35話 目先の問題解決と先々への布石が一致しているのが良い
「周旋屋?
買い取る?
どういう事だ?」
「これからを考えての事です」
ヒロタカはいつも通りに自分の考えを伝えていく。
「今、我々に足りないのは色々ありますが、何よりも人手が足りない。
技術者も。
これでは急激な拡大についていけません」
「そうだな」
「ですが、周旋屋ならその人材を確保しています。
まあ、大半は使い物になりませんが」
「なかなか辛辣だな」
「残念ながら事実ですので。
彼等が怠けてるわけではありません。
そういう者もいますが、真面目にやってる者もいます。
ただ、レベルが足りない者が多い」
やむなき事である。
モンスターを相手にしてレベルアップするのは危険が伴う。
一般的な作業をしてレベルアップはそれよりも遙かに遅い。
どうしても周旋屋で仕事を受け取ってる者達のレベルは低いところに留まりがちだ。
とはいえこれは彼等だけの事では無い。
一般的な商店や作業所などでも成長速度は同程度である。
ただ、同じ仕事を回すなら、当然ながら社内の人間を使う。
その分周旋屋に回る仕事は減る。
もともと突発的な人手不足を補うための臨時雇いをまかなう仕事だ。
継続的な仕事があるわけではない。
それがまた経験値を手に入れる機会を減らしていく。
結果として、レベルの低い人間が多くなってしまう。
例外はモンスターを相手にする冒険者だけである。
「ですが、人間はいます。
これから一番必要になる部分です」
「そうだな」
「レベルの低さは経験を増やす事で補えます。
あまり多用したくはありませんが、強制的にモンスターの退治に付き合わせれば良い。
技術的な部分については、多少は改善出来るかと」
「ふむ」
「あと、様々な所から人を引っ張ってくる場合の隠れ蓑になります。
我々が人を集めると、どうしても業務内容にどう関わるのか注目されます。
それが今後の展望を感づかせる事にもなりかねません。
余計な茶々を入れたり、手柄の横取りを考える者も出てくるでしょう。
それだけは絶対に避けねばなりません」
「それで、周旋屋の買収か」
「はい。
会社ごと買い取れれば今後の作業がかなり楽になります。
どれだけ人が増えても外部に漏らさないようにすれば良いですし。
まあ、箝口令はそうそう上手くいかないでしょうが、ある程度抑えられればそれで良しとしましょう。
今だと、全てが漏れる事になりかねませんし」
人の口に戸は立てられぬ。
それを多少は押さえ込む事が出来れば御の字だと考えるしかない。
「それに、即戦力としての冒険者も欲しい。
先々はともかく、今はとにかく手が足りませんし」
今の所一番頭の痛い問題だった。
今の調子だと、それなりにレベルに到達してる者の数を確保するのに一年くらいはかかる。
かなりのハイペースなのだが、もう少しそれを上げておきたかった。
「それに、ささやかながら意趣返しも考えてます」
「意趣返し?
誰にだ」
「我々の商売を邪魔してくる連中に」
そう言ってヨシフミは意地の悪い笑みを浮かべる。
「なんだかんだ言って、臨時の人手として周旋屋の労働者は期待されてます。
それらを低賃金で確保して作業をさせる事で回ってる所もあります。
ですが、その人手が他にとられたらどうなるか?」
「困るな、普通に考えて」
「ええ、困ります。
だからこそ意趣返しになります。
我が家の商売を邪魔してくれてる連中に、ささやかながらやり返す事ができるかと」
成り上がりだけに他の競合者からの圧力や拝上は当然のようにある。
それでもおこぼれのような死後をまとめ上げて今にいたる。
上手く隙間に食い込んでいった事もある。
そういった様々なやり口へのささやかな仕返しであった。
「いきなり仕事を断るわけにもいきませんが、少しずつ仕事を受け付けないようにしていきましょう。
その為にも、こちらの仕事を軌道にのせめばなりませんが」
「なるほどな。
そうなれば面白い事になるだろうな」
「ええ、楽しみです」
「まったくだ」
そういって父は笑う。
ヒロタカも笑う。
どちらも同じように邪悪な笑顔を浮かべ、悪魔のような笑い声を上げていった。
「クククククク」
「フハハハハハ」
明日も20:00公開予定
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
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ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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