるのか分からなかった。
しかし、他の者達を見ていて何となく感じていた。
それを持ってるミサキと持ってないアオイや三人組、ミズキでは何かが違うと。
専門的に持ってる技術においては適切な行動矢考え方をしている。
だが、それ以外の部分との繋ぎというか連携となると、これが全くかみ合ってない事があった。
その違いは何かと思った時に、出て来たのがこれだった。
実際にどこまで効果があるのかは分からないが、やはり身につけてると何かが違うようである。
(こりゃ、この先誰もに身につけさせた方がいいのかな)
幸い、レベルアップにさほど手間はかからない。
であるならば、戦闘技術を身につけた後にこれをおぼえさせた方が良いかもしれなかった。
実際、ミズキを見ていた三人組は、その後のレベルアップで一般教養を身につけた。
特に大きく何かが変わったようには見えなかったが、戦闘における動きに違いが出てるように思えた。
気のせいかもしれないが、あえて効果があったと考えておきたかった。
明日も20:00に公開予定
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「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
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