36話 さすがにそれは気が早いというものではないでしょうか
「お前の言い分は分かった。
そちらも手をうっていこう。
だが、さすがに簡単にはいかんからな。
時間がかかる」
「仕方有りません。
それでも、着手するのが早ければ今後の展開も楽になりますし」
「そうだな」
こうして目標と方針が決まっていく。
一つの目的を達成する為の布石として。
すぐに実現する事は無いが、時間をかけてそれらは進められていく。
「他に何かしておく事はあるか?」
「あるとは思うのですが、すぐには思いつきません。
でも、きっと何かが足りなくなるでしょうね」
「そうだな。
準備や計画段階では気づかないものだ」
「父さんから良く聞かされましたよ。
だから、これで完璧なんて偉そうな事は考えないようにしてます」
「うむ、そうか。
そう言ってくれると嬉しいな」
父はまたも「ガハハハハ」と笑う。
嘘ではない。
これまでの人生において、父は経営や運営について何かしら言い聞かせてきた。
それらの全てを覆えてるわけではないが、いくつかは頭に残ってる。
だが、それ以上に前世の記憶からの反省もある。
教訓はありがたくいただくが、体験もまた貴重な情報である。
それらを等しく大事にしていきたかった。
「ところで、小屋を造るついでに、お前の家も造ってしまおうか?」
「え?」
「ほら、女の子が増えてるじゃないか。
その子達と一緒に住み込んでしまえばいいんじゃないかなーと……」
「…………」
「なんだその冷たい目は。
お父さんはお前の将来を考えてだな」
「考えて何をどうするつもりなんですか?」
「うむ。
将来のお嫁さん候補を集めておくことで、一日も早く孫の顔を見ることが出来るんじゃないかと」
「父さん…………」
「だから、そんな残念そうな顔をするな。
ただ心配してるだけなんだ。
お前は真面目で仕事もがんばっている。
けど、それで女の子と知り合う機会がないんじゃないかと」
「お心遣いはありがたいのですが……」
「そんなお前だが、今は周りにいっぱい女の子がいる。
この機会を逃してはいかんと思うのだが」
「それは、経営的な判断でしょうか?」
「もちろんだ。
家族運営や経営という観点から、素敵なお嫁さんは必須だ。
母さんのような、という贅沢は言わん。
しかし、母さんのようなすばらしい女を捜して見つけて手に入れるのだ」
とりあえず、母が女性の選択基準であるのは確かなようだった。
「そんなに母さんが良いんですか」
「もちろんだとも。
長年連れ添うことが出来て、お父さんは幸せだぞ」
「はいはい……」
仕事の話が終わったと思ってか、父はいつものように話し始めた。
仕事に関わってる時は厳しい所も見せるが、普段のこういった愉快なオッサン的な部分もヒロタカは気に入っていた。
愉快すぎても面倒になるので、ほどほどのところで控えてもらいたいとは思っているが。
裏で愉快な陰謀を繰り広げていても、表ではいつも通りの日常が待っている。
ヒロタカが森にモンスター退治に出向いてる間に父が色々と進めている事だろう。
だが、そんな事はさておき、昼間は昼間の作業をしなくてはならない。
レベルが上がっていってるとはいえ、まだ確実性に乏しい状況である。
更なるレベルアップに勤しまねばならない。
新人三人にミズキも次のレベルが見えていく。
遅れて入ったミズキはともかく、先に来ていた三人は初めて一ヶ月半でレベル3になろうとしていた。
宏隆達がモンスター退治を初めてから三ヶ月余りの頃である。
、
「それじゃ、レベルアップだ。
悪い事は言わないから、使ってる武器のレベルを3に上げておけ」
「「「はい!」」」
三人は従順に返事をした。
当初からそれを狙って集めていただけに、反抗的な態度は一切とらない。
下手すると自分の意志がないんじゃないかと疑う程である。
とはいえそれこそロボットか何かのように命令を実行するだけというわけではない。
基本的に良識的で、内容が明快なことと理不尽に言い分が無いなら言う事を聞いているようでもある。
疑問に思った事はきいてくるし、おかしいと思った事にはやんわりと意義を唱える事もある。
人間としてもっとも備えておいてもらいたい事はしっかりと身につけてるようだった。
「じゃあ、レベルアップを。
次からはある程度自分で考えて成長させていっても大丈夫だ」
「「「はい」」」
「ただし、出来れば身につけてもらいたいものがある」
「身につけてもらいたい事?」
「なんですか、一体」
わざわざ口に出してくる容貌に、三人は興味を持ったようだ。
「一般教養の技術だ」
その内容に三人は目を丸めた。
一般教養は文字通り世間的な常識に関わる技術である。
簡単な読み書きや計算にはじまり、生まれ育った地域の簡単な来歴などが含まれる。
また、世間における約束事などもまとめた技術だ。
考え方の基本とも言うべきものである。
学問というほど専門家されてるわけではなく、むしろ雑学に近いものがある。
幅広く、極端なまでに浅い知識と言ってもよいだろうか。
わざわざそんなものを身につけてどうするのかと誰もが思った。
だが、ヒロタカは違った見方をしていた。
明日も20:00に公開予定
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
http://ncode.syosetu.com/n7595dj/




